第四章/2
第四章/2
授業の内容はまったく耳に入ってこなかった。
ただぼんやりと、頬づえをつきながら教室の天井をあおぎみて、とりとめもなく姫宮さんのことを考えていた。
火事――。
重い言葉だった。
問答無用に、ただただ非情にすべてを焼き、呑み尽していく火の手。なにもかもを奪い去り、あとに残るのは被害の爪あとだけ。
考えるだけで、頭が痛くなってくる。
弥子の話によると、姫宮さんの家は火事で全焼してしまっていたらしい。しかしその原因や、それによって彼女の環境がどう変わってしまったのかまではわからないそうだ。
第一音楽室に姫宮さんがとじこもるようになった原因に、冬休みの火事が関係しているのは間違いないだろう。しかしそれは、彼女が心をとざす理由の一端にすぎない。火事にあった、だから音楽室にとじこもる、では話が繋がらない。まだ、彼女の心を縛りつけている鎖は他にも残っているのだ。
だけど――。
きっと、もうすこしだ。もうすこしで、姫宮さんの心を殻の中にとじ込めている原因が突き止められる気がする。
『わたしは生きることを選べないくせに、死ぬことにも踏み切れない臆病者なんです』
あの日。俺は姫宮さんの秘めた想いをきいた。彼女の抱えている感情の一端に触れた。
彼女は鬱屈とした重い感情に苛まれている。
でもそれと同時に、姫宮さんは素直に笑うことのできる人だということも、俺は知っている。
彼女のために、俺はなにができるだろうか。
堂々巡りの思考を何周もさせているうちに、授業終了のチャイムが鳴っていた。




