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運に左右される魔法でも無双したいんだが  作者: シガ
2章 切り開く

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第25話 尋問

「これはこれは申し訳ございません隊長殿。ですが御覧の通り、悲劇的にも少女が傷を負い、一刻も早く教会に搬送しなければなりません。ですから今すぐ参りましょう!行きますよラックさん!!」

「え?は?はい?ちょっと?」


 有無を言わさぬ勢いで僕はシェナと共に肩を抱えられ、担がれる。何だこいつと思いながらも抵抗する暇なく、連れて行かれてしまった。


「まったく……よし今から調査を始める。各自振られた役割を遂行せよ」


 後ろで隊長らしき人が指示を飛ばしているのが聞こえた。これでロックドラコがどこから来たのか、なんとか原因究明してくれるだろうか。教団の内部事情には詳しくないが、彼らもちゃんと仕事をしてくれるだろう。


 なんてことを思いつつ僕らは運ばれていった。


「無事に避難できましたか。良かったです」


 ライゲル先生がほっと胸を撫で下ろした。ここは教会の医療施設。ポーションでは治せない怪我や病気を治療するための設備が整った場所だ。シェナはベットの上で眠っている。戦闘時の緊張と疲労からか今はぐっすり休んでいるらしい。それはよかった。


「本当に、貴方がいてくれてよかった。ありがとう」

「い、いえ……大したことはしてませんし」


 僕は慌てて謙遜する。僕がしたことはシェナに剣を手渡しただけで、実際に戦ったのは彼女だからだ。だがシェナとの約束で、僕が倒したことになっているので、色々と噓をつくのは大変だ。今話しているのはライゲル先生だからあまり心配してないけど、もしも他の人にこのことがバレたら……


「いいえ、貴方がいなければ確実にシェナは死んでいました。この街もさらに破壊されていたでしょう」

「は、はぁ……」

「だから本当に感謝しています。もっと自信をお持ちになってください。そうじゃないとこの先、大変ですよ」

「……それってどういう」

「シェナは自分がロックドラコを倒したなんてことは公表したがらないでしょう。彼女は自分がとっても強い人だと子供たちに知られたら見る目が変わって恐れられるなんて考えてますからね。ですから貴方に全部を押し付けてしまってると思うんです」

「うっ……まぁ、そうですね。シェナさんからそうしてほしいと願われているので」

「それでしたら、多少は自信をもった態度で望むべきでしょう。それでは、私はこれで失礼します。他区区長と今回の件で今回の件で面談があるとのことなので。その間シェナのこと、よろしくお願いいたします」


 そう言うとライゲル先生は足早に去っていった。僕にも後々あの聖光教団が聞き取りに来ると言っていた。乗れない噓をつくのは苦手だ。辛い。


 でもシェナの気持ちを尊重しなければ。


 そう考えて、僕は溜息を吐いた。隣でシェナが穏やかに呼吸をしているのを確認し、僕はどう噓をつくか考えつつ時間を潰すことに決めた。


 しばらくうなっていると、病室の扉を静かに叩く音が聞こえた。


「どうぞ」


 声をかけると、ゆっくりと扉を開け、孤児院の子供たちが忍び足で入ってきた。ルナリアも一緒だ。彼女は子供たちの後ろをゆっくりとついてきた。不機嫌そうな表情で。子供たちが静かに開けたドアを彼女は勢いよく閉めた。


