第3話 森に踏み入る者たち
エアコン壊れて買い替えと取り付けしてました。
夏前に壊れて助かりました。
森の奥で、僕は霊体のままふらふらと歩いていた。
本体の球根は相変わらず地面に根を張り、深い眠りの中にいる。
霊体の僕は軽く、風に乗るように漂う。
けれど、歩くたびに眠気が増していく。
「……歩くのって……やっぱり面倒だ……」
そんなことを思いながら、倒れた魔物の残骸を避けて進む。
そのとき――
「……人の気配?」
霊体の感覚が、森の入口付近に“何か”を捉えた。
魔物とは違う、落ち着いた気配。
夢想スキルで得た記憶と照らし合わせると、それは“人間”だとわかった。
◆
森の入口では、三人の冒険者が足を止めていた。
「……静かすぎるな」
低く呟いた男の声が聞こえる。
夢想で見た記憶から推測するに、あれは“前衛”だ。
剣士か、戦士か……そんな感じ。
「レオン、そんな怖い顔しないでよ。森が静かなのはいいことじゃない?」
軽い声で返したのは、弓を背負った女性。
弓使い――レンジャーかもしれない。
「ミナ、油断は禁物だ。依頼は“異変の調査”だぞ」
落ち着いた声で言ったのは、杖を持った青年。
魔術師……たぶん。
会話の中で、自然と名前が聞こえてくる。
前衛の男は レオン。
弓使いの女性は ミナ。
魔術師の青年は カイル。
カイルは杖を軽く振り、呪文を唱えた。
「〈探知〉……展開」
杖の先から淡い光が広がり、森の奥へと染み込んでいく。
「……反応が薄い。魔物がほとんどいない」
「やっぱり異常だな」
「気をつけろ。何かがいる」
三人は森の奥へと進んでいく。
◆
僕は、木の上からその様子をぼんやりと眺めていた。
霊体の僕は、木々の間をすり抜けるように移動できる。
冒険者たちの姿を見て、初めて“人間”という存在を直接認識した。
「……これが……人間……」
夢の中で見た姿と同じ。
けれど、実際に見ると、魔物よりもずっと弱そうに見える。
「……あんなのに……襲われたら……面倒だな……」
僕は戦う気などまったくない。
むしろ、関わりたくない。
ただ静かに眠りたいだけだ。
◆
冒険者たちは、倒れた魔物の残骸を見つけた。
「……これは……」
レオンが剣の柄に手をかける。
「噛み跡も、斬られた跡もない……?」
ミナが眉をひそめる。
カイルは残骸に手をかざし、魔力を流し込む。
「〈解析〉……発動」
淡い光が魔物の体を包む。
「……魔力が抜けてる。まるで、吸われたみたいだ」
「魔物を喰う魔物がいるのか?」
「いや、こんな跡は見たことがない」
三人は顔を見合わせる。
「……依頼以上の厄介事かもしれないな」
「でも、ここまで来たら引き返せないよ」
「奥へ進むぞ」
◆
僕は、木の陰から彼らを見つめていた。
「……僕のこと……探してるの?」
いや、違う。
僕はただ眠っていただけだ。
魔物が勝手に倒れて、勝手に吸収されただけ。
それなのに、彼らは“何かがいる”と勘違いしている。
「……めんどくさい……」
僕はため息のように光を揺らした。
◆
冒険者たちは、さらに奥へ進む。
「レオン、前を頼む」
「任せろ」
レオンは剣を抜き、前方を警戒する。
その動きは無駄がなく、夢想で見た“剣士”の記憶と一致していた。
ミナは弓を構え、木々の間に視線を走らせる。
弓の扱い方は、夢で見た“レンジャー”そのもの。
カイルは杖を握り、魔力を練っている。
魔術師の気配だ。
「……やっぱり、夢で見た通りだ……」
僕は、彼らの職業を自然と理解していた。
◆
そのとき、カイルが小さく呟いた。
「……反応あり。……人影?」
三人の視線が一点に向いた。
そこに――
霊体の僕が立っていた。
淡い光をまとい、植物の繊維のような髪を揺らし、
中性的な姿で、ただぼんやりと彼らを見つめている。
レオン「……精霊……?」
ミナ「いや……魔物……?」
カイル「でも……敵意は感じない……」
僕は、ただ眠そうに瞬きをした。
「……人間……?」
初めて発した声は、風のようにかすれていた。
三人は息を呑む。
レオン「……喋った……?」
ミナ「え、え、え、喋ったよね今!?」
カイル「落ち着け。敵意は……ない。むしろ……眠そうだ」
僕は、ゆっくりと首を傾げた。
「……眠い……」
その一言で、冒険者たちはさらに混乱する。
ミナ「ね、眠いって……どういうこと?」
レオン「わからん……だが、攻撃してくる気配はない」
カイル「……話ができるなら、接触してみる価値はある」
僕は、ぼんやりと彼らを見つめたまま、
ただ一つだけ思っていた。
「……早く……寝たい……」
そして――
この出会いが、後に僕へ“名前”を与えるきっかけになる。




