147話 耳の怪物VS幸運&英雄VS――
げらげらげらげら。
歪み続ける耳穴はまるで、その化け物がどこまでもどこまでも嗤い続けているように見える。
ぼとぼとぼとぼと。
空中で弾けた不死鳥の頭の肉片が時間差で落ちてくる。
ぽよん、ぽいんっ。化け物の大きな耳たぶが肉片を弾いていく。
「ウィス、今、あの化け物、何か喋ってませんでした……?」
「さあなァ、だが、何を言ってるのかはわかんねえけど、何が言いたいのかはわかるぜェ」
耳の耳穴がぐねり、くの字の歪んで。
「LETS PLAY!! YA-HAー!!」
「てめえらぶっ殺すってよお!!」
しゅんっ。べき、べききき。
ウィスが地面を踏みしめ、砕く。
耳が地面を踏みしめ、砕く。
両者の行動は同時に起きる。
がき、じゅぐううううう。
「――ッ、なんっで斬れねえんだよ!!」
「NAMAKURA GYAHAHAHAHA!」
ウィスの予備の剣と、耳の耳たぶが激突する。
上段から振り下ろされた剣、真横に薙ぐように振るわれる耳たぶ。
冗談のような鍔迫り合いだ。
「ウィス!!?? 何やってるの!? 耳たぶ斬れないの!?」
「うるせええ!! 言葉にするなァ!! 悲しくなってくるだろうがァ!」
蒐集竜との戦いにより、ウィスもフォルトナもそれぞれ片腕を失う羽目になっている。
自分は、まだいい。負傷には慣れている。
だが、主は別だ。
理から外れた権能を持つ女だが、その肉体は脆弱。
早く治療しなければ、死ぬだろう。
「てめえに時間かけてる場合じゃねえんだよォ!!」
焦りからくる怒声。
凡百のモンスターなら気迫だけで退かせそうなそれ。
だが、しかし――逆効果だ。
「OH……serious? HMMMMM、OKOK! ――weakness found」
「!?」
今、ここにいるのは、耳の怪物。
怪物なのだ。
言葉を話さず、理解不能で、不死身。
そして――。
「え?」
「HELLO」
ヒトが嫌がる事をする天才だ。
ドロリ、鍔迫り合いの態勢から一気に体を軟化させ、地面を這うように動く。
弱い方から狙う。
ウィスの反応から、目の前の獲物達の関係性、戦闘の手順を理解。
女の方も負傷している事を理解した耳の怪物が狙いを、フォルトナに変える。
「ッ! フォルトナァ!!」
「――ッ」
フォルトナとウィスの取り決め。
ずっと2人だけで戦い、殺し続けてきた2人はあるルールを決めていた。
基本的に、ウィスがいればフォルトナに戦闘で危険は及ばない。
だが、ウィスが護り切れない、そう感じた緊急事態だけは、名前を叫ぶと。
「――っ!! 幸運にも――」
フォルトナは目を見開き、自覚的に操れる事になった己の”幸運”をフル稼働する。
姉との国を賭けた殺し合い、竜殺しとの戦い、そして蒐集竜との決闘。
絶え間なく押し寄せる戦闘の潮流の中に居続けたフォルトナは、今、まさに成長している。
幸運を自覚的に操るだけでなく、それを最大限活用できるタイミングまで、聞こえてくるほどに。
【あなたは幸運に愛されている】
【あなたは幸運の使用タイミングを意識的に操れる】
【あなたは幸運をいつ使えばいいのか理解した】
【幸運を使用してください】
どろっ。
みずからの身体をスライム化けさせた耳の怪物がフォルトナに襲い掛かる。
でかい耳だけが、潜水艦の潜望鏡のように地面に浮いて――
「GYAHA」
「幸運にも――あなたは流動化の解除方法を忘れる」
フォルトナの緑の瞳が怪しく輝く。
「OH!」
びきっ。
急に耳がその肉体を痙攣させた。
耳が本能で知っている己の性能、それの使用方法を、たまたま忘れた事による動作障害。
耳の必殺の一撃からフォルトナが逃れる――これなら、いける。
だが、フォルトナはこの瞬間まで気付けなかった。
「ウィス、これなら私は、もっともっと先へ――この世界すら、この幸運で――」
幸運の使用のタイミングが理解できる、それはつまり――。
【幸運を使用してください】
【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】
「え――?」
――幸運を使わなければいけないタイミング――己の死の危機が全て可視化されてしまう事に。
「GYAHAHAHAHAHAHA」
【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】
「ひっ!!」
幸運が発動。
耳の怪物が、振るった大耳の一撃をたまたま尻餅をついたフォルトナが躱す。
「OH GOOD LUCK!! AHA!」
【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】
「い、嫌、嫌ァ!!」
幸運が発動。