「ルナリアお姉ちゃん、シィーだよ!」

「なんで?」

「シェナお姉ちゃん起きちゃうだろ」

「起きるといけないのか?」

「だって魔物に襲われて怖い思いしてるのに……起こしたら可哀想だよ」

「知るかよ」


 そう言って彼女はシェナが横になっているベットへ近づき、頭部あたりに立つ。見下ろしているようで、見上げている僕をにらみつけてきた。


「よく生きてたな。僕がいなかったのに」

「運が良かっただけさ。僕のスキル、いいものばかり出してくれたからね」

「あの酷いスキルが?全く僕が助けを求めてるときには役立たずだったのに」

「まぁまぁ、あの時の事は本当に申し訳ないって思ってるよ。あんな酔っ払ったみたいになったからね」

「うるさいうるさい思い出させるなくたばれ」


 子供たちは僕らの会話を遮るように割って入った。


「ねぇ!シェナお姉ちゃんを助けて、魔物を倒したってほんと?ねえねえほんと?」


 冷や汗をかいてしまうほど、緊張する時間だ。もしかしたら子供たちに暴かれてしまうかもしれない。そう考えながら僕は子供たちの問いに答えた。


「……うん、そうだよ。ボッカス・ポーカスっていうスキルでドカンと一発やったんだ」

「すっげー!!」

「流石冒険者ね!」

「かっこいい漢なんだな....」


 子供たちははしゃぎだし、手を叩きながら喜ぶ。僕は照れくさくなり頭を掻いた。ルナリアは呆れたような顔をしていたが、特に何も言わなかった。彼女が黙っていてくれたことに感謝しかない。


「もしかしたらラックさん、聖光教団に入るんじゃない……!?」

「確かに!」

「僕は別にそんな器じゃないよ……」

「えぇ~絶対そうだよ!だってとっても大きくて強い魔物倒したんでしょ?ラックさんは間違いなく騎士様になれちゃうよ!」


 子供たちは僕に期待の眼差しを向けてくる。本当に辞めてほしい。そんな騎士だなんて....考えたくない。少なくとも今の僕に務まる職務じゃない。誰かを守る役割なんて、僕にはとてもこなせないだろう。


「みんな静かに!シェナお姉ちゃん寝てるんだから、しーっ!だよ」


 僕はため息を吐きながら、子供たちをなだめた。いっそ正直に話してしまおうか……だけどそれでシェナに失望されるのも嫌だし、後が悪い。子供たちに夢を見せられない僕は情けないね。しばらくして、子供たちは今日も仕事があるということで、名残惜しそうに病室を出ていった。


「おい……本当にロックドラコはお前が倒したのか?」


 部屋の隅でじっと聞いていたルナリアが尋ねてきた。彼女は疑わしげな視線を向けている。


「……実を言うと倒したのは僕じゃなくて、シェナなんだ」

「なんだやっぱりか。じゃあなんで嘘をついたんだ?」

「彼女からそう願われたからさ。自分で倒したなんて言ったら、子供たちに怖がられるだろって」

「ふん、くだらない。しかもあのガキどもはお前は騎士になれるだのなんだのほめたたえてたじゃないか。恐れられるなんて思い過ごしだよ馬鹿みたいだ」

「.....そうかもしれませんね」


 僕らはぎょっとしてシェナの方を向く。シェナは目を覚ましており、微笑みながらこちらを見つめていた。ルナリアは咳払いをした後、椅子の上に腰掛け、手鏡を取り出し髪をいじり始めた。気まずい空気が流れていた。


「えーと、今起きるのはまずかったですかね……」

「い、いえ気にしないでください。それより身体の方は大丈夫でしょうか?」

「えぇまぁ何とか。特に大きな問題はありません。だから早く仕事に戻らないと」


 そう言って彼女は立ち上がり、服を整える。僕は慌てて止めようとした。


「今日一日休んだって別に平気でしょう?」

「そんなの駄目ですよ。私が不在だと子供たちの面倒が見られないですし、だから戻らないと」

「しかし……ライゲルさんだっておられるんです。休まれてはどうでしょうか?」

「ライゲル先生は私以上にお忙しい方です。神官や区長としての業務に合わせて子供たちの面倒をみることになったら....きっと一睡もできないでしょう。私がいないと」

「う、うーん……」


 それは非常に問題なのだが、彼女がそうしたいと言っている以上止めるわけにもいかないだろう。それにしてもこんなに働いてばかりで大丈夫なのだろうか。ライゲルさんだってそうだ。二人とも神に仕える人だからそんなに働くものなのだろうか。シェナは目のクマは酷いし、僕がここに来てからの数日、彼女はずっと働いている姿しかない。まぁ子供たちと遊んだりはしていたが、そんな時間なんてほとんどないし業務のうちみたいなもんだろう。ライゲル先生だってあんなやつれて細い身体なのに昼夜問わず働いてるっぽいし……なんだかちょっと怖い。いくら聖職者とはいえ、ちょっとやりすぎているのではないだろうか。


