カメリアとの思い出
寮に戻ってから俺たちは朝と同じく闘技場で一時間ほど鍛錬し、部屋へ。
シャワーを済ませ、アメリアと一緒に明日の授業の予習を一通りこなしてからベッドに入る。昨日と違って今日はちゃんと魔法剣の状態で、だ。そう、俺は女の子と一緒に寝ているのではなく、愛剣を枕元に携えているだけなんだ。
ちなみに「愛剣」という表現は世界にファーストとセカンドが誕生してから使われ方が変わってきている。今回の俺のはあくまで古い方、武器として気に入っているという意味で使っている。
なんて自分自身によくわからない弁解をしながら目を閉じる。
『ねえユキト、結局昨日はカメリアさん? のこと聞きそびれちゃったんだけど、差し支えなければ聞かせてくれないかしら』
なぜ語気が荒くなっているのかにはツッコまず、どこから話したらいいのか考えながらカメリアについて話す。そういえば昨夜は話の軸が色々変わって結局カメリア本人のことについては触れなかったな。
「カメリアは、アミラ村に駆けつけた軍隊の隊長だった。けど、カメリアたちが駆けつけた頃にはもう村は無くなっていた。生存者がいないか探していたカメリアは工房の炉の中で気を失っていた俺を発見し、それがきっかけで軍を辞めて当時一四歳だった俺を引き取った。後から聞いた話だけど、生存者がいたことは軍に知らせなかったらしい。こういう場合若い生存者は国に引き取られたが最後、一生軍で働き続けなければならない。カメリアはそれを回避させたかったそうだ。俺はそれでもよかったんだけど、鍛冶師になるっていう夢を見つけたときには感謝したな」
『ユキトにとっての大恩人ってわけね』
「ああ。軍に入ったら今みたいに自由に動けなかっただろうし、そもそもあの炉で気を失い続けていたら命の危険があったから、命の恩人とも言える。本人は軍を辞めてまで俺を引き取った理由を、ただの気まぐれ、前から軍は辞めたいと思っていた、とか言ってたけど俺はウソだと思う。きっと間に合わなかったことに責任を感じたんだな」
『引き取られてからはどうなったの? 生活とか』
最初はどこか不機嫌そうなアメリアは今やすっかり話にのめりこんでいるらしく、急かすようにそう言ってくる。
「そうだな、俺の、それに多分カメリアも、以前の生活とガラッと変わった。カメリアが軍、さらに言うと王家の人間として生きることを辞める前に、自分が今まで貯金していたすべてのお金を引き出してくれたおかげで旅の費用には困らなかった。いつか全額返すつもりだ」
『なるほど、お金の心配は無かったワケね。旅はどうだった?』
「最初の一年くらいは正直あんまり覚えてないんだよな。村が滅ぼされたときのフラッシュバックがキツかったことと、狂ったように鍛錬してたことくらいしか。そんな俺に根気よくつき合ってくれたカメリアには頭が上がらないよ」
『……そう。じゃあ一年たった頃からは?』
「そこからはやっと立ち直ったというか、仇を討つっていう目的に冷静に向き合えるようになったよ。無茶な鍛錬もしなくなった。灰色のように見えていた風景にも色がついて、旅を楽しむことすらできるようになってきた。新しい地区や町。村から出たことの無かった俺にとってはすべてが新鮮だった」
『今のあたしと同じ状態ってことね』
「いや、お前ほどはしゃいじゃいない」
『すーぐそういうこと言って虚勢張るんだから。そうだ、今のユキトには明確な旅の目的があるけど、当時もそうだったの?』
別に虚勢張ってるわけじゃないんだけどな。アメリアほど感情豊かでオーバーリアクションなやつはそうそういないだろう。
「それが、特に無かったんだ。あてどなく旅をしていた。カメリアが軍を辞めたがっていたっていうのは本当だったのかもしれないな。行きたいところに行って満喫してた。俺は今みたいに村を滅ぼしたやつの情報を集めようとしたが、あんまりやらせてくれなかった。今戦っても犬死にするだけだ。もっと力をつけてから、って。だけど偶然手に入った情報を元に何個か怪しげな組織を潰したな。腕試しとかいって」
『賢明な判断ね。ユキトがSランクだとしても、勝てないかもしれない。幹部の時点でSランクなんだもの』
「幹部でもSランク、か。通りでうちの村が簡単に潰されたわけだ。師匠以外はAランクまでしかいなかったから。俺もBランクだったし」
『へ? 二年半前はBランクだったの?』
急に大きな声を出されて頭の中がぐわんぐわんと揺れる。驚くのも無理はない、か。
Aランクまでは血のにじむような努力や誰にも思いつかないような工夫次第でなんとかなる。けれどSランクは違う。才能、運、超常現象といったものが絡まないと至ることができない。BランクとAランクの壁とは比べものにならないくらい、AランクとSランクの壁は、厚い。
「カメリアの稽古のつけ方が尋常じゃなかったからSランクに到達できたんだろうな。一切の無駄がなく最適解にたどり着く鍛錬法をやらされてる気分だった。あの人が教師や教官になったらたちまち有名になるだろうな」
『ふ~ん。優秀な人だったのねぇ。肝心の、その、契約とか戦闘スタイルはどうだったの? あんたはセカンドじゃないから、カメリアさんがファーストかセカンドだったのよね?』
急に声音が変わったぞ。さてはこれが一番気になってることだな。
正直、アメリアにはあまり言いたくない。言ったらまた気にするだろうから。ここは適当にはぐらかそう。
「カメリアがセカンドだった。カメリア自身のパートナーとは俺を拾ったときに契約解除したらしいから、旅の途中で盗賊とかに襲われた際はもっぱらカメリアが魔法剣、俺が剣魔術士の役割で戦ったな」
