第33話 それぞれの夜
シェナを見送った後、ライゲルはその場に膝をついた。どうしてここまで大規模な破壊を起こしてしまったのか。元々教団の上層部と子供たちに、性的虐待を行った商会、銀行の連中。確かに大半の商人代表、銀行員を殺害したがその過程で、自分勝手に、思いのままに破壊と殺戮を行ってしまった。衝動が抑えきれなかった。
「ライゲル」
頭の中で声が響く。あの魔王がくれた精霊というものが入ってから、こうして思考に何かが割り込み始めた。
「御身はもう、人間ではない」
「知ってます」
「もはや人外の存在、破壊と蹂躙の権化であり、人に恐怖と混乱をもたらすものなのだ。人を憎め。そして殺せ。燃やせ。それがお前の教団への復讐になるのだ」
「そんなことをして何になるんですか」
「奴らの権力を強奪し、信者を力で従え生き血を啜るのだ。御身はもう悪魔なのだ。ここらを更地に変えてでも、支配の大地とするべきだ」
「……僕は、ここを潰すつもりはありません。あくまでも、子供たちのために.....」
「子供たちの居場所を潰すような真似をしてか?」
「……っ!」
ライゲルは拳を握りしめた。この精霊は自分の心の中を全て読み取っている。自分が弱いことも、迷っていることも。このまま自分の意のままに教祖を殺害すれば、たちまちアルビオン教団は崩壊するだろう。そうなれば、そこで暮らす信者たちは指導者を失い、調和を失い、幸せを失う。全部失う。得られる物は何もない。それはわかっている。
だが、ライゲルはそれでも復讐をやり遂げなければならないと思った。
「僕は必ず、教祖を殺します……頼らせてもらいますよ。もう、私がなすべきことはこれしか、ないですから」
「では早速、教祖を殺しに行くぞ」
「いえ....その前に、ちょっと....」
眠らせた子供たちの様子を見に行こうと考えた。先ほど捕まえた神官に記憶を消させ、眠らせた皆の寝顔を見て、ちょっと安心したい。
「教祖を殺しに行くぞ」
「……断ったじゃないですか」
「なぜだ?迅速に教祖を殺せば、教団の奴らに恐怖が広まり、御身に従わざるを得なくなるではないか!御身は教祖を超え、新たな神になれるのだ!」
「私は神になる資格などありません!あなたは結局、破壊することしか考えていないのにそんな大口を....!」
「黙れ!」
突然、ライゲルの全身に焼けるような痛みが走った。叫びそうになったが、唇を噛んで堪える。口の中に鉄の味が広がった。それだけ耐え難い苦痛。身体が、熱い。痛い。精霊が自分の体に入った時の痛みがそのまま再現されている。ライゲルの神経に精霊が根を張っているのでこうした苦痛を好きなだけ与えられるのだ。精霊に逆らえばこうなる。
「御身は弱すぎる。我が付いているにも関わらず教祖を殺せなかったのも、子供たちを優先するような精神の脆弱さのせいだ。もう我慢ならぬ。今すぐ教祖を殺しに行け。御身がそう決意せぬのであれば、この苦痛は止まぬぞ」
「ぐうっ……」
苦しむライゲル。しかし、抵抗を諦める様子はない。ライゲルは床に倒れ込んで苦痛に耐え続けながらも、地下へと向かうべく這い出した。早く子供たちの無事を確認したい気持ちが、彼を突き動かしていた。
「愚かなことを」
精霊の冷酷な声が脳内に響く。ライゲルは歯を食いしばり、炎が支配する熱い廊下を進んだ。彼の意識はぼんやりとしてきたが、強い愛情が、彼の手を前に出していた。廊下の両側には豪華な装飾が施されており、壁には聖人の彫像や宗教的な絵画が並んでいる。教団の威厳を感じさせるが、今のライゲルにとってそれはただの虚構にすぎない。どれもこれも、価値がないから燃えてしまえばいいのだ。
階段に差し掛かったところで、痛みが一層増し、動けないほどになってしまった。力を手に入れたにも拘わらず、まだこんなにも痛い。
「もう……止めて……くれ」
「ならば早く外へと出て、教祖を殺しに行くのだ」
「今は、ダメなん、です」
ライゲルがその時、不意に顎を持ち上げて虚空を見上げると、サイクロプスが佇んでいた。こちらをじっと見て、様子を伺っているようだった。
「サ、サイクロプス.....」
ライゲルはサイクロプスに縋ろうと思いながらも、果たしてこんな状態にある自分の望みを聞いてくれるかどうかわからず、苦悶に顔を歪ませるばかりだった。だが以外にも、サイクロプスは従順にライゲルを背負い、そのまま子供たちのいる地下まで向かった。精霊による苦痛は止まらないので、ライゲルは呻き、涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらも、サイクロプスの暖かい肌の感触が、ライゲルの心の安らぎとなった。
「ありがと……ございます」