「馬車馬みたいに働いて、大変だね君も。騎士になったほうがいいんじゃないか?こんな子供の世話するよりよっぽどマシだろうよ。あいつらあくびしながら街中歩いて、暇そうだ」


 ルナリアは鏡を見ながら独り言のように言う。シェナは困ったように笑いながら答えた。


「大変ですけど、好きなことなんです。好きなことのために生きていけるなんて、一番幸せじゃないですか」

「……まぁ、このまま身をすりつぶすように働いて死ぬってなら好きにするんだね」

「ええ。もちろんそうさせてもらいます」


 二人の会話は妙に息があっていて、妙に刺々しく感じるものだった。居心地が悪い。そんな話をしているうちに、ここへシェナを運んできたマズルカとやらが入ってきた。鎧姿ではなく白いローブを纏っている姿だったので、最初誰なのか分からなかった。


「やぁ!元気な顔を拝めて嬉しいよシェナ嬢!君も無事で何よりだね!」


 彼は爽やかに笑いながら手を振る。ルナリアはうっとおしそうにあくびをして、シェナは少し苦笑いしている。そして僕は……とりあえず笑っておいた。


「はは...どうも。何か、ご用事が....?」

「ああそうだ!ロックドラコと戦闘を行った際の詳細について話を聞きに来たんだ!傷が癒えぬうちにすまないが、こちらの都合でね」


 マズルカは軽快に喋りながらシェナに歩み寄る。シェナは動揺することなく淡々布団をたたみ、いつでも移動できるようにした。


「わかりました。行きましょうか」

「うむ!では行こうか二人....いや三人!ついてきてくれ!」

「え?二人って僕とシェナだけじゃないんですか?」

「もちろんだとも。彼女にも聞いてみたいことがあるしね」

「喋ることなんてないぞ」

「あるじゃないか!このアルビオン教において人族以外の種族はあまり入信していないからな。ぜひ興味深い話がしたい!では行こうか!」

「嫌だっつって……ああ、クソ」


 ルナリアはそう言いつつも、背後からシェナの冷たい視線を感じ、大人しくついていった。

 僕らは彼に連れられ、教会の外に出た。太陽はもう高く昇りきっており、僕らの影を大きく伸ばしていた。ルナリアの黒を主軸にした現世でいうところの地雷系ファッションは、あまりにもここにそぐわない格好で異彩を放っている。これをルナリア本人にいうと奴らが異質なんだよと言われること間違いなしだが。暫く歩くと、彼らの駐屯地であろうところにつく。いくつかの建物があり、その中でも特に大きく立派なものが目に入った。


「ここが我々の本部、大聖堂さ」

「これが……」


 目の前の建造物に圧倒される。大理石で出来た外壁と精巧に造られた彫刻が美しい。天井にはステンドグラスがあり、そこから日の光が差し込んでいる。とても神聖な雰囲気を醸し出していた。


 中に入ると、長い廊下が続いていた。左右の壁には絵画が飾られており、どれもこれもが綺麗だ。窓から入る太陽の光が磨かれた床で乱反射しており、キラキラしている。中庭らしき場所は訓練所場になっており、子騎士の人々が剣術を習っていたりスキルの訓練をしているようだ。僕がここへ入ったらどうなってしまうのだろう。中庭どころかここ丸ごと吹っ飛びかねない……。想像すると怖くなってくる。シェナは移動する最中、時々振り返ったり周囲の様子を窺ったり、あまり落ち着きがない様子だった。


