終わらぬ嵐に
春が来なければいいのに。
何度そう願って夜を数えただろう。
ハウオルティア建国以来の大雪が降った冬は俺の祈りも届かずいつもより遅れて春を迎えようとしていた。
だけど春の嵐と言う様に荒れ狂った風が台風のように海から吹きつけて……
城塞と言う堅牢とした建物に周囲の村人と避難していたから気付かなかったが相当な被害が翌朝には目の前に広がっていた。
耕した畑が潰され、整えた川が氾濫し、春の収穫目前の野菜達が雨と共に流されてしまっていた。
家屋もいくつか潰れた光景を呆然とした顔で眺めている中、やがて各地に作った村からの被害状況が集まって来た。
嵐の被害に国中がこのような状況らしい。
王都辺りが最もひどく、壁外に建て付けた家はほとんど嵐が壊して飛ばして行ったと言う。
城壁内もどうやら大変なようで、いつもは閉ざしている門が開け放たれていたかと思えば王都の中は水浸しになってしまったと言う。
よく見れば開け放たれた門だと思って居た物は無残にも壊されて衛兵達が泥水を掻きだしながら新たな門を誂えている所だと言う。
「近いうちまた疫病が発生するな」
掻き出されたのはただの泥水ではない。
生活用水や汚水も混ざっているのだ。
この様子に飲料用の水路も汚染されたと考えればこれからどれだけの人が夏を迎えるのか想像しただけでぞっとしてしまう。
更に虫も発生するだろう。
食べ物もきっと水に浸かって食べる事も出来ないのだろう。
だが、他に食べる物が無ければきっと口にしてしまう、しなくてはいけない選択なのだろう。
まるでよくできた死の連鎖にローランド同様国が沈んでいく様を想像してしまう。
勿論体験しているクロームはルゥ姉にせめて今生きている壁外の人達だけでも助けなくてはと許可と僅かな食料を分けてもらって雌黄の人達に色々と指示を出していた。
この頃になるとロンサールの奇岩石群も砂漠に飲み込まれ、王都もまだ辛うじて人は居るようだが王宮の内壁の内側しかもう人の住処はないと言う。
砂漠に飲み込まれて主無き城があの地に住む人達の住む家となっていた。
親を殺した者達を助けようかと葛藤に苦しんでいるようだったがそこにガーネットが
「あの者達は王殺しの罪を背負う者。相応の罰としてあそこは流刑の地とすればお前の悩みは一つ減るはずだ」
多分クローム以上に怒りを抱いているだろうロンサールの精霊は愛すべし一族に手を出された事を許さないつもりなのか悩み苦しむクロームに罪には罰をと言って見捨てろと言う。
クロームの葛藤はガーネットの一言により紅緋の人達はそれに従い、他国の事なので興味を示さないわけでもないがそちらを優先する事の出来ないハウオルティアの人達もただ心配をするだけ。
雌黄だけでは砂漠を渡る事が出来ずに諦めるしかない状況。
それ以前に着々と進む決戦の準備に王都に残る民を救う事すら考える暇もないぐらいの続く災害にハウオルティアが滅んでいくのを感じずにはいられないのはロンサールが滅んでいくのを体験したからだろうか。
クレイは最近無口になりつつあるディックの様子が気にはなれど、やはりロンサールの人間だからだろうか。
気にはなれど所詮は他国の事。
よそ者が口を挟む事ではないと割り切るのは王族と言う特殊な育ちが原因とは気付きつつも気付かないふりをしていた。
飛んできた枝を拾ったり、崩れた家の修復をしたりとしてる合間にもどこからか馬のいななきが聞こえてきた。
先頭を走る男には見覚えがあった。
確か紅緋のバルと言ったか。
海沿いの村の村長ではないがまとめ役の男の顔だった。
城塞ギリギリまで馬を走らせて、そのまま乗り捨てて城塞の中にやってきたバルはそのままルゥ姉、クローム、の所までやってきてセイジ、フリーデルと揃う大広間まで走り込んで来て
「村が、海に飲み込まれました。
村人を連れてこちらに向かってますが、どうか助けてください!」
部屋に入るなり叫んで堅い床の上に寝転んでぜえぜえと荒い呼吸をしていた。
「まちなさい!