サイクロプスは何も答えない。魔族と人間の言語は同じなのだが、彼は寡黙な性格の持ち主なのか、意思疎通が出来るかできないかさえもわからない有様だった。だがそれでも自分の意思をくみ取ってくれるあたり、聡明であると言えるかもしれない。
ようやく、子供たちが集まっている地下へとたどり着いた。あの忌々しい部屋に子供たちをとどめているのは本当に嫌なのだが安全な場所はここぐらい。子供たちを閉じ込めておかねばならないのだ。
地下道の天井から垂れ下がる蝋燭の光が薄暗く辺りを照らしている。その仄かな灯りの中で、あの厚い鉄扉は閉じられたままに見える。サイクロプスは静かに立ち止まり、扉を大きな掌でゆっくりと開けた。
「先生!先生な.....の?」
意外にも子供たちは起きていた。子供たちの目に飛び込んだのは、大きな巨人の足。誰かがドアを開けてくれたので、先生だと思って見に来たらこんな大きな巨人が現れたので驚き騒ぎ出す。
「な、なに!?先生じゃない!」
「キャー!!!」
少女の悲鳴が響く。サイクロプスは無表情で立ち尽くしている。彼の巨大な体は、まるで現実離れした存在のように彼らの視界を遮っていた。ライゲルは急いで前へと出て子供たちを宥めようと試みたが、精霊の苦痛によって自由が利かない状態にあるため、背中から降りて弁明するのも難しい。
「み、みんな落ち着いて!」
唯一事情を知るフェリアが慌てて仲裁に入る。他の子供たちはまだ混乱しており、不安と恐怖で身動きが取れない状況だ。サイクロプスは薄い木の板を割るがごとく垂れ壁を押しひらき、子供たちの前にそびえ立つようにして入ってきた。目も鼻も口も一つしかない巨人。明らかに人ではない何かに、子供たちは怯えてしまっている。サイクロプスは子供たちをじっと見下ろした。その眼は感情を表さず、ただただ静寂を湛えている。
「こ、こわいよお」
少年の一人が泣き声をあげた。ライゲルは痛みに耐えながらも、必死に声を絞り出した。
「みん、な……大丈夫……だから……」
「先生?どこにいるの?」
少女の一人が震える声で尋ねる。ライゲルはサイクロプスの背中から降りようとすると、サイクロプスが優しく彼を地面に置いた。痛みのせいで立ち上がることができないライゲルは、地面に座り込みながら子供たちを見上げた。彼らは恐る恐る近づいてくる。
「先生……先生なの?」
少年が涙を拭いながら問いかける。ライゲルは微笑み、少しでも彼らを安心させようと努めた。
「そう……だよ。変に見える?この格好」
「うん……変だけど、いいんじゃない?」
「どうしてそんな恰好なんだ?」
「実はね、聖誕祭で先生講演することになったんだ。そのための特別な服」
子供たちは少し落ち着きを取り戻し、ライゲルの姿を興味深そうに眺めた。彼の身に着けている赤と黒を基調とした特殊な礼装は、神秘的なのだが、アルビオン教の教会を模した教会で行う催事において全く場違いなものであった。
「先生、もっと教祖様みたいに白いローブの方が....」
教祖。その言葉を聞いた途端、ライゲルの体に走る痛みが更に強くなった。子供たちを傷つけまいと、歯を食いしばって耐える。教祖の名を聞くだけでここまで苦しむ。精霊が自身をせかしているのが伝わってくる。
「先生!先生大丈夫!?」
「うん……大丈夫」
「先生!」
子供たちが自分に触れようとするのを、ライゲルは手で制す。触れた瞬間精霊が何をするかわかったもんじゃない。下手すれば子供たちの命も危ないだろう。ライゲルは子供たちに向き直ると、自分の胸に手を当てて言った。
「これから皆にお願いがあるんだ」
「お願い?」
「うん……みんな、ここからしばらく出ていけないけど、辛抱してくれないか?外は今、すごく危険なんだ」
「なんで!?ひょっとしてさっきの魔族と関係してるの?先生はあいつに脅されてるとか....」
子供たちは不安げな表情でライゲルを見つめる。ライゲルは首を横に振った。
「違うよ。彼は私の友達だ」
「友達?魔族なのに?」
子供たちは驚きと疑念の入り混じった顔をしている。彼らにとっては、魔族はかつて人間に戦争を仕掛けた恐ろしい存在であり、そのような相手と友達になることなど想像もつかないことだった。
「そう。私は今、彼と手を取り合ってそれ以上の脅威に立ち向うんだよ。私たちの幸せを取り戻すために。だから種族の垣根を超えて、共に、共に生きて戦うことが大事なんだ.....」
ライゲルはそう言いながら、サイクロプスの方へと目を向けた。サイクロプスは変わらず無表情だが、少しだけ、ほんの少しだけその巨体が揺れているように見えた。
「それじゃあ、私たちはここで待っていればいいの?」