「さて、ここで詳しい話を聞こうと思う」


 廊下の隅、誰もいない静かな場所にある小さな鉄扉を開け、その部屋に入る。古びた机に椅子、蝋燭が刺さった燭台といった簡素なもので構成されている薄暗い空間。天井から吊されたランタンに灯がともされ、室内を淡く照らしている。


「さぁ座ってくれ」


 促されるまま椅子に腰かける。ルナリアも渋々といった様子で椅子に座った。マズルカは僕らの対面に椅子を置き、部屋の扉に手をかけた。


「さて、ここで少々待ちたまえ」


 そういってマズルカは部屋を出ていった。バタンと音を立てて閉められたドアの向こう側、廊下から複数の足音が聞こえる。


「いったいどんな話をされるのかな……」


 僕が不安げに呟くと、ルナリアが鼻で笑った。


「知らないよそんなの。とにかく適当に答えてさっさと終わらせよう」

「え、でもちゃんと答えないと後が悪くないか?こういうのって」

「大丈夫だろ。別に悪いことしてるわけじゃないし」


 シェナはその間、ずっと黙っていた。僕は彼女の横顔を眺めていた。表情はよく見えないが、少なくとも笑顔ではない。心ここにあらずといった感じだ。一体彼女は何を考えているのだろうか。そうこうしているうちに、ドアがノックされる。ルナリアが「はーい」と答えると、部屋に入ってきたのは、白いローブを纏った壮年の男性、マズルカに隊長と呼ばれていた人物と、その傍らに立つ聖光の騎士団と思わしき人達。全員が凛々しい表情をしていて、緊張感のある雰囲気を醸し出していた。


「こんにちは。シェナさん以外の方々とは初めましてかな?私はこの聖光教団3班隊長を勤めております、グウェイン・カーリッツェと申します」

「あ……はい……どうも、ラック・フォーチュナと申します。いやぁ先日はどうもお世話になりました」

「いいえ、こちらはたいしてなんもしてないですよ....ああいった魔物の討伐っていうのは本来私らの役目なのに....その点については非常に歯がゆいですよ。んでまぁあなた方に聞きたいことなんですけども、ロックドラコに関して......戦闘の経緯だとか、詳しくお話いただいても?」

「はいもちろんです」


 僕はロックドラコとの戦闘の経緯を語った。


「なるほど、つまりラックさんが持つボッカス・ポーカスとやらで武器がでて、それで一撃、討伐したということですか。ありがとうございます。それにしても不思議なスキルだ」

「えぇまぁ、変わってると思いますよ」

「全くだ。発動するたびに異なる効果を持つってのは聞いたことがない。見てみたいものだ.....君らも気になるだろう?彼のスキル」


 マズルカはそう言いながら周囲の人たちに同意を求めた。騎士の人は無言で頷く。そんな話の最中、シェナとルナリアは首を傾げていた。


「どうしたんだ?」

「別に……」

「その.....戦闘の経緯でしたらラックさんだけで情報を提供できるんじゃないかと思いまして……私からお話できることってなにか、ありますでしょうか……」

「いいや、あるんだよ。シェナさん……特にあなたにね」


 グウェインはニヤリと笑みを浮かべる。その表情を見た途端、彼女の表情が強張るのを感じた。


「どういう意味でしょうか」


「単刀直入に言わせてもらうが、あのロックドラコをラックさんだけで倒したなんて思ってないんだ」

「なっ……!そんなっ」

「そんなことはないって言いたいのかもしれないけど……まずラックさん、ちょっと手を出してみてくれないか?」


 僕は言われた通り右手を差し出す。するとその手に騎士の内一人が触れ、青色の光を放つ。その騎士の左手には、一枚の紙が握られていた。あ、まずい。これステータスを解析する奴だ。


「ご協力感謝します、さて解析結果は.....」


『ラック

 MP ??/??

 力 10

 防御 11

 魔法 ?

