第82話 最近のギャル語わっかんねえなぁ
【20年前 帝都・元老院議事堂】
杉原センポの被る帽子の上で繰り広げられる、あまりにも謎すぎる人形劇。
ロバ、ニワトリ、そしてフォーマルなスーツを着た明太子に加えて、新たな人形がひょいと姿を現した。
???「ロバっち~、トリニキ~!ごめんなんだけど~、あーし寝坊したわ~」
現れたのは、やたらノリが軽い…というか完全にギャル口調の猫の人形だった。
渋谷のギャルを思わせる派手な装いに、無駄に主張の強いつけまつげ。サイズの合っていないピンクのフレームのサングラスを額に乗せている。
議員1「今度は猫まで出てきよったぞ!」
議員2「ハハハ!!もはや予測がつかんな、この劇は!」
議員たちはすっかり、このカオスな人形劇に引き込まれていた。
ロバ「あ!猫おっせーよ!!ライブの日に寝坊なんかすんなよな!」
ネコ「いやマジごめんて~!起きて時計見たらさぁ、集合時間とっくに過ぎてんの!ウケるっしょ?」
ロバ「ウケねーよ!!そのルーズすぎる性格どうにかしろよ!」
ネコ「マジ、ロバっち真面目ちゃんすぎ~。あれ……それよりワンワンは?」
雄鶏「それがさ~、犬のやつ来れねえんだってさぁ」
相変わらず雄鶏は、焼き鳥のネギマをもぐもぐと食べている。
雄鶏「なんかインフルになったみたいでさぁ。あ、塩の砂ずり食う?」
ロバ「お前はいつまで焼き鳥食ってんだよ!!」
ネコ「え~マジ?それやばくな~い?」
マイペースすぎる雄鶏と猫のやり取りに、ロバは頭を抱える。
ロバ「まあそれでよ…。どうするかをこいつと話してたら……」
ロバは視線を明太子に向ける。
衝撃の明太子「……ハハ、そうカリカリしなさんなお二人さん」
低く、落ち着いた声が割って入る。
明太子「ドラムの代打なら、ここにいるぜ。…この俺がな」
ドヤ顔を決める明太子のぬいぐるみ。
ネコ「え!?」
明太子のぬいぐるみを見て、ネコは目をキラキラさせる。
ネコ「うわっ、なにこれ!?なにこのデカい明太子!!」
ネコは思わず舌なめずりする。
ネコ「やっばぁ、あーし明太ちょー好きなんだけどぉ」
ロバ「いやそいつ、どう見ても食えねえだろ。顔ついてる上に、喋ってるんだぞ」
雄鶏「ロバくん。多分、ネコちゃん聞こえてないと思うよ」
ネコ「いただきまーす!」
ガブッと『衝撃の明太子』にかぶりつく。
衝撃の明太子「……ん?」
ロバ「食うな食うな!!腹壊すぞ、こんな変な明太子」
衝撃の明太子「そこの奇蹄目。『変な』とは失礼だな?賞味期限はすぎてはおらんぞ。もちろん冷凍も可だ」
ネコ「え、なにこの明太子しゃべるんだけどウケる~」
杉原センポの頭上。
開いた帽子のクラウンの中で繰り広げられる光景を前に、グラバーは思わず手を叩いて笑った。
グラバー「おいおい、なんだ今のは!あの赤いぬいぐるみにかぶりついたぞ!?」
ハヌス「フフッ……まったくもって展開が読めないな」
隣のハヌスも笑いながら、視線を離そうとはしない。
雄鶏「ネコちゃんが今かじりついてるその人が、今回のドラマーなんだよ」
ロバ「いやだから、このフォルムでどうやって演奏する気なんだよ!」
ネコ「え?」
ネコは口を離し、改めて顔を見る。
ネコ「ええ!?やば、あの伝説のドラマー『衝撃の明太子』じゃん!!マジ!?ホンモノ!?」
ロバ「え?なになになに怖い怖い怖い!!こいつ有名人なの!?」
雄鶏「だからそう言ってんじゃん。この界隈じゃ結構有名な人なんだよ?」
ロバ「いやどんだけ狭い界隈だよ!!」
ネコはその場でぴょんぴょん跳ねる。
ネコ「あーし俄然やる気出てきたわ!ベース準備するし!」
ロバ「いやちょっと待て!!勝手に話進めんなよ!!」
衝撃の明太子「……決まりだな。観客を待たせるのは無礼というもの……早速、準備に入ろう」
ロバ「いや勝手にお前が仕切るんじゃねえよ!?どういうキャラ目指してんだよ!」
その時、真下のセンポが人形たちに声をかける。
杉原センポ「おや?皆さん、どうやら話がまとまったみたいですね」
ネコ「あ~っ!?センポじぃじ、おひさじゃ~ん!あーしたちの演奏、聞いてくし!!」
センポ「ええ、それはもちろん。私も話を聞いていて、ワクワクしていたところです」
ロバ「センポさん!だから変な方向に舵切ろうとするのは」
そこまで言いかけて、ロバはふと周囲を見渡す。
元老院の議員たちが、じっとこちらを見ている。
すなわち、彼らにとっては大勢の観客。
ロバ「……しゃーねえ!こうなりゃヤケクソだ!」
帽子の中からギターを引っ張り出す。
ロバ「センポさん、準備の間の『繋ぎ』頼めるかい?」
センポ「もちろんです。お任せください」
雄鶏「お、じゃあやるか!一旦準備するか~」
衝撃の明太子「皆の衆、しばし待たれよ!そして、我が‟衝撃‟に震えるがよい」
ロバ「お前はさっきからキャラブレブレなんだよ!!」
そういって、人形たちは一度帽子の中へ引っ込んでいった。
パタン
帽子が閉じた後、議場に再び静寂が訪れる。
議員1「……ん?終わったのか?」
議員2「いや……何やら準備をして、また出てきそうな気配であったぞ」
議員3「ジパングの使者よ!続きはあるのか?」
全員の視線が、再び杉原センポへと向けられる。
彼は、ホッホッホッと穏やかに笑った。
センポ「ええ。これから彼らによる演奏が始まります。……ですが、その前に」
カツッ
一歩、前へと踏み出す。
センポ「先ほどの話の続きを、少しだけさせてください」
議員たちの目が、わずかに鋭さを帯びる。
だがそれは、先ほどまでのような畏敬や疑念ではない。興味と期待を含んだ、柔らかな視線へと変わっていた。