海に飲み込まれたとは、その前に誰か水を!」
村から休みなくずっと馬で駆けて来たのか全身を汗で濡らすバルは息をするにも咽て側に居たクロームの服に手を伸ばしてどうかと、目も開けられないくらいの疲労困憊の中慈悲を訴え続けていた。
俺が水球で水を与え、シアーが呼吸に足りない酸素を与えるかのように癒しの輝きを当て続ける。
暫くもしないうちにバルは何とか無理やり座って、そのままの姿勢でルゥ姉に願い出る。
「一体何があったと言うのです。
順を追って説明しなさい」
何が起きているのか俺達の方が問いただしたいくらいなのに努めて冷静を装うその姿にバルをテーブルの一角に席を与えてセイジやジーグルト、レオンなどもこの頃には集まってバルの話を聞く体勢が出来ていた。
「こちらにも嵐が来たかと思います。
海沿いの我々の村は大層な被害が出て海の水が柱になって村を襲ったのです」
「海が柱などそんな馬鹿な!」
「竜巻が起きたんだね。それが村を襲ったんじゃひとたまりもない」
竜巻と言う自然現象を知らないのかウードさんが顔を真っ青にするも、その自然現象の名前とその威力には仕方がないと言う事を極力冷静に、驚きではない事だと言えば周囲はそう言う物かと理解は出来なくてもとりあえず無理やり納得をして見せる。
「その後が酷くて高波が押し寄せて海が村を飲み込んだんだよ」
「ちょっと待ってよ。
そんな事が起きないように高台に村を作ったはずなのよ!」
聖女として国内各地を歩き回ってこう言った災害被害を幾つも目にしてきたシアーの選んだ土地は彼女も知る限りそう言った災害には縁のない場所を選んだはずだったのにと言う様に顔を青くしている。
「想定以上だっただけだ。
しょっちゅうあるわけではないけど波は40エールを超える場合もある。
あそこはせいぜい30エールあるかないか。
経験の上の事が起きたそれだけだ」
俺は苦い顔をして南国の陽気な木の上を覆い尽くす波をテレビ越しに見た記憶を思い出す。
それと同規模の事が起きた。
ただそれだけだと自分に言い聞かせるようにして周囲の、そして俺の動揺を誤魔化す様にバルに話の続きを促す。
「家は流され、そして畑も流された。
周囲の木もなくなっちまって……
そこらに這えていた草も朝には腐っちまって」
「それだけ風と波の勢いがひどかったか。
草は塩害で枯れたんだ。
と言うか、波にのまれた辺りは塩害で植物が育たないぞ……」
「村はどうなるんでしょう……」
長いとも言えなくも深い沈黙の中ルゥ姉が目を閉じたまま
「村は一度閉じましょう。
村人の方達は?」
「……俺を含めて狩りにで居てた6人が全部だ」
愕然とした。
そんな顔でバルを見る。
その視線に耐えれないと言う様についにバルは泣きだして
「仕方がねえだろ!
嵐は真夜中にやって来たんだ!
みんな家で寝ている所に、俺達は山から村が呑み込まれる所をっ!!!」
「ごめん。
悪気があったわけじゃない。
みんなバルの言う事を理解できないんだ。
あんただってそうだろ?