 俊敏 12

 器用 6』


 相変わらずの解析結果に乾いた笑いが出てしまう。僕のステータス、最低だ。


「はっ、こりゃひどい……ラックさん、本当にロックドラコを倒せたんですか?スキルで倒したならともかく、とてもこれじゃ剣を扱えるステータスじゃないですよね?」

「そ、それは……」

「どうですルナリアさん。彼に倒せると思いますか?」


 ルナリアは少々考える素振りを見せてから口を開いた。


「……ラックには不可能じゃないんじゃないかな」

「ちょ」

「僕はラックがロックドラコと戦った現場を見たわけじゃない。でも、ラックならいつもボッカス・ポーカスしか使ってないから剣で倒すなんてできないと思う。僕はそう信じてる」

「ちょっとルナリアひどいんじゃないかそれは」


 仲間の絆を醸し出すかのような言い回しだが、その内容は真っ向否定である。というか普通にディスってる。シェナも、グウェインも目を丸くしている。


「そ、そんな……」

「となると....あの場でロックドラコの背中、弱点に剣を突けるのはシェナさんしかいない。ということになりませんかね。どうですかな」


 グウェインはシェナを見つめる。シェナは俯いており、表情は伺えない。彼女は口を開くことなく、しばしの沈黙が訪れた。それは永遠とも思える時間だった。


「シェナ~認めたらどうかな?僕ここにあまりいたくないんだ。君に閉じ込められたあの檻を思い出して気分が悪い」

「ルナリア、頼むから今は口を挟まないでくれ……」

「だって黙ったところで状況証拠がそろってるんだ。君が本当のことをいうしかない」

「……」

「ほう?檻に閉じ込められたとは?」

「聞きたいか?僕とこいつがちょっともめた時、凄い速さで僕のお腹を殴って僕の意識を刈り取って....」


 このままではシェナが倒したという容疑は晴れないどころか確定してしまう。しかし僕がそれを許容するわけにはいかない。とはいえ、どうやってこの状況を打破するかだ。ルナリアは全く協力的ではないし、シェナは黙ってしまっている……。僕が何とかするしかない。


「ちょっと待ってください!そもそもシェナさんが倒したという決定的な証拠はないじゃないですか!誰か目撃した方がいるわけでもないし!」

「しかしね、目撃者がいなくてもこれだけ証拠が揃っていれば推定は可能だ。君らは一緒に戦闘を行い、君は力不足、他に戦闘に参加した者はいない。じゃあシェナさんが倒したと考えるのが自然だろ?彼女のステータスも測るか?」

「い、いやでも……!それなら....そうだ!どなたか私と一度剣を交えてもらえないでしょうか」

「なぜそんなことを?」

「い、いや、その、ステータスでは分からない技術というのをお見せ出来たらと、思って……」


 僕の言葉に騎士団の人々は互いに顔を見合わせた。視線が痛い。適当なこと言ってんだろう。あんな奴に剣を扱えるはずないだろう。そんな言葉が様子だけでも彼らの中から聞こえてきそうだ。


「構いませんよ。誰か、この青年と手合わせ.......」

「私が倒しました」


 長らく黙っていたシェナがポツリと言った。その声は震えていて、今にも泣き出しそうだった。顔を上げると目からは涙が溢れている。僕は言葉を失った。彼女は肩を落とし、俯いている。グウェインは満足そうにニヤリとした。


「ああ、やっぱりそうだったか。ラックさんのスキルで召喚された武器を使い、ロックドラコを倒したんだな?」

「……そうです」

「うんうん、なるほどなるほど。じゃあこれで話はお終いだ。やっと上に報告書が出せる。ロックドラコのことも、シェナさんのことについてもだ。ハハハ.....忙しくなるなぁ」


 彼は一人楽しそうに笑う。僕は唖然として、シェナを見つめた。彼女は唇を噛み締めている。子供たちにばれたわけではないのに涙を流すほどに彼女は心を痛めているようだ。


「ごめん、シェナ……」


 僕の言葉に反応はなかった。彼女は俯いたまま涙を拭っていた。騎士団の人々は彼女の一連の様子を凝視している。不思議に思っているのか、ひそひそと会話しているのが聞こえてくる。ルナリアは頬杖を突き、つまらなさそうにその様子を眺めていた。