『それでカメリアさんの能力というか、使える魔法とかどうだったの!?』
「ちょっと落ち着けって。能力はまあ、うん、普通だったよ。一般的なセカンドって感じで」
あーあこんなこと言ってたのがカメリアにバレたら殺されるだろうな。
『ウソね。それだけ優秀な剣魔術士なら魔法剣としても相当優れてたはずよ』
カンが鋭いな。ここは強引に押し切るしかない。
「もういいじゃないかそんなこと。言っただろう。前のパートナーのことは関係ないって」
『それでも気になっちゃうものでしょ。今日は諦めてあげるけど、いつか絶対に聞かせてもらうからね』
「はいはいわかったよ」
アメリアが絶対的な自信を身につけたときに、な
ここで一回寝返りを打ち、魔法剣・ブランフラムの方を向く。鞘に収めてあるから剣身は見えないが、鍔や柄の部分だけでも美しいものだ。
そろりそろりとやって来た眠気を払うために、その美しい柄に触る。この手に吸いつくような感覚。握っているときの安定感が半端ではない。鍔の部分は非常になめらかで……。
『ちょっとユキトあんた何してるのよ!? く、くすぐったいじゃないの!』
「すまない、手入れ禁断症というか、昔からこうやって剣に触るの好きだったからつい」
『人の姿のときだったら犯罪ね』
「人の姿のときに触るわけがないだろう!」
『そ、そうね。そうよね、うん』
あーもうまた変な雰囲気になってしまった。自重したいがどうにも抑えられない。代わりに立てかけてあるただの剣を触ることにした。
おかげで眠気を少しだけ払うことができた。まだ話せていないことがある。それだけは話しておかないと。
「脱線した話を戻す。と言ってもほとんど話し尽くしちゃったんだけどな。半年前、カメリアが行方不明になったときの、話」
『居酒屋で言ってたわね。重傷を負ったとかなんとか』
「そう。半年前のある日、俺たちはとある森を進んでいた。そのときに奇襲をかけられた。俺はまだしも、カメリアが察知できないレベルとなると相当な強者だ。その奇襲のせいでカメリアは重傷を負い、戦おうとした俺を川に突き飛ばして逃がした。川の流れは速く、元の場所に戻るのに時間がかかってしまったせいで、カメリアを助けることができなかったんだ。そこには襲撃者もカメリアもいなかった。カメリアは強い。きっと生き延びてどこかの町、地区にいると信じている」
カメリアが生きている確証は無い。が、死体も何も見つかっていない今は信じるしかない。
『きっと生きてるわよ。二年間あんたをここまで育て上げた人ならそう簡単には死なないはず』
「ああ。俺もそう思う。必ず見つけだして、また一緒に旅をするんだ。カメリアも俺と同じくアミラ村を滅ぼしたやつを追っている。戦力としてもカメリアが必要だ」
『そんな戦力としても必要だ、とかじゃなくて、素直に会いたいって言えばいいのに』
「! う、うるさい。実際頼もしい戦力なんだからいいだろ別に。今はアメリアもいる。カメリアがまた魔法剣と契約すれば剣魔術士が二人だ。また同じように奇襲されてもこれだけの戦力があれば対応できるはず」
『その襲撃者ってどんなやつだったの? あたしたちも気をつけなきゃいけないんじゃない?』
「奇襲のときは俺なんかに目もくれずカメリアだけ狙ったから。俺まで狙われてるかどうかはわからないけど、この地区を出た後は一応警戒しなきゃいけないだろうな。着ていたものにどこかの組織を示すようなものもなかったし、コートを目深にかぶっていたから顔も見えなかった。強いて挙げるとするなら、最初にアメリアが着ていたボロボロのコートに似ていたものを着ていたってくらいで……ってまさか!?」
『ええ。可能性は十分にあるわ。うちの組織の剣魔術士の可能性が。組織の人間は例外なくボロボロのコートを着用しているもの。カメリアさんのランクは?』
「本人はランク計測が嫌いでかなり前から計測してないって言ってたけど、まあSランクだろうな」
『それほどの人に重傷を負わせるくらいだから、きっと幹部。今リュミエールの幹部は四人いるから、もしかしたらアミラ村を滅ぼした幹部と同一人物の可能性もあり得るわ』
「あくまで推測に過ぎない。が、同一人物じゃないにしろ、リュミエールの幹部ならいずれ戦うことになるだろう。そうすればカメリアに傷を負わせた借りを返せる」
『そのためにもまずはカメリアさんを見つけないとね』
「だな。明日からも引き続き聞き込みを続けなきゃ。さて、これでほとんど話したし、そろそろ疲れた身体を休ませてやらないと。アメリア、他に何か聞きたいことはあるか?」
襲いくる睡魔に身を委ねる前にそう声をかける。アメリアも疲れがキているのか、脳内に響く声がか細くなってきている。あと話せても一言二言くらいかな。
『今までの話とはあんまり関係ないことだけど……ユキトが目的を達成して、鍛冶師になったら、あたしをアシスタントにしてくれないかしら? あんたが鉄を打ってる姿を、近くで見ていたいから。見てると、なんだかとても懐かしいような、温かい気持ちになれるから』
「……ああ、もちろん、いいぞ……でも俺のしごきはキツいから、覚悟、しとけ、よ……」
「……ありがとう。それが聞けて、すごく嬉しい。おやすみ、ユキト」
眠りに落ちかけていて曖昧にしか情報を伝達してくれない俺の脳は、アメリアがこぼした言葉を上手く受容してくれないまま、あっさりと意識を遮断させてしまった。
でもなぜか最後のおやすみ、ユキト、だけははっきりと聞こえた。