初めて見る光景なんだ。
理解できなくって怖くって不安だったんだろ?」
落ち着かせるようにもう大丈夫だからとリーナに酒をもってこさせて男に飲ませる。
「そして残りの人達は?」
「雌黄が2人、村人が3人。
こっちに来るように言いつけてあるから夜には来るだろう」
「道路が出来てないから迎えにもいけないか。
無事たどり着く事を信じて待つしかないな」
言いながらシアーは塩を含んだ雨で濡れた男を魔法で綺麗にし
「とにかく貴方には休息が必要だわ。
リーナ、それをもう一杯頂戴。
飲んだらベットで寝て温かい食事を食べましょう。
怖くて恐ろしくて悲しいけど今は貴方が休む事が一番重要なの。
貴方の後を追いかけてくれる人たちの為にも少し眠りましょう?」
「シアー、すまねえ」
「大丈夫。不可抗力よ。
誰も大自然の驚異には勝てないの。
貴方に責任なんて何もないわ。
それよりもよく生きてここに無事たどり着いてくれてありがとう」
よく頑張ったねと言う様に背中をさするも、その手が淡く白く輝いている事をバル以外の全員が見守っていれば、すぐに倒れるようにしてバルは眠りの魔法に誘われて眠りに就いて行った。
「一体何が起きてるのでしょう……
ハウオルティア近海は今までこの様に荒れ狂う事など聞いた事がありません」
フリーデルが机に肘をついて項垂れる姿を正面に俺は椅子の背もたれに体重を預け石造りの暗い色の天井を見る。
「それも精霊が守ってくれてたんだろう。
海が時化て海岸沿いにはシアーが言う程度しかこれまでは災害が起きなかった。
だけど精霊の守りが無くなった為にその程度で収まっていたのが本来の威力の災害が起きてしまっただけ。
魔物の居ないフリュゲールだって魔物が出ないのは陸地だけで加護の届かない海は魔物だらけだから……
違うな。
災害は常時起きていた。
だけど、それが陸地で被害が出たかと問われれば精霊の守りで被害を最小にとどめていた」
「そんな所ですね」
ルゥ姉はいつの間にかバルに渡していた酒を自分にも淹れてもらって飲んでいた。
飲んでなきゃやってらんねーって言った所だろうか。
「だとしたら我々にできる事って何なんでしょう……」
精霊の守りの無い国がこの自然の驚異に押しつぶされる前に対策を取らなくてはいけない。
だけどどうすればと悩む中
「まず、防波堤を作って河川工事も必要になる。
塩害の被害の地域には海沿いに防風林代わりに多生の塩害にも強い木を植えて少しでも塩を含み風から守らないとな。
その辺はフリュゲールで出来上がってたから落ち着いたら技術者を招き入れよう。
河川から引く水路ももう一度見直そう」
「ちょっと待てください!
もう少しゆっくりと、メモが追いつきません!」
フリーデルはメモをしているのかと驚く顔でセイジを見守るも、セイジは聞き逃さないと言わんばかりに小さなメモに掻きこんでいて、あわててクレイが新たな紙を用意した所で本格的に書く体勢に変っていた。
「疫病が発生するのは衛生面が管理されてないからだ。
この国の飲み水事情は?」
「井戸水が主流です。
ディックやカヤ、シアーのように水魔法を得意とする者はまれなので例から外します。
貴族の家には大体家ごとに井戸がありますが主に使用人が使います。
貴族は魔石が作りだした綺麗な水を使います。
水量はあまり多くないのが欠点なので本当に貴族の口にしか入りません。
平民の暮らしでは数軒で一つの井戸を共用したり、洗濯なのは井戸から小さな生簀のような場所で水を貯めてから排水側に流して行きます」
「逆流する事は?」
「水門を間違えたり昨夜のような嵐が来れば稀に……」
ジーグルトが過去を思い出しながら言って沈黙が下りる。
最悪を誰もが考えていた。
生活文化の違うブルトランが間違えずに使えるかと問われたら、そんなシステムもたぶん理解していなかっただろう。
「多分……井戸水に汚水が混ざったのはかなり早い段階だと推測できる。
井戸水は破棄してこれから使うとなれば新たに井戸を掘ろう。
地下水の流れとかはどうなんだろ?」
「残っていれば城の資料室に在るかと……」
レオンが確かと言う様に言う。
「汚水、汚物はどう言った処理を?」
「貧困層の奴らの仕事だ。
集めて川なり海になり捨てている」
イヴァンと言う元騎士は元貴族なのだろうか汚らわしそうに言う。
そう言ったのはどの世界も同じかと聞きながら
「スライムってそう言った物も処理しないのかな?」
ユキトの世界ではおなじみのスライム活用の定番の方法を上げてみれば
「試した覚えはありませんが、時々馬小屋の裏に在るゴミ置き場で見ましたね」
ルゥ姉がここの馬小屋のゴミ置き場にも住み着いてると言う。
「セイジ、なら実験だ。
馬の糞はこれから小さな、そうだな。
このテーブルぐらいの大きさと高さの木箱を作ってそこに入れる様に。
蓋は開け閉め……ない方が良いな。
その代り雨水が入らないように屋根の下に作って欲しい。
その箱の中にスライムを放り込んでおいてくれ。
どうなるか観察していて欲しいから誰かに……」
「馬の世話なら雌黄の役目ね。
ウード、誰かスライムもかわいがれる奴を」
シアーの指摘に数人の雌黄の人が手を上げていた。
「あとそこまで大きくなくてもいいから野菜くずとか食べ残しの処理する様の木箱とスライムも」
「となると、スライムも必要になりますね。
誰かスライムを捕まえて来てください。
食べ残しや野菜くずなどでしたら村の方々にも協力をお願いしましょう。
成果が表れる様になれば村の方達も自分達から率先して協力してくれるでしょう。
所で、この実験は何の為ですか?
