俺の前世は魔王だった
俺には剣術の才能も魔法の才能も無い。
だから派遣冒険者として、冒険者チームの雑用として働く。
「アレン・ウェスカー! さっさと飯の支度をしろ! 遅いぞノロマ!」
今日はB級冒険者チームのブラッドたちの雑用だ。
評判通り口が悪く、態度も悪い。
「ごめんなさい。そろそろできます」
しかし、何も言い返せない。
彼らは雇い主だ。そして派遣冒険者は雇い主が居ないと飯が食えない。
だからいつもヘラヘラ笑って誤魔化す。
「いつもいつも笑ってる。気持ち悪い」
「プライドが無いのかね?」
ブラッドのメンバーも俺を笑う。
何も言えない。
「できました。簡単な雑炊ですが美味しいですよ」
4人分のお昼を作った。これを食べたら帰るだけ。
「何でお前まで食おうとしてるんだ? この食料は俺たちのだぞ?」
食器を持つと、全員に睨まれる。
「すいません」
腹は減っていた。でもクレームが怖い。だから大人しく引き下がる。
「厚かましい奴」
「なんで乞食にならないんだろ?」
「万年最下位なんてある意味才能だ! 俺なら自殺するね!」
悪口から逃げるように、森の奥深くまで離れた。
「……情けねえな」
何も言い返せなかった自分が悔しい。だが一方で、諦めの心が強い。
「才能か……」
いくら剣を振っても勝てない。
いくら魔法を練習しても火の粉も出ない。
「だけど冒険者を止める訳にはいかない……」
S級冒険者の父親は5年前、俺が13歳の時に友人を庇って死んだ。
最強と歌われた父はあっけなく死んでしまった。
母はすでに病で死んでいた。
だから残されたのは目も見えず、体の不自由な妹と、唯一の稼ぎ頭である俺だった。
妹は不治の病だ。だが高い薬を買えば延命できる。それに金を貯めれば名高い医者に治してもらえる。いつか目が見えるようになって、体が動くようになる。
そのためには金だ。金だ。金だ!
俺には金が要る! しかも即金で大金が居る!
そうなると冒険者しかなかった。
レンガ積みなど地味な仕事は堅実だが、実入りが寂しい。
しかし冒険者は派遣でも実入りが良い。おこぼれに預かれば金目の宝を分けてもらえることもある。
だからこそ、後ろ指刺されようと、笑われようと、冒険者を続けるしかない。命がけでもやるしかない。
今日のブラッドたちもそこそこの金を出している。だから奴隷のように扱われようと我慢する。
するしかない。
「最強になれば、賞金稼ぎになれたのに」
冒険者ギルドは色々な仕事を斡旋している。その一つに賞金稼ぎがある。
相手は盗賊ギルドの幹部だったり、グレートオーガなど危険な奴ばかりだ。
だからこそ、大金が手に入る。
「畜生!」
夢物語を妄想して悲しくなる! だからがむしゃらに腰に下げた剣を振る!
「畜生! 畜生! 畜生!」
なんで俺は上達しない! 才能が無いからって5年も素振りをしてこれは無いだろ!
「うわぁああああああ!」
突然、ブラッドたちの悲鳴が聞こえた。
「何が起きた?」
この森のモンスターは臆病な大ネズミやオオカミくらいだ。ブラッドたちの実力なら楽に対処できる。
「戻るか」
何はともあれ、雇い主が死んでは元も子もない。せめて何があったのか、言い訳が出来る程度の情報を得よう。
「く、来るな!」
ブラッドたちの元に戻ると、瞬時に体が硬直する。
「3匹のグレートオーガ!」
グレートオーガは別名人食い鬼と呼ばれる凶悪なモンスターだ。通常のオーガよりも二回り体が大きく、力も強い。A級冒険者でも5人がかりじゃないと倒せないほどの強敵だ。
なんでこんなところに? 飯を求めて迷い込んだのか?
「逃げる? しかいあいつらを置いて行くわけには……」
もはや逃げるしかない。しかしグレートオーガたちはブラッドたちを食おうとしている。
「ファイヤーレーザー!」
魔法剣士のブラッドは中級炎魔法のレーザー光線を放つ。
「グ!」
しかし、グレートオーガの肌は頑強で、表面を焦がすことしかできなかった。
挑発するだけだった。
今にもグレートオーガたちはブラッドたちに襲い掛かる。
守らないとダメだ! しかし声を上げた程度じゃ効果は薄い。
せめて、怒らせないと。
そう思って周りを見ると、明かりを灯すランタンが目に入る。
守るためにはこれしかない!