「うん。しばらくはここが安全だから、ここで過ごしていて欲しい。必要なものは私が持ってきてあげるし、彼を警備に当たらせる。絶対に、ここから出ないようにね」
「わかった」
「絶対戻ってきてね先生!」
「もちろん!皆を置いてくわけがないだろ?」
ライゲルは笑って誤魔化したが、内心不安だった。もし自分があの精霊に屈し、歯止めが効かない状態になれば、暴れ狂うことになる。子供たちは勿論のこと、アルビオン教の信者たちも皆殺しになる。それは避けなければならない。
「さて……サイクロプス、子供たちの安全をお願いしますよ?」
サイクロプスは特に反応しなかったが、部屋の前でジッと佇んでおり、確かに守ってくれているようだった。
「先生!」
フェリアが泣きながらライゲルに近寄る。顔が青くなっているので、これから起きることへの不安が募っているのだろう。無理もない、彼女はすべて知っている。ライゲルがここに来る前やった所業、精霊の危険性、教祖への復讐心。止めたい気持ちももちろんあるだろうが、それがライゲルにとって....自分にとっての希望でもある。複雑な心境を抱えていた。
「……頑張って」
後押しするしかなかった。フェリアはそう言って笑うしかなかった。他の子供たちも不安げではあったものの、先生が言うなら、と納得していた。それもまた不安なところではあるが、こうなってしまったら信じるしかなかった。
「ありがとう、それじゃ、行ってくるね」
ライゲルは笑顔を浮かべ、仕事へ向かう時のように子供たちに手を振ると、振り返ることなく廊下へと出ていった。地下は特に炎の影響はないが、階段を登って地上へ出ると変わらず火の海だ。中央聖堂はもはや無残な姿となっていた。
「……」
威厳と絢爛豪華さの象徴であったこのアルビオン教総本山の中央聖堂は、今や瓦礫と炎の荒廃の象徴と化していた。大理石の柱は崩れ落ち、色鮮やかなステンドグラスは砕け散り、金色の装飾品は溶け出し、かつての荘厳さは見る影もない。歴代教祖の石像は傾き、その幾つかは既に半分崩落してしまっている。火炎の渦はその勢いを増し、漆黒の煙と共に立ち昇っていく。その煙が空高く舞い上がり、天空の淡い藍色を汚染しているかのようだ。
ここだけで済めば幸運。ここからはもっと多くの物を燃やす。焼いてしまう。何もかも、焼き払ってしまう。入り口前の階段に座り、俯きながらバルフレイムを一体召喚した。増殖火炎魔人バルフレイム。炎の翼を広げ、ライゲルの命令を待つ。
「中央区以外の上空に、炎で今から私が言う事を掲げてください。内容は──」
なるべく最小限の破壊で教祖を殺す。なるべく穏便に。これが一番重要だが、同時に、それを成すのはあまりにも難しい。
●
南区、聖光教団本部。教祖ユージンは会議室の窓から生き残った主官や神官、他区区長やアルフレッドをはじめとする貴族神官とともに、窓から空を眺めていた。黒煙で染まった空に、赤く光り輝く文字が空に現れ、読めるようになった瞬間。教祖以外の者が一斉に嘆息を吐いた。
「大胆だなぁ、ほんとに.....」
アルフレッドは呆然とした顔で、自嘲気味に呟く。その横に座る主官マルグリットは冷静に見えたが、内心は激しく動揺している。神官たちは互いに目配せしながら、それぞれの思惑を巡らせていた。
『夜が明ける前に教祖ユージンを中央聖堂まで来させること。来ないのであれば、南区から灰に化していく』
宣戦布告とも取れるメッセージだった。下で見ている信者達はパニックになり、避難の準備をはじめる。
「いやあ……まさかあの南区区長ライゲルがこんなことをやってのけるとはねぇ……」
アルフレッドが半ば茶化すように言ったが、その声には一抹の緊張が滲んでいる。ユージンは拳を握りしめ、ただ一点を見つめ続けていた。その顔には焦燥と怒りが入り混じった複雑な表情が浮かんでいる。
「教祖様?」
「……っ!」
ユージンは小さく息を吐くと、ようやく顔を上げた。額には脂汗が浮かび、その瞳には未だに炎のような怒りが宿っている。テーブルの上で指を組み合わせると、近くにあったグラスを掴み、窓へと投げつける。ガラスが砕け散る音が会議室中に響き渡り、全員が驚いてユージンを見つめた。
「うおぉぉユージン様!?」
「クソが!!ふざけた真似をしてくれる!」
ユージンの声は怒号となり、部屋全体に轟いた。彼の顔は真っ赤に染まり、血管が浮き出ている。椅子から立ち上がり、机をひっくり返し始めた。書類やペン、花瓶などが次々と床に散乱していく。
「どうしてこうなるんだ!倫理にそれたことをしたのは確かだが!奴はその背景を何も知らないくせに、私を断罪するのか!!」
「落ち着いて下さい!」
マルグリットが急いで駆け寄り、ユージンの腕を抑えたが、彼は振り払おうと必死に抵抗する。