スライムだって魔物です。
食べれば排泄物をうみ出しますが……」
セイジが何の実験なんでしょうと言う視線に
「皆はスライムの排泄物見た事は?」
聞くも誰も首を横に振る。
「ロンサールはスライム居ないからなぁ」
「砂漠化してからはスライムの生活環境に適さなくなったからもう長い事見てないな」
クレイとクロームの言葉に頷いて
「スライムの悪食はみんな知っての通り動物もゴミも人もその強力な消化液で溶かして食べる。
そしてまだハウオルティアに居た時裏庭に住み着いていたスライムの排泄シーンをちょうど見る事が出来たんだ。
粘り気もなく、そして水っぽくもない、土の塊みたいな物が出てきたんだ」
「良く気付きましたねぇ」
呆れかえるルゥ姉に
「ほら、あいつら半透明だろ?
なんか黒っぽい物が腹にあるから食事中かと思ってたらにゅるって出てきたから」
「で、そのにゅるって出てきたものをどうしたいのです?」
呆れたルゥ姉の顔に向かって
「畑の肥料に出来ないか実験したい」
「ミミズではないのですよ?」
「試してみるだけなら問題はないさ。
それよりもそう言った汚物やらゴミをそこらへんの川や海に流して処分する方が問題だ。
スライムを通せば多分ゴミは小さく、そして何十日も欠けて発酵させる所をたった数日で終わらせることができる。
処理をスライムに任せればそれこそ疫病の原因を取り除くとは言えないけど、少なくできる。
ただ問題はスライムなんて飼った事ないからどう扱えばわからない」
言えばどこからか失笑。
「大丈夫ですよ。
スライムぐらい私も子供の頃親に隠れて飼っていました」
意外にもセイジが名乗りを上げた。
「みなさんご存じの通りスライムには核があります。
核が通る大きさなら通り抜ける事が出来るので核の大きさごとに育てるのが良いかと思います。
食べ物は何でも食べます。
さすがに排泄物を与えた事はないのですが、金属は処理できません。
ので、木の枠ではいずれ穴をあけて抜け出す可能性もあるので鉄板などで囲った方が良いかと思います」
「だめだ。金属だと腐食する……」
「でしたら穴を掘ってその地上部分を木枠と鉄で囲みましょう。
飛びかかるとっても1エールほどしかジャンプは出来ないので少し深めに掘って様子を見ましょう。
あと、スライムはそれなりに飼育していると餌をくれる人を認識してくれるので攻撃性が薄くなってきます。
それと忘れてはいけませんが、核分裂して増殖もしますが、寿命は大体一年から二年以内です。
子供の小遣い稼ぎになる程度なので、魔物ですがその生命力の弱さも覚えておいてください」
「はー、なんか意外だね。
セイジがスライムなんて育ててたなんて」
「魔物ですから普通は驚きますよね。
ちなみに私が飼っていたスライムの最後は弟達の小遣いになってしまいました」
しょぼんと項垂れるセイジに誰もが今度は堂々とかわいがろうなと慰める始末。
「落ち葉で作った植物性の堆肥とスライムで作った動物性って言っていいか判らない堆肥で畑の肥料は確保できた。
ふかふかの畑が出来ると良いなぁ」
ユキトの家では牛糞の堆肥を使っていた。
近所で牛を飼ってる人に分けてもらうのだが、発酵、熟成の途中は鼻が曲がるほどの匂いなのに出来上がったたい肥はそこまで鼻に刺激臭は無くなるのだから不思議だなと思わずにはいられない。
最もお礼としてそこで育った野菜やらその野菜で育った鶏やらとぶつぶつ交換があの時代でも盛んになるのだから世の中うまく回ってるなと考えるのは当然だろう。
「他には?」
セイジが続きはとうながす。
海の対策、水の管理、衛生面の問題、考えなくてはいけない事はいくらでもある。
「あり過ぎてどこから手を付ければいいかわからない。
とりあえず上手くいくか判らないんだから手近な所でゴミ問題から行こうか。
そうそう、これから王都に行く奴らは……」
きょろきょろしながらちょうどいい長さのタオルを見つけた。
あまり綺麗ではないが拝借して
「あまり意味はないけどタオルでなくとも布でもいい。
鼻と口をこうやっておおって欲しい。
少しでも風が運ぶ……
汚水や汚物が渇いて小さな砂みたいになった物が風で運ばれ口や鼻から入るのを防いでほしい。
本当は目も保護したいけど、技術的に無理だよな。
一見砂っぽい物が疫病の姿だ。
王都から離れた時点で身体を綺麗にして欲しい。
服も必ず水で洗って汚れを落として清潔を心がける事。
疫病を王都から持ち運ばないように注意してくれ。
これから王都に行く場合はいつもより慎重になって欲しい。
自分の身を守る事だとみんな覚えておいてくれ」
言って今日はここまでと席を立ち部屋を出ようとすれば
「これからどちらに?」
ルゥ姉の一言に決まっているだろうと言う。
「スライムを捕まえに行くのさ!」
「私もご一緒に参りましょう!