耳の怪物がぽこりんと膨らんだ腹から10本の腕を生やし、フォルトナを引き裂こうとするも、たまたまそれが全部絡み合い、フォルトナに届かない。
「あ、あ……」
完全に、フォルトナは気付いてしまった。
幸運さえなければ、気付かないで済んだのだ。
この怪物は、危険すぎる。
その一挙手一動が全て死に繋がるのだ。
「hmmmmm」
【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】
「ひうっ!」
もはや、耳たぶがぷよんと揺れただけでも、どこで殺されるか分からない。
今、ようやくフォルトナは気付いた。
自分達は決して喚んではいけないものを呼んでしまったのだと。
「バカ姫ぇ!! どけっ!!」
「ウィス!!??」
すっ飛んでくるウィス。
その予備の剣が、青白く輝いていた。
成長しているのは、フォルトナだけではない。
英雄の家に代々継がれてきた宝剣でなくとも、英雄が握れば、それは月の光を携えた剣となる。
「呼んでおいて悪いンだがよお、死んでくれや、化け物」
「OH」
ずしゃっ。
竜の絶対防御の焔すら貫く、その青白い輝きが、耳の怪物を一刀両断した。
ぱたっ。
綺麗に2分割されて左右に割れて倒れる耳の怪物。
「ウィス、今のは――」
「はあ、はあっ、へへ、まあ、アレだァ、幸運にも、てなァ……」
ウィスの一撃により、怪物は斃された。
そう、斃されたのだ。
英雄が怪物を殺した。そう、そう、そう。
どんな怪物でも真っ二つにされれば、生きているものなど存在しない。
そのはずなのに――。
【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】【幸運を使用してください】
【幸運を、使用してくだGYHAHAHAHAHAHAHAAHAHAHHAHAHAHAHAHAHAHAH!!!!!! Hurry up!Hurry up!Hurry up!Hurry up!】
「ウィス!!!!!!」
「あ――おい……なんだ、うそだ――」
ぼっ。
みししししししし、ぼきききき。
ウィスの身体がぶれ、物凄い速度で地面を転がっていく。骨が砕ける音が遠くに流れていった。
「OH!! Shoot the ball into the goal!」
「It's super exciting!」
ぱちん。
真っ二つになった耳の怪物が文字通り、真っ二つのまま、ハイタッチをしていた。
そして、ハイタッチしたまま、ぐにょん、ぐにょんと互いに溶けあい、混ざり合い。
「It seems to be ineffective」
元通り、再生。
怪物は、不死身なのだ。
「う、ぐ……なん、だ、こいつ……」
一撃で骨を10本以上砕かれながらも、ウィスが立ち上がる。
その強靭な英雄の肉体が彼に、安易な死を許さない。
逆を言えば、彼でなければ今ので死ねていた。
フォルトナは、理解した。
もう、皇帝を狙うとか、帝都に向かうとかそんな問題ではない。
もう何をしても殺される。
わかるのは、それだけ。
だが、まだ、まだだ。
まだやれることはある。
「幸運にも!!!!!!!!!!!」
最大の力を使用しての幸運。
その結果、ああ、幸運にも幸運は正しく機能した。
耳の怪物から、運よく生き延びたい。
耳の怪物をなんとかしたい。
耳の怪物を幸運にも斃したい。
そんなフォルトナの本能を、正しく幸運は汲み取った。
世界の法則をゆがませるその力、
空間が、歪んだ。
だが、暴走した幸運はフォルトナの支配から抜け出し始めた。
ただ、耳の怪物をどうにかしたい。
そんな願いを、幸運は――この世界はこう解釈した。
――耳の怪物に対抗可能な存在が、幸運この場に現れる、と。
「――すぷぷ」
黒いローブ、黒い三角の魔女帽子、美しい銀の髪。
それは――アガトラに最近現れたもう1体の――竜。
この祭りにおいて、まずはじめに、幸運によって国外に追放された恐るべき、上位生物。
「これは、懐かしい顔だねえい――いや、耳か。まあいい、君の方がアレよりマシだ。よかったよ、男の方じゃなくてさ」
心底安心したような声。
彼女には大きなトラウマがあったが、今回はぎりぎりセーフ。
「やあ、バベル島以来だねえい。クソ化け物」
こつっ、こつっ。
魔術紋の向こうから、優雅に現れたのは――
「Who is it?」
「人知竜」
その暗い美竜が涼やかに答えた。
「君を殺す部位――いいや」
「竜の名前だ」
読んで頂きありがとうございます!
2025年8月25日、現代ダンジョンライフの続きは異世界オープンワールドでの漫画6巻が発売されます!
ここまで続けてこられたのも読者様のおかげです。
引き続き、本シリーズをご覧頂ければ幸いです!
↓公式サイト
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