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君を知らないまま、恋をした  作者: 一ノ瀬麻紀


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36 年越し

「明けましておめでとう! (すばる)さん、今年もよろしくね」

『誕生日おめでとう、真白(ましろ)


 スマートフォン越しに聞こえる、昴さんの声。

 僕たちは、日付が変わった瞬間に、一斉にお祝いの言葉を言った。


「新年の挨拶が先じゃないのー?」

『何言ってんだ。俺にとっては、真白の誕生日の方が大事だ』

「もー、昴さんってばー。でも嬉しい。ありがとう!」


 年を越してすぐ、一月一日は僕の十七歳の誕生日だ。

 やっぱり、新年という大イベントには敵わないから、毎年世の中の正月のお祝いムードの片隅で、自分の誕生日を祝ってきた。

 でも今年は、一番最初に大好きな人にお祝いしてもらえて、僕は最高に幸せ者だ。


『もっと話をしていたいけど、朝早いからもう寝るんだぞ? 寝坊したら初日の出見れないからな?』

「うん、起きられるか心配だけど、昴さんと初日の出見たいから、頑張って起きるよ」

『うん、じゃあまた後でな。おやすみ』

「はい、おやすみなさい」


 僕は名残惜しいけど、スマートフォンの通話終了ボタンを押した。



「……まだ……寝てるのかしら……」

「……ってもいいですか?……」


 遠くから、会話が聞こえてくる。お母さんと……昴さん?


「……ろ、……ましろ……真白」


 体を揺さぶられる感覚と、僕の名を呼ぶ心地の良い声が聞こえてくる。

 んー? っとゆっくり目を開けると、目の前には大好きな人の顔があった。


「……?」


 なんでここに昴さんが?

 相変わらずかっこいいなー。声も本当に好きなんだよなぁ。

 僕はそんなことをぼーっと考えながら、目を数回パチパチと瞬かせ、働かない頭で考えていた。

 そしたら、モヤモヤしていた頭の中が急にクリアになり、ポンっと浮かんできた。


「あ! ……初日の出!」

「正解」

「え?」

「真白、おはよう」

「お、おはよう」

「そろそろ支度した方がいいかな」


 ニコニコしながら僕の顔を覗き込んでいる昴さんは、ちらっと時計を見ながら言った。


「ごめんなさいっ!」

「大丈夫だよ、近くだから。ゆっくりでいいよ」


 僕は慌てて飛び起きると、洗面台に向かった。

 びっくりしてバタバタ動いたせいで、胸が少し苦しくなってしまった。

 調子が悪くなったら、昴さんと出かけられなくなっちゃう。

 僕はすーっと深呼吸をして、ゆっくり……でも急いで出かける支度をした。



「え? ここに入っても大丈夫なの?」

「大丈夫。ちゃんと許可もらって鍵も借りてきたから」


 僕たちは、家からそう遠くない、近所の公園に来ていた。

 高台にあるからちょっと疲れてしまったけど、昴さんが手を引いてくれたので、その時間も楽しく過ごすことができた。


 この公園は穴場スポットだったけど、最近SNSで話題になったらしい。日の出待ちの人々が何人も集まってきていた。

 昴さんはその人々の横を通り過ぎ、横道を抜けてその先にある小屋に向かった。そして鍵を取り出して扉を開けた。


「公園の管理棟なんだけど、管理している人がちょっとした知り合いなんだ」

「いいの? 公共の場所じゃないの?」

「大丈夫。あとで一緒に挨拶に行こう」

「うん……」


 なんか、ちょっぴり悪いことをしている気持ちになって、ドキドキする。

 でも、小屋の窓から見える、住宅街の向こうに広がる海が神秘的で、ちょっとした罪悪感なんて吹き飛んでしまった。


「あと少しで、日の出の時間だ」


 深く濃い藍色に染まる南東の空が、少しずつ明るくなり始めた。

 ほんの短い時間に、ピンクやオレンジが混ざり込んで、グラデーションがどんどん色を変えていく。

 水平線から弧を描いた輪郭が顔を出し始め、オレンジ色に染まる空に浮かぶ光が、空全体を温かく照らした。


「うわぁ……すごい……」

「ああ……」


 僕と昴さんは感嘆の声を僅かに漏らしたあと、陽が昇りきるのを、ただ黙って見守っていた。


「お参りしてから帰ろうか」

「うん!」


 年に一度の特別感を味わった後、昴さんが初詣に行こうと提案してくれた。

 公園から少しだけ足を伸ばすと、地元の神社がある。普段はとても静かな神社だけど、年に数回だけ賑わう日があって、そのうちのひとつが年末年始の今の時期なんだ。


 神社に足を踏み入れると、初日の出の帰りに寄る人がたくさんで、いつもは静かな神社が不思議なくらい人であふれかえっていた。


「真白は、何をお祈りしたの?」

「何事もなく元気に過ごしたい……昴さんと一緒に過ごす時間が多いといいな……ってお祈りしたよ」

「ああ、俺と同じだな」

「お揃い、だね」


 そう言って二人顔を見合わせ笑い合った。

 僕たちは、同じ気持ちなんだと思ったら、寒空の下でも心も体も温かくなった気がした。


 そのあと、一年に一度の運試し、おみくじを引いた。


「あ! 僕大吉だ!」

「俺も。……おみくじまでお揃いだな」

「今年は、たくさんいいことありそうだね!」


 願い事もおみくじも、僕たちは相性ぴったりの『お揃い』だった。

 年明け早々嬉しいことづくめで、気づいたらシロの時のように小さくぴょんぴょん跳ねていた。


 帰り際に、神社で振る舞われていた甘酒もいただき、充実した時間を過ごして僕たちは帰路に着いた。

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