「離せ!離せと言っているんだ!俺は行く!奴を殺しに行くんだ!アルフレッド剣を持って来い!あとロックだ!ロックくれ!!」
「冷静になってください教祖様!まずは落ち着いて情報を整理し対処を考えましょう。このような無謀な行動に出るのは危険です!」
マルグリットの冷静な説得に、ユージンはようやく少しだけ落ち着きを取り戻したように見えた。だが、その目は依然として激しい怒りと混乱で満ちている。
「……そうか、そうですね。これもまた神の試練。ここにいる皆で協力し合い、乗り越えていかなくては」
ユージンは深呼吸を繰り返し、自分の昂ぶりを鎮めようとしている。アルフレッドが慎重に彼に近づき、肩に手を置いた。
「わかりました。でしたら、我々聖光教団が主体となって今回の件に対処します。まず、中央区周囲で悠長に放火活動を行っている魔獣を監視する人員を増やし動きを警戒しながら、信者たちの避難場所の整備に努めましょう。それから……」
「馬鹿ガキが!そんなことをやってる場合じゃないだろうが!あいつを日の出前には殺さなきゃいけないんだぞ!すぐに征伐隊を組み向かわせなければ手遅れだ!」
ユージンは再び熱を帯びた口調で話し始めた。アルフレッドは一瞬たじろいだが、すぐに冷静さを取り戻し、ユージンの顔を真っ直ぐ見据えた。さっきの提案はブラフ、今の発言を引き出すためのものだ。あそこまで罵倒されるのは想定外だったが....。本来の目的は、ライゲルの関係者として拘束されたシェナの解放である。
「ですが、征伐隊を編成するとして、あのライゲルという男に対して誰を向かわせどういう策で攻めるのですか?中央区の被害は甚大です。あのような規模の相手に対して肉薄....ましてや善戦出来る人材はこの国にはそうはいないでしょう。だとすれば……」
アルフレッドは、ちらりと異端審問官の統括を行う主官であるマルグリットに目をやった。マルグリットはアルフレッドの視線に気づき、わずかに眉をひそめた。アルフレッドの意図を察したのだ。
「こちらで尋問を行っているシェナ・シナモンを解放するべきと.....申したいのか」
会議室がざわつく。確かに彼女は剣聖として凄まじい潜在能力を持っていると聞くが、相手は育ての親ともいえる存在。恩師を殺すことに応じてくれるかどうかわからない。その前に、いくら剣聖とはいえ、それを倒せるか怪しい。そうした疑念の渦がこの場に回っていた。
「そうだ、剣聖様を解放し、それを主軸に討伐隊を編成、ライゲルとぶつけるのです」
「ふざけるな!もしシェナが寝返ったらどうする!」
「……いくら彼が育ての親だからといって教祖様が殺されるのをよしとするような方でまないでしょう。今彼女は彼の変貌に困惑しているのです」
「だからこそ危険なんだろうが!」
アルフレッドは舌打ちした。教祖様にあれこれ言われるならともかく、周りの連中がシェナを使うことに強く反対しながら罵倒してくることに腹を立てていた。
「もう一度言いますが、彼女以外にあのライゲルに対抗できる者を私は知りません。あなた方は頭ごなしに私の策を反対してらっしゃるようですが、具体的な対案を出さずに批評に終始するのは卑怯ではありませんか?今は何よりも、具体的で、迅速な!解決策が必要なんじゃないですかね!どうでしょうか!?」
「まったくだ!」
そうしてアルフレッドの意見に賛同したのは意外にも、教祖ユージンだった。この発言に周囲の反対派はたじろいだ。
「アルフレッドの言う通りです。そもそもあなた方神官が、異端審問官がライゲルを迅速に捕捉できなかったからこうなったのです。ろくに対案をださず懸念事項だけを並べるのは失礼が過ぎると思うのですがどうでしょうか」
「ぐぅ……申し訳ございません」
反対派の貴族は、何も言えなくなってしまった。マルグリットは深く考え込んでいるようで、頭を抱えながら黙っている。しばらく沈黙が続いた後、彼はようやく口を開いた。
「……わかりました。シェナ・シナモンの身柄をそちらにお預けいたします。ですが、万が一にも裏切りの兆候が見られれば即刻処断をお願いしたい」
アルフレッドは内心でほくそ笑んだ。これで第一関門は突破した。あとはシェナをうまく説得し、ライゲルとの戦いに臨ませるだけだ。とはいえ、シェナ自身の意志もある。それに、彼女がどんな心情を抱えているかもわからない。それでも、やらねばならないのだ。
「教祖様、それでは私に任せて頂けますか?」
「......よろしくお願い致します」
ユージンの声にはわずかながらも信頼の色が感じられた。アルフレッドはしっかりと頷き、席を立った。今夜は自分の人生の中で一番忙しい夜になりそうだと浮足立ちながら急いでシェナが尋問を受けているであろう部屋へと向かった。