せっかくですので私の子達も見てあげて下さい!」
そう言うセイジと俺はどたばたと部屋を飛び出していく。
だけどこの場に取り残された人は最後のセイジの言葉に誰もが頭を傾けていた。
「私の子達って言うのはどういう意味だ?」
「セイジに女なんて居なかったし、どこかで拾って来たとか?」
「人間なら安心なのですが……」
「この流れは人間じゃないだろう……」
一度顔を見合わせて
「厩でやたらとスライムを見かけると思ったらあいつが増やしてやがったか!!!
飼うのならしっかりと飼育場を作って野放しにするなよ!」
追いかけるようにウードも駆けて行く。
その様子にクロームは下々の皆様に訪ねた。
「その、スライムは飼育したりする物であったのか?」
駆除する物であると思っていたのだがと大ボケの元王子様に誰もがそっと視線を反らせる。
「男の子なら皆一度はこっそりと飼ってみたい人気の魔物なんだよ」
「度胸試しとか女の子にキャーキャー言われたり不気味可愛さに女の子の好奇心を引き寄せる必須アイテムだったんですよ」
「もっとも、おふくろに見つかって騒がれて二度と飼えない相手と再び対面する時は小遣い稼ぎにちょうどいい魔物になってるんだから、年月の経過って言うのは残酷だよな」
「居ると気持ち悪いけど、別にこれと言った悪さをするわけでもなく」
「気が付いたら壁に穴開けられたり粘液かけられたり窒息させられたりたまに毒を持つ奴らに殺されかけたりとか」
「それは十分脅威なのでは?」
みんなの説明に温室育ちのクロームが顔を顰めて行くのは仕方がないだろう。
「馬鹿な男の子があわよくば好きな女の子の前に立ちはだかって守ってみると言う微笑ましい例から、あわよくば女の子の服を溶かした姿を見たいとか、粘液まみれの女の子を見たいとかそう言った残念な時期の必須アイテムなのです。
もっとも女の子からしたらそんな相手に好意を持つ事など生涯ないのですがね」
きっぱりと言い切ったルーティアの言葉から避けるように幾つもの視線が逸らされえる。
クロームはなるほどと視線を反らされた者達を睨みつけるも幼い頃の悪戯だ。
そこまでは咎めないと言う様に腰を上げて
「折角だからセイジの様子を見に行こうか」
「面白い物ではないですよ?」
興味ないと言う様に紅茶を貰うもクロームの珍しくそわそわとした様子に溜息を吐く。
「行ってらっしゃい。
男の子と言う物はどうしてスライムの魅力を避けて通れないのですかねぇ」
「ルーティアは興味を持たなかったのか?」
クロームはやはり女の子だったんだなと言う様に感心しながらルーティアを眺めるも
「穴を掘ってスライムを大量に入れた場所をカモフラージュして幼馴染二人を突き落してものすごく怒られたいきさつをお話ししましょうか?」
「遠慮しておこう」
速攻で断ったクロームに周囲もやはりこの女の子供時代は今と大して変わらないなと謎の納得をせざるを得ず、男の子所か女の子も避けて通れない魅惑のモンスターに幼少時代を遥か昔に終えてしまったクロームが興味を失うのは時間の問題だった。