油たっぷりのランタンを持つ! そして急いで火をつける!
「こっちだ!」
最後にグレートオーガたちの背中に投げつける!
「グオォオオオ!」
突然の業火にグレートオーガたちは雄たけびを上げる。
「早く逃げろ!」
その隙にブラッドたちに声をかける。
「お、おまえ……」
ブラッドたちは放心状態だった。
「俺が引きつける! さっさと逃げろ! 殺されるぞ!」
「ひ! ひぃいいいいいいい!」
ブラッドたちは一目散に逃げだした。
「グウウウウウ!」
グレートオーガたちはブラッドなど一瞥もせず、俺に振り向く。
「びっくりしたか? ごめんな」
魔物は火を怖がる。あれだけの炎だ。肌はピリッと痛む程度でも、頭に血が上る。
「グオオオオオオオオ!」
一気に襲い掛かってきた!
「ヤバい!」
急いで森へ走りだす!
バキン! メキメキメキ!
後ろで大木がなぎ倒された音がした。
しかし振り返っている暇はない!
「くそくそくそ! やっぱり見捨てりゃ良かった!」
全速力で走っている! だが足音は着実に近づいている!
速い! 歩きなれた森だからと逃げられると思ったのが間違いだった!
「グオオオオ!」
突如体がくの字に曲がる。
「ゴホ!」
そしてどす黒い血が口から飛び出す。
「あ……アンリ……」
遠のく意識の中、妹の名を呼ぶ。
「グルルルル……」
グレートオーガたちは倒れる俺を掴み起こすと、ダラダラと涎を垂らし始める。
食うつもりだ。
「しねない……しねない! あのときのようにしねない!」
あのとき? 死に際になって、訳の分からない言葉が出る。
「魔物のために! 世界のために! そう思って戦った! だが夢半ばで殺された! 勇者たちに殺された!」
遠い過去の記憶が蘇る。
「守るものがある! だからあの時のように死ねない! 最後まで守り通す! 二度と殺されてたまるか!」
胸の奥から、突如、熱い力がこみ上げる!
汚いグレートオーガの顔面に人差し指を向ける!
「死魔法! 死の宣告! てめえは一秒後に死ね!」
「グオオオオ!」
グレートオーガは大きな口を開けて俺の頭をかみ砕こうとする!
「グ? グォ……オオ……オオオ」
そして、突如胸を押さえると、力なく倒れた。
「オ? オ?」
「ウ?」
残り2体のグレートオーガは、心臓麻痺で死んだ仲間を見て戸惑う。
「ぼうっとしてんじゃねえよ!」
右側に居る奴の頭を蹴り飛ばす!
「パ!」
グレートオーガの頭は見るも無残に砕け散る。
「オオオオオオオ!」
残り一匹は尻尾を巻いて逃げる。
「逃げるのか? なら土産を持って行け!」
指先に魔力を集める。
「上級炎魔法、プロミネンス。太陽の業火を受け取れ」
6,000度の炎がグレートオーガを襲う。
「ゴ!」
グレートオーガは跡形も無く蒸発した。
「俺は……魔王ガイだ……ガイだった」
死の間際で前世を思い出す。
まさか、最強の魔王とおとぎ話になる存在が前世だったとは。
「……今はアンリだ……アンリを守らないと」
前世を思い出したからと言って、やることは変わらない。
妹を守る。妹を治す。
「それにしても……プロミネンスを使ったのは失敗だった」
グレートオーガたちの死体はプロミネンスの余波で消し炭になっていた。
それどころか大規模な山火事が起きている。
グレートオーガの死体を持って行けば大金が手に入ったのに……
「初級水魔法、ウォータークリエイト」
水魔法で山火事を消す。それが終わったら冒険者ギルドに戻る。
「金だ……力さえあれば金が手に入る……」
前世を思い出し、力を取り戻した。ならば大金を手に入れよう。
賞金稼ぎとなって、妹を守ろう。




