鍵はきちんと閉めること
僕の仕事は、心理カウンセラー…の逆をする仕事だ。
彼らが人の心を癒して、耳を傾けて、少しずつ受け止めていって、やがて、やがて、として、心の鍵や扉を開いて、ほぐしていくのに対して、
僕は、閉める。
カウンセラーは高い金を取るが、僕はボランティアでやっている。
今、目の前には、はつらつで、笑顔が素敵で、誰にも優しい彼女。
僕は、彼女の心の扉を閉める。
彼女は、無理をしていた。
明るいのは人を楽しませたいから。
笑顔は、それが一番人を不愉快にさせないから。
優しいのは、ただ、にじみ出ているから。
彼女は、全てを開け放ち、その心は、狭いながらも人がたくさんやってくる、さながらパーティー会場。
いつも彼女はホスト側。
人は簡単に入ってきて、散らかして、彼女はやっとこさ掃除をして、綺麗にしたとこにまた人が来て。
僕は、企業秘密の方法で、彼女の扉を閉めて、鍵をした。
いくらかの人に合鍵を渡して。
彼女は、今も変わらず普通に暮らしている。
扉を閉める前にすること。
扉の前に、インターホンをつけて、それから、カーテンを全部開けて、光がたくさん入る部屋にしておくこと。
彼女は、普通に暮らしている。
友達が少し減った。
一人飯ができるようになった。
映画館や美術館によく行くようになった。
それらはまぁ、副産物で。
何より、僕は、これが肝心だと思う。
鍵のかかった扉を、たまに自分が、自分の意思で、開けて外へ出ること。
心の扉を開いても、その中の心が皆に見えるだけ。だから、嘘だらけの家具。
扉を閉めておいて、好きな時に自分で開ける。
そうしたら、心は、自由にお出かけできる。
レジャーシートと、おべんと持って。
公園で、おてんと浴びて。
ピンポーン。と友達。
今日は気が乗らないから、ごめんね。
でも、また次の日曜日に、また誘ってね。
彼女は、その時、半歩だけ、扉の外に出ていた。
僕は、吹けない口笛を、鳴らしながら、ちんたら歩いた。
自分の扉の鍵を無くした僕は、自由だ。