●
聖光教団本部。あの薄暗い尋問所。シェナはまたもやそこへ呼び出されていた。以前よりも酷い状態だ。彼女が以前ルナリアにかけたのと同じような手枷がつけられており、動かすことができない。
「先生が……どうして、こんなことを……」
「ライゲルには子供たちに性的な虐待を振るった容疑がかけられていた。それを今日未明、異端審問官がライゲルの尋問を行うべく子供たちを教祖様の元へ向かわせた後の彼に接近しようとした際逃亡し、追跡の後に今回の事件につながりました」
「嘘.....!先生がそんなことするはずない!」
シェナの叫びは虚しく空気に溶けていく。尋問を担当するアデル・ベイツが、冷徹な声で続けた。
「いいえ、逃げるどころかこうしてアルビオン教に対し反旗を翻しています。実際に殺害現場を目撃した者もいるのですよ。ライゲルはこれまで神官や異端審問官、外の商人等多くの人々を虐殺しました。さらに教え子である子供たちも.....」
「ありえません.....」
シェナは青ざめ、言葉を失った。頭の中が混乱し、情報が整理されないのであろう。
「胸糞悪いですね....アルビオン教において立教時から伝えられている三大禁忌、教義第一条、第二条、第三条に抵触した悪質な行為を犯したあげく...その責任を取らず悪魔に魂を売って人々を虐殺するなんて……」
アデルはゆっくりとシェナに近づき、その目の前に立つ。シェナは怒りに震えながらも、何とか平静を保とうとしているように見えた。
「どうでしょうか、剣聖様。あなたもライゲルに何かされたんじゃないんですか?遠慮なくおっしゃってください。これは復讐の機会かもしれませんよ。あなたのように虐待を受けた子供は精神的に未熟故に相手をかばったり嘘をついたりすることがよくあります。我々もそういったケースを何度も経験してきたものです。本当は憎くて堪らないのでしょう?我々にはわかるのですよ。貴女の本当の心が」
アデルはそう言うと、ゆっくりと腰を下ろし、シェナの顔を覗き込んだ。彼女の形相は沸騰寸前といったような感じで、今にも爆発しそうに見えた。ライゲルが虐待をしたという前提で話を進められて憤慨したのだ。それだけならともかく、シェナ自身が恨んでいると言うのも流石に聞き捨てならなかっただろう。
「否定も肯定もなさらない……変ですねぇ。普通はどちらか反応なさるのですが....黙秘というのは実に感心いたしませんね。以前も一件、加害者に親しい人物に取り調べを行うとずっと話さなくなった女性がいたんですが、地道な取り調べの結果その方が加害者と共に犯行に及んだことが判明しました。あなたも同じ口ですか.....?」
シェナは依然として黙っている。しかしその胸にはさまざまな感情が渦巻いているだろう。だがここで何を言ってもこの人に意味がないことは容易に予測できた。ならば今はただ、耐えるしかないのだ。
「そういうことなんですか?あなたも子供たちを慰み物にして楽しんだんですか....?」
アデルは机の上にあったランプを持ち、シェナの頭をノックするかの如く小突き始めた。
「ど、う、な、ん、で、す、か!あなたも罪深い、人間の屑なのか?口がきけないのは獣だからか?尊厳守るために黙ったって無駄だぞっ!いい加減答えたらどうなんだ!!」
大声で叫びながら何度も殴打する。彼が行っているのは尋問ではなく、拷問に近いように思える。十発、二十発、三十発。流石にやりすぎなのは否めない。
「これ取り調べですよね?」
「黙ってろ」
僕は近くの異端審問官に声をかけたが、睨まれて終わりだ。なんというか....ここで現代の倫理を説いても無駄だというのは重々承知しているが、この光景には吐き気がする。言わせたいことを無理矢理に言わせるために暴力で訴えるこのやり方に、やはり嫌悪感しかない。正義の皮を被った傲慢だ。宗教関係なく酷い。
「くっ……!」
シェナは痛そうに頭を押さえる。顔に悔しさと痛みに満ちた表情が浮かび、涙を浮かべている。
「ぐっ、あぁ……あ......」
歯を食いしばる。頭を殴打されて、彼女はうめき声を上げた。何かが彼女から飛び出そうとしていた。そんなことはお構いなしとばかりに、アデルは尋問を続ける。ランプを握る手に、さらなる力を込めようとしたまさにその時だった。
「あなたに先生の何がわかるっていうんですか」
冷たい声と共に、ランプが砕け散る。何が起きたのか把握出来ていなかったアデルがシェナの顔を見る。彼女は頭から血がドロドロと流れていた。おそらく頭突きでランプを破壊したのだろう。だがそれでもアデルを見る目は輝いていた。気圧されたような雰囲気になる。次の瞬間、シェナは立ち上がって、アデルに詰め寄り怒鳴り始めた。