「まぁそう愕然とすることはない。別に化け物だなんて非難したり嫉妬したりすることなんてないんだ。この功績が、君を正当な役割へと導くことになる。そうすればより神のために、皆のためになる。これからが楽しみだよ、シェナさん」

「……はい」


 グウェインはそう告げると立ち上がり、部屋の扉を開けた。それからシェナへ振り返り、言葉を続ける。


「ああ、そういえば今月が誕生月なんだってね。ライゲル区長から聞いたよ。成人おめでとう」


 シェナは特に反応することなく。立ち上がって颯爽と部屋から出ていった。僕とルナリアも立ち上がる。この男達とはもう関わりたくない。そんな声がシェナから聞こえた気がした。彼らは僕らが出て行くことを止めようとはせず、ただ僕らを見つめるばかり。後ろの部屋から、グウェインの独り言がポツリと聞こえた。


「まったく、前途有望なお嬢さんだ」


 それは皮肉なのか、賞賛なのか。わからない。僕は立ち止まることなく。2人についていった。道中、会話は一つもなかった。


 孤児院の前、時刻は既に昼過ぎだ。太陽の位置も高く、周囲には喧騒と活気が溢れている。多くの人々が往来し、忙しそうな雰囲気を醸し出している。僕らの3人人々の視線を集めているが、誰も近寄って来たり話しかけてきたりすることはなかった。僕らの纏う雰囲気が、話しかけるなと無言で訴えかけていたのだろう。


 シェナは無言で扉を開け、玄関に立つ。この時間帯、子供たちは働きに出てほぼいない。いるのはフェリアぐらいだろう。ライゲル先生はいまだ会合に行っている時間だろうか?


「シェナさん……さっきはすみませんでした。僕が不甲斐ないばかりに……」

「……いえ、ラックさんは悪くありません。これは私の責任なのです。私がロックドラコと戦い、倒したのです。彼らだって賢明な方々なのです。看破されるのなんて当然のことですよ」


 シェナは力なく笑う。その笑顔に僕は胸が締め付けられる思いがした。なんて言葉を返せばいいのかもわからない。彼女を慰めるために、何ができるのかもわからない。


「噓つくときはさ、徹底的に誤魔化さないとね。少なくともこいつには無理だ。さっき本部へ向かうとき、尾行してるやつに気づかないぐらいの奴だし」

「え、それ本当?」

「本当だよ、ねぇ。シェナさん」


 ルナリアの言葉に驚愕し、彼女の方を見る。シェナは頷き、俯いたまま口を開いた。


「はい……聖光教団の方々だと思うんですけど、どうも怪しくてついつい振り返ったりしてしまったんですよ。今思えば、そういう警戒をしている時点で自白しているようなものですよね……」


 僕も違和感は感じていた。だが本当に僕を害するものならばルナリアが先に気付くだろう。森を放浪しているときもそう彼女に任せていたのだ。彼女曰く、害意というのは雰囲気でわかるものらしい。とくに悪意や殺意というのは、一流の冒険者ならば感じとれて当然だと。ルナリアは一流なのかはさておき。ともかく、そうした僕の現代的な感性による弛みが、誤魔化せなかった要因だろう。


