153話 異常を狩る者
幸運。
フォルトナの持つ、いや、たまたまフォルトナという器を持つ事に至った概念。
それは己の乗り物たる彼女の生存を確立するために性能を発揮する。
だが、それは文字通りの運任せ。
人知竜がフォルトナの命を脅かせばそれを覆す為に、耳の怪物が運よく人知竜の封印から早期に抜け出すように設定した。
しかし、次はその運よく再復帰した耳の怪物がフォルトナを脅かしている。
人知を超え、超越すら凌辱する理外の怪物。
その存在が、今、フォルトナの命を奪おうとしている。
幸運の権能は、ただ当たり前に再び機能を作動した。
生存、生存、生存、生存。
何度も何度も、神なきこの世界で、神の見えざるサイコロを振り続ける。
【幸運:自動発動:対象の事象:耳の怪物に対抗できる事象を検索】
【塔級冒険者:判定失敗。超越者:判定失敗、竜:判定失敗……】
いない、いない、いない。
この世界のどんな存在でさえ、目の前の耳の怪物を葬る事の出来るモノがいない。
一点のみ――【炎竜】――一瞬出てきた選択肢。
しかしそれはただの機能である幸運ですら、手を出してはいけないアンタッチャブル。
幸運は、ソレに対抗する為に世界が産んだ権能だ。
だが、ソレが未だ微睡んでいるという最大の幸運を投げ出す事は出来ない。
幸運はその焔の誘惑を払い、新たな可能性を
【検索検索検索検索:探・索・者・――判定】
耳の怪物に対抗できる要因――その可能性が最も大きかった存在を発見する。
この世界にいなかったはずの要因。
別の場所からやってきたイレギュラー。
幸運は驚愕する、”探索者”。
この場で最も弱く、最も脆い存在こそが耳の怪物へ最も有効な存在だった。
フォルトナの器を超えて作動する幸運は、その男をこの場へと招いた。
幸運にも、遠山を瞬時にこの場へと送る事が出来る女が、幸運にも遠山の前に現れたのだった。
「よお、お前の事知ってるぜ、有名な怪物種だ」
バケツヘルムにパーカータイプの探索者装衣、遠山鳴人。
「UNNNNN?? OH……」
上級探索者、遠山鳴人VS耳の怪物。
がちん。
的確に、耳の怪物の両足が千切れる。
ぽよんっ、ぷよんっ。
大きなお耳がぷてっと地面に倒れた。
既に、キリヤイバは耳の怪物の元へ展開されている。
加えて――幸運にも。
【VS Abnormal Combat System, initializing synchronization.
Compatibility with the system holder’s DNA information is progressing smoothly.
Analyzing relic aptitude and conducting explorer depth analysis.
Analyzing relic properties — dispersal of “mist-like slashes,” adjusting relic functions.
Adding mist control functionality for the relic holder.
VS Abnormal Combat System, optimal solution — continuing optimization of relic usage】
ぴぴぴぴぴ。
遠山の被るバケツヘルメットの目、スリット部分が唐突に赤く明滅し始めている。
「なんだ、ありゃ……あの呪いの兜、光って……」
元の持ち主であるウィスも、その現象を見た事はない。
その兜は、ただ、持ち主の行動や成長を阻害するだけの呪いの装備の筈だ。
しかし、遠山に押しつけられた装備は、遠山に進化を齎す。
この現象が起きた段階で、遠山はキリヤイバの微調整が可能になっていた。
的確に、まるで猟犬がハンターの意志に従うかのように、獲物の急所を狙っていく。
「OOOOOH! WONDERFUL!!」
耳の怪物は、一瞬で両腕、両足を斬り刻まれた。
ぷにぷにボディでころんころんと転がる事しか出来ない。
「お前の戦闘映像――アレフチームの味山只人の記録動画で見たぞ。恐ろしいのはずっとずっと前進してくることだ。なら、まず足を奪う。腕も伸ばせるんだろ? 腕も奪う。そんでそのまま斬り刻み続けりゃ……どうなるんだ?」
「O~H! NICE」
ずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずず。
濃い霧、真っ白な繭にも見紛うそれがころんころんと転がる耳の怪物を包む。
それ全て、遠山にコントロールされた斬撃を伴うキリ。
激しい戦闘も、英雄的な戦いもない。
ただ、効率的に怪物を殺し、資源を回収する、探索者として洗練された駆除の手順を遠山は踏んでいた。
「O~~~~~~~~~~~H!!! FUUUUUUUUUCCCCCCCCCCCKKKKKKKKK!!
斬撃の繭に包まれ、耳の怪物は動けない。
そして、その隙に――。
「とお、ヤマ、く、ン?」
「……」
傷付いた人知竜の元に遠山が歩く。
フォルトナとウィスは動けない。
その男の牙は容易に自分達にも届くと気付いていたから。
「い、いや、み、みない、デ……こん、な、姿、す、ぐ、すぐっ、すぐっ、元の、姿に、戻るからッ」
その竜は、醜い己の姿が嫌いだった。
過去、敗北によって世界を燃やす竜に焼かれ尽くしたこの竜体。
恥じる事はない、しかし、目の前の彼、遠山鳴人にだけは、見られたくなかったのだ。
「お願いお願いだ、遠山、クん! ボク、ボク、君を騙していたんじゃないんだ……! 怖いよね、醜い、よね、ごべん、ごめんね、僕は、ボクはただ、君に、嫌われたくなくて、ごめん、ごめんなさい、見ないで……お願い、おねがいだ」
ぼろぼろと涙を流す人知竜。
どれだけ耳の怪物に嬲られても流れなかった竜の涙をボロボロと。
「嫌いに、ならないでぇ……」
その竜は、それだけを恐れて。
「……かっけえ」
「……え?」
「人知竜、いや、アイさん。ドラゴン形態、めっちゃシブいじゃないすか……」
遠山の目は、人知竜が見た事ないほど輝いていた。
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