「あなたに何がわかるんですか!!」
シェナの声は雷鳴のように大きく響き渡った。目の前に立つ尋問官、アデルはたじろぎ言い返すこともできない。
「先生は区長の業務で毎日私たちと触れ合う時間が最近はあまりなかったですし、子供たちだってそんな先生を見習って真面目に将来のために日々の業務に取り組んでたんです。そんな暇ありません!それに....一緒に遊んでくれた。教えてくれた。叱ってくれた。褒めてくれた。救ってくれた……あの人は教義の体現者だった!なのにあなたみたいなのが実際にそういう現場を見たわけでもないのに、決めつけて責め立てる!」
怒涛の勢いだった。彼女の声には怒りだけでなく悲しみも含まれており、その場の空気を一変させた。アデルは動揺し、部下に彼女を取り押さえさせた。シェナは拘束具にひびが入るほど暴れた。鋭い眼光も衰えることはない。
「あなたは洗脳されているんだ!教祖様に反旗を翻したライゲルの思想に!」
このままではシェナが殺されてしまうのではないかと危惧した僕は、異端審問官の後ろから一発かまそうと椅子から立ち上がるが、さっきから一連の様子をくつろぎながら見ていたルナリアに止められた。状況が状況なだけに何を考えているのかわからず怖くなる。
「待てラック」
「なんで?」
「手を出したら僕らまでああなりかねない。巻き込まれるのはごめんだね」
「でも!」
ルナリアの冷たい声が響く。さらに彼女は右手の人差し指と中指を絡めながら立てて、手の甲を僕に向けていた。何のサインなのかさっぱりだが、侮辱されているような印象を持つ。
「あんまり暴れるんじゃない!」
アデルが取り乱して大声を出している。
「いい加減にしないか!この狂信者が!」
「狂信者はあなたの方じゃないですか!」
「黙れ!私は教祖様に選ばれた者だぞ!教祖様があいつを反逆者だと判断したのだ!それが正しいに違いないだろう!」
僕とルナリアも彼らと同じく、ヒートアップし始めた。僕はルナリアの制止を振り切り、立ち上がるが。ルナリアが焦って僕を取り押さえる。だけど今度は僕が彼女に耳打ちする番だ。
「なんのつもりだルナリア.....!」
「僕たちがここで暴れても何にもならないじゃないか。むしろもっと酷い状況に追いやられるってのにわからないのかなぁ?」
「わかってる!それでもシェナをこのまま……このまま黙って見てるわけにはいかないじゃないか!あんな風に責め立てられてるのを見て、仲間として黙っていられない....」
「いつからあいつが仲間になったんだ。勘違いもいいところだな。あいつはアルビオン教の信者で、僕らは違う」
「でも僕と君は彼女に助けられたんだ。僕たちだって助けるべきじゃないか」
「そんな義理を果たす必要なんてないさ」
「ひでぇ……!」
必死に抵抗を続けていると、ルナリアの顔がみるみるうちに変わっていく。最初は冷たく拒絶するような表情だったのが、やがて苛立ちと不快感が入り混じったものに変わる。
「一人じゃ何も出来ないくせに、もうやめろ!」
「それでも、何かをせずにはいられないんだ!」
二箇所で取っ組み合いの喧嘩が勃発している。僕がやっている方は向こうからすれば痴話喧嘩レベルでしょうもない物だろうが、この場がパニックになりかけているのも事実。異端審問官たちも僕らの言い争いに気付き始めていた。
「な、何だお前ら!大人しくしていろ!」
アデルは困惑した表情を見せつつも、僕らの争いに介入しようとシェナから手を離す。その隙を狙って、シェナが一段と暴れ始めた。拘束具が壊れそうになっている。
「こ、このっ!」
この場のボルテージが最大限まで高まりかけたその時、この取り調べ室の扉を開け、偉そうな男性が三人ほど現れた。誰かと思えばアルフレッドと、上位の神官っぽい人、そして異端審問官の偉そうな人。アルフレッドは室内の混沌とした状況を見てため息をつき、二人に目配せをする。二人は申し訳なさそうな表情で頭を下げた。
「取り調べ中....いや、不敬な拷問を行っているところ失礼するぞアデル」
アデルは驚きと畏敬の念が入り混じった表情でアルフレッドを見つめた。ほか二名の異端審問官はすぐにその場で跪く。
「マルグリット様!?ハリソン隊長!なぜここに……アルフレッド様これは.....」
アルフレッドは静かに歩み寄り、アデルの肩に手を置いた。
「一旦冷静になれアデル。今は非常事態だ。だから簡潔に言わせてもらう....剣聖様を解放しろ」
「しかし……彼女はライゲルの断罪に必要な……」
「おいマルグリット。お前の指導はどうなってるんだ?こんな不届き者を剣聖様の尋問にあてがうとは酷いことしてくれたもんだなぁ」