「本当にすみません……」

「いいえ、ラックさんはできるだけ庇おうと努めてくださりました。私はそれだけで救われます」


 僕の謝罪に彼女は微笑む。それが逆に痛かった。


「あ、シェナお姉ちゃんたち帰ってきてたんだ。おかえりーっ!全然気が付かなかったよ」


 明るい声とともに駆け寄ってくる幼い少女。フェリアだ。


「......ただいまフェリア」

「もう、今日一日ずっと向こうで休んでてもよかったのにぃ、でも嬉しいよ。シェナお姉ちゃんが帰ってきたら、久しぶりにみんなで過ごせる。楽しみだね!」


 フェリアの言葉にシェナは微笑む。しかし彼女の表情は暗いままだった。そこに気付き、フェリアもまた心配そうな表情になった。


「どうしたの?シェナお姉ちゃん……?」

「ううん。何でもない。心配しないで大丈夫だからね」


 そう言ってフェリアを抱き寄せ頭を撫でた。先ほどのように涙を流すことはなかったが、シェナはジッとそのまま動かない。二人は暫くそうしていた。最初は笑顔だったフェリアも、徐々に違和感を感じ困惑しているようだった。僕とルナリアは無言で見守る。やがてシェナはゆっくりと口を開いた。


「フェリア、お願いがあるんだけど……」

「なぁに?」

「私がいなくなったら、ここの掃除だとか洗濯だとか、みんなでやらなくちゃいけなくなると思うの。だからその指示を、お願いできる?」

「……えっ?」


 フェリアは理解できないといった表情をする。それはそうだ。今まで当たり前のように存在してきたものが急にいなくなるという。そんな唐突な宣言を受けて平静でいられるはずがない。


「シェナお姉ちゃんがいない……?ど、どういうこと?」

「……」

「……そ、そんなの嫌だよ!なんでっ......あ、もしかして.....」

「ごめんなさい……ちょっと今のは忘れてね」


 シェナはそそくさとその場から逃げるように、去って行った。残されたのは僕とルナリアとフェリアだけだ。僕はフェリアを見た。彼女は目にいっぱいの涙を溜めながら、シェナが去っていった方向をずっと見つめていた。その様子に思わず胸が痛む。


「シェナお姉ちゃん……ねぇ、何があったの?何が起きたの?」

「実は……」


 僕はフェリアに説明することにした。シェナがロックドラコを倒したこと、それが聖光教団にばれたこと。フェリアは話を聞くにつれ、驚きと混乱が入り混じったような表情で話を聞いていた。


「不味いよ....そしたら本当にお姉ちゃんここから離れちゃうよ……」

「それはどういう……」

「ここではね、大人になると”適役の儀”っていうのが行われるの。その人の一番得意なことに関する役割を、教祖様が判断して、その道に進ませるの」

「そうなんだ……じゃあシェナさんが自分の力を隠そうとしてるのは、自分が進みたい役割があるから……?」

「たぶん。多分シェナお姉ちゃん、私たちを育てる役割に就きたいと思ってるよ。でもお姉ちゃんが強いってばれちゃったら、嫌でも騎士の役割に就かなきゃいけなくなる……どんなに嫌でも与えられる役割からは逃れられない」


 フェリアは拳を握りしめながら悔しそうに言った。


「この儀式が、お姉ちゃんにとって不幸になってほしくない……どうしたらいいのかな」


 僕は頭を悩ませる。なんとか彼女を守りたい。だけど僕にはいい策が思いつかない。


「それっていつになるんだ?儀式とやらは」


 突然割り込んできたルナリアの質問に、フェリアは顔を上げた。


「明後日、聖誕祭に合わせて行われる。お兄さんたちもそれで役割決まるよ」

「チッ、ここの奴らは勝手だな。自分の未来が勝手に決められるってのは最悪だよ。本当に……」


 ルナリアはイライラした様子で舌打ちした。しかし困った。適役の儀なるものを受ければ、否応なしにその役職へと収められてしまうだろう。それは彼女にとって良くないことだ。だが僕らにはどうしようもない。


「どうすればいいんだろう……」


 僕は頭を抱える。今後のことを思うと胃が痛くなる。


「お前にはどうもできないよ。諦めな」


 ルナリアは興味なさげに告げる。確かに彼女の言う通りだ。僕なんかに何かできるわけがない。だけどこのままシェナが子供たちから離れていくのは嫌だ。唯一の希望は....ライゲル先生か?彼ならば或いは何とかしてくれるかもしれない。


「お姉ちゃん.....」


 フェリアはただそう呟き、空を仰いだ。その目には、悲しみだけが残っていた。

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