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【2−8】さようなら

  アトレの剣は練習用の安いものだった。

 彼女が五歳の時、姉が魔法を使えるようになった。その時からアトレは魔法に強い憧れを持つようになった。


——おとうさま、私はいつ魔法が使えるの?


『ルミネと同じくらいにならないと難しいな』


——私もお姉ちゃんみたいに魔法の練習がしたい!


『困ったな……なら剣術の練習をしよう。これも立派な貴族の嗜みだ』


 その時、アトレは木刀と一緒に剣を貰った。無骨な見た目で、至って派手な装飾という物もない。

 鍛冶屋に行けば、バーゲンセールで売っていそうなくらい普通の剣だ。(実際は姉のために買った練習用だが)

 アトレは剣を貰うと、すぐに練習を始めた。

 大人が使う大きさの剣は、五歳児にとって重くて大きすぎるが大して気にはならなかった。

 そして、魔法の練習をする姉の隣で剣の練習をした。横では何も出ない剣に比べて派手な魔法。でも、隣で一緒に練習していると、自分も使えた気がした。

 しばらくして、父が誕生日に新しい剣を買ってやると言い出した。

 しかし、アトレはそれを断った。

 ずっと使い続けて錆が目立つこの剣は、アトレにとって初めて相棒と言えるものだった。新しいものの方が綺麗で手にも馴染みやすいだろう。

 それでも、アトレは練習用の剣を使い続けることにした。初めての相棒に別れは告げたくなかった。

 だから今でもこの練習用の剣を使っている。錆は落とし、蝋を塗り、大切にしてきた。あの頃は大きかったこの剣も、成長した今は丁度いい大きさになってしまった。

……しかし、今は柄しか残っていない。


* * *


(どうしよう……私の、剣が……)

 呆気に取られていると、竜がアトレを弾き飛ばした。

 その瞬間、胸のペンダントが一瞬だけ光り、防御結界が張られた。

 しかし、竜の攻撃に気付くことができなかったアトレは、受け身を取ることができず大きな音を立てて地面に転がってしまう。幸い、大事に至るような怪我は無く軽傷で済んだ。

(うっ……身体が痛い。でも、剣が……)

 転がったアトレの元へ、ボスが走って向かってきた。

 さっき、グザヴィエが地面を動かし岩の壁を作ってボスを守ったため、ギリギリ傷一つ無く戻ってこれた。

「大丈夫か! アトレ・エマニュエリ、剣はどこに行ったんだ?」

「……折れたの」

「折れたって……万事休すだな。急いで撤退するぞ!」

 アトレの手を取って立たせる。でも、アトレは立って俯いたまま手を振り解いた。

「……ない」

「どうした! 早く行くぞ!」

 この隙にも竜はアトレたちを狙ってくる。空にいるラスカにはお構いなしのようだ。

 ボスは無理やり腕を掴んだ。それでもアトレは腕を振って、ボスの手を振り解いた。

「私はもう逃げない! 絶対に勝って笑って帰ってやる!」

 アトレの目には涙が浮かんでいた。

「じいや! 銃を!」

「了解しました! お嬢様!」

 バルは勢いをつけて思いっきり投げ飛ばした。

 アトレは重い銃を頑張って受け止め、走り出す。

「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 竜の厚い皮膚の内側にある心臓を狙い、銃口を竜に突きつけて発砲した。

 何発も、何発も。アトレは引き金を引く。

 空になった赤い薬莢が、地面に音もなく落ちる。その度に竜は雄叫びを上げた。

(さようなら。私の剣……)

 引き金を引く。最後の弾が出た。

 竜は、これまでにない声で叫んだ。


* * *


 気が付くと、アトレは金色の麦畑に立っていた。辺りには自分以外誰もいない。

 晴天の空の下、風が吹いた。

 思わず目を閉じ、また開くと、白い無地のワンピースのような服を着ている、金髪の少女が裸足で畑の中に立っていた。

 よく見ると、今の時代の服の感じではない。おそらく千年前の服装だろう。

 きょとんとしていると、謎の少女が近づいてきた。肩まで伸びた髪がそよ風でたなびく。

 でも、どこかで見覚えのある顔つきだ。ラビナでも、学校の友達でも家の者でもない。

 それでも、確かにどこかで見たことがあるのだ。

「あーあ。きみも来ちゃったか」

 そっけない感じで喋りながらゆっくりと近づいてくる。

「……あなたは、誰?」

「ぼく? ぼくは<風の執政>。きみたちの言葉で言うなら、<豊穣神ケレース>だよ」


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