アルフレッドの冷ややかな視線に、マルグリットは深く頭を下げた。その様子にアデルはますます戸惑いを隠せない。
アルフレッドはシェナに近づき、その目をじっと見つめた。シェナは困惑しながらも彼の目を見返す。
「剣聖様、お迎えに上がりました。一緒に来ていただけますか?」
「どこへ……?」
「一刻も早く出撃の用意を」
シェナは状況がつかめないのか、動揺しながら返答に困る素振りを見せる。僕らも一体どういう状況になっているのか全く理解できていない。アルフレッドはため息をついて異端審問官たちを追い出すかの如く、手でジェスチャーを行いながら指示を出す。
「尋問官アデルを含めたこの場にいた異端審問官は全員教祖様がいらっしゃる作戦司令室に参れ!」
マルグリットは慌てて異端審問官達に撤収の指示を飛ばす。シェナはようやく解放されたことでホッとしたような表情を浮かべたが、同時に不安も抱えていた。
「出撃の準備というのは、どういう.......ことですか?」
シェナはとぼけているような調子で尋ねているが、表情はまるで違っている。この後アルフレッドに何を言われるのかを薄々感づいているようだった。
「ライゲルは明朝までに教祖様を差し出せ、そうしなければここを燃やすと脅迫した。おそらく従わなければ東西南北四つの地区全てが全焼し、この領は終わりを迎えます」
「えっ……」
シェナは唖然とし、言葉を失った。顔には深い悲しみと怒りが入り混じった表情が浮かぶ。
「どうして.....先生がこんなことを!そんな、そんな非情なことするはずが」
「だが現実なのですよ。ついてきてください」
僕らはアルフレッドに連れられ、シェナと共に外へ出た。部屋の外では入ってきた時と違って皆が混乱の様相を呈している。急に出撃でも宣告されたのか、武器の手入れをする騎士の姿も多く、神官達も慌ただしく動き回っている。僕らは異様な雰囲気を肌に感じながらアルフレッドについて行った。しばらく歩くと、庭の景色が一望できる位置にあるバルコニーまで辿り着く。空を見上げると、見えたのは赤く光り輝く残酷なメッセージだった。
『夜が明ける前に教祖ユージンを中央聖堂まで来させること。来ないのであれば、南区から灰に化していく』
この文章が赤い字で宙に浮いている。見た限り文字の一つ一つが大きすぎて、建物の大きさと比較しても数倍はある。僕はただ呆然としていた。こんな光景を見るのは初めてだった。あの優しく穏やかなライゲルが、なぜこんな暴挙に出たのか理解できない。彼が今まで築き上げてきたものを全て壊しても教祖を殺害したいというのは、それほど大きな恨みを隠し抱いていたとでもいうのか。
「……私が先生を止めないと」
シェナは震える声で言った。その言葉には覚悟と同時に大きな恐怖が感じられる。
「剣聖様……その言葉を聞けて何よりです。今宵、ライゲルを討伐に向かいます。無論、あなたの協力が不可欠。」
「……はい」
シェナは涙を堪えながら頷いた。彼女の表情には葛藤が見え隠れしている。それは当然だった。自分を育ててくれた恩師を自分の手で斬らねばならない状況に直面したのだから。しかし同時に、彼女は使命感を強く感じているように見えた。身体も心も限界が近いであろう彼女にどう声をかけるか悩んだ僕は、何も言う事が出来なかった。とりあえず無言でルナリアの肩に....。
「なんだお前。僕の肩に寄りかかろうなんていいご身分だな。さんざん僕のやることなすことケチつけといて都合が悪くなると甘ちゃんか」
僕を片手で突き飛ばしながら罵倒するルナリア。まぁそうよね。機嫌悪いよね。全然僕彼女のいうことをここに来てから聞いてないのだから当たり前だ。
「今までの僕を見てきたらわかるだろう。僕は君と違って無力だから....甘ちゃんなんだよ」
ルナリアはため息をつき、やれやれという顔をした。開き直りが極まってきてる僕に呆れたってとこだろうか。
「お前たちも剣聖様と一緒に準備しろ。30分後には出陣だ。ライゲルが我々に与えてくれた猶予の間に決着をつけねばならん。我々には信仰があり、正義がある。教祖様をお守りし、アルビオン教のためにライゲルを討つのだ!それが.....剣聖様の紡ぐ英雄譚の幕開けとなろう!」
アルフレッドはそう言い残すと、高笑いしながら足早に去っていった。僕らは黙ってその後ろ姿を見送った。アルフレッドの言葉には確固たる信念が感じられたが、それが必ずしも正しい方向に向かっているわけではないことは明白だ。教祖様やアルビオン教を守ることなどあくまで手段であり、本質的には彼の独善的な欲望を満たすためのものに過ぎないのではないかと思えた。
僕らがバルコニーから出ると、神官達が出迎え、丁寧にそれぞれ部屋へと案内してくれた。部屋に入るとそこには高価そうな服や装備が取り揃えられている。どれも僕には釣り合わない物ばかり。派手だ。派手すぎる。装飾が多くて動きにくい。杖も重い。なんだかゴテゴテとしている。
とりあえず選んだ奴を着て、鏡を見ながら苦笑いするが、これを拒否する権限はないだろう。こんな高価な物を袖を通したことがあるという経験を積むのも悪くはない。そう考えるとなんだか楽しくなってきた。最終的に僕の服装は白い魔導服で、濃紺のズボンを履く。肩と胴体部分が装甲で覆われており、防御性能も高いらしい。杖は.....分からないが、魔力を十分に纏っているのはわかる。よくよく考えたら僕はルナリアと違ってMP切れに合ったことがないのでもしかしたら要らないな。こうして改めてみるとかなり便利なだな僕って、まぁそれで出力されるのがアレなのだが。
ひと通り装備を整え、部屋から出てみると廊下でルナリアが壁に寄りかかりながらこちらを眺めていた。僕が来たことに気づくとすぐにこちらへ歩いてくる。
「いいね。似合ってる似合ってる」
彼女はいつもと変わらない服装で、僕の新調した衣装を胡散臭く褒めてくれた。僕は苦笑いを浮かべながらルナリアの方を注意深く見ると、一つだけ違和感を見つけた。彼女の付けるピアスが変わっている。以前の物と比べてよりシンプルで、黒色の小さな十字架のようなデザインになっている。
「君こそその新しい耳飾りいいじゃん。似合ってるよ」
僕の褒め言葉に、ルナリアは一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに不満げな顔に戻り、「キショ」の一言と共に僕を睨みつけてきた。
「なんだかんだ君もそういうのに惹かれるんだね」
「大抵の服はろくでもないものだったが....これだけは悪くないと思ったからな。これから戦いに行くんだ。身嗜みぐらいちゃんとさせてくれないと……さ」
「逃げたり嫌がったりしないんだ」
「お前が全然出ていく気にならないからな。惚れてるのかってぐらいあいつに執着してるし」
「……そんなことはないよ。惚れてるってわけじゃない見過ごせないだけだ。ていうか君、逃げようと思えば一人で逃げれたでしょ?どうしてそうしなかったの?」
僕が問いかけると、ルナリアは顔を背けて答えた。
「今逃げたら僕一人で捕まるじゃないか。ミステリアスとかいう面倒な奴を呼び寄せといて無様に僕だけが捕まるのは最悪だな....」
「へー、ミステリアス....それがあの刺客の名前なのか.....」
ルナリアはハッと気づいたように舌打ちをした。僕がミステリアスという単語に関心を示しているのを見て、どうしたものかと考えるような素振りを見せている。
「どうして奴の名前を?」
「あー……色々あってね」
「色々?まぁ....君、あいつにお嬢様とか呼ばれてたしな……」
ルナリアは冷や汗をかき、どこか余裕のない様子で目を泳がせている。ルナリアの普段の余裕そうな態度とは裏腹な姿に思わず笑みが溢れてしまった。
「何笑ってるんだ?不愉快だな」
「別に?何でもないですよお嬢様」
ニヤニヤしながらルナリアを煽るようにお嬢様呼びする僕。そう呼ばれることをルナリアは相当嫌がっているようだったので、思わず意地悪な言葉が出てしまったのだ。当然、向こうはそれにキレた。僕の頬を彼女は引っ張る。
「そんな呼び方をするな!二度とするな!次そう呼んだら殺す!」
「いたたた!ごめんって、ごめん!僕が悪かったです!」
頬を伸ばしたり引っ張ったり、摘んだりするルナリア。怒りの感情はこれ以上湧かないのだろうかと思う程飽きもせず様々な方法で僕の頬を弄んでいる。そしてようやく開放されるも、引っ張った部分が真っ赤になり腫れあがってしまった。
「ごめんって……」
「君はすぐに調子に乗ってうざくなる....その癖をどうにかしろ。今後僕をムカつかせることをしたらもっと酷い罰を与えないとダメだな」
そんなやり取りをしていると、僕らのもとに神官達がやってきて、大広間へ向かうように指示した。おそらく出陣の儀式があるのだろう。僕らは彼らに連れられ大広間へと移動した。大広間ではグウェインを初めとする第3隊が中心となって隊列を作っている。なんだか....緊張しつつもいまいち実感がわかない。つい最近まで平和に現世で社会人生活を送っていたというのに、今は武装し軍隊と共にライゲルを殺しにいこうとしているのだから不思議な気分だ。戦争と呼べる規模の戦いなのかは何とも言えないが、間違いなく命のやりとりとなるだろう。緊張と高揚感が入り混じり、妙に落ち着かない。まるで夢の中にいるような、現実味のない感覚だ。




