36 年越し
「明けましておめでとう! 昴さん、今年もよろしくね」
『誕生日おめでとう、真白』
スマートフォン越しに聞こえる、昴さんの声。
僕たちは、日付が変わった瞬間に、一斉にお祝いの言葉を言った。
「新年の挨拶が先じゃないのー?」
『何言ってんだ。俺にとっては、真白の誕生日の方が大事だ』
「もー、昴さんってばー。でも嬉しい。ありがとう!」
年を越してすぐ、一月一日は僕の十七歳の誕生日だ。
やっぱり、新年という大イベントには敵わないから、毎年世の中の正月のお祝いムードの片隅で、自分の誕生日を祝ってきた。
でも今年は、一番最初に大好きな人にお祝いしてもらえて、僕は最高に幸せ者だ。
『もっと話をしていたいけど、朝早いからもう寝るんだぞ? 寝坊したら初日の出見れないからな?』
「うん、起きられるか心配だけど、昴さんと初日の出見たいから、頑張って起きるよ」
『うん、じゃあまた後でな。おやすみ』
「はい、おやすみなさい」
僕は名残惜しいけど、スマートフォンの通話終了ボタンを押した。
◇
「……まだ……寝てるのかしら……」
「……ってもいいですか?……」
遠くから、会話が聞こえてくる。お母さんと……昴さん?
「……ろ、……ましろ……真白」
体を揺さぶられる感覚と、僕の名を呼ぶ心地の良い声が聞こえてくる。
んー? っとゆっくり目を開けると、目の前には大好きな人の顔があった。
「……?」
なんでここに昴さんが?
相変わらずかっこいいなー。声も本当に好きなんだよなぁ。
僕はそんなことをぼーっと考えながら、目を数回パチパチと瞬かせ、働かない頭で考えていた。
そしたら、モヤモヤしていた頭の中が急にクリアになり、ポンっと浮かんできた。
「あ! ……初日の出!」
「正解」
「え?」
「真白、おはよう」
「お、おはよう」
「そろそろ支度した方がいいかな」
ニコニコしながら僕の顔を覗き込んでいる昴さんは、ちらっと時計を見ながら言った。
「ごめんなさいっ!」
「大丈夫だよ、近くだから。ゆっくりでいいよ」
僕は慌てて飛び起きると、洗面台に向かった。
びっくりしてバタバタ動いたせいで、胸が少し苦しくなってしまった。
調子が悪くなったら、昴さんと出かけられなくなっちゃう。
僕はすーっと深呼吸をして、ゆっくり……でも急いで出かける支度をした。
◇
「え? ここに入っても大丈夫なの?」
「大丈夫。ちゃんと許可もらって鍵も借りてきたから」
僕たちは、家からそう遠くない、近所の公園に来ていた。
高台にあるからちょっと疲れてしまったけど、昴さんが手を引いてくれたので、その時間も楽しく過ごすことができた。
この公園は穴場スポットだったけど、最近SNSで話題になったらしい。日の出待ちの人々が何人も集まってきていた。
昴さんはその人々の横を通り過ぎ、横道を抜けてその先にある小屋に向かった。そして鍵を取り出して扉を開けた。
「公園の管理棟なんだけど、管理している人がちょっとした知り合いなんだ」
「いいの? 公共の場所じゃないの?」
「大丈夫。あとで一緒に挨拶に行こう」
「うん……」
なんか、ちょっぴり悪いことをしている気持ちになって、ドキドキする。
でも、小屋の窓から見える、住宅街の向こうに広がる海が神秘的で、ちょっとした罪悪感なんて吹き飛んでしまった。
「あと少しで、日の出の時間だ」
深く濃い藍色に染まる南東の空が、少しずつ明るくなり始めた。
ほんの短い時間に、ピンクやオレンジが混ざり込んで、グラデーションがどんどん色を変えていく。
水平線から弧を描いた輪郭が顔を出し始め、オレンジ色に染まる空に浮かぶ光が、空全体を温かく照らした。
「うわぁ……すごい……」
「ああ……」
僕と昴さんは感嘆の声を僅かに漏らしたあと、陽が昇りきるのを、ただ黙って見守っていた。
「お参りしてから帰ろうか」
「うん!」
年に一度の特別感を味わった後、昴さんが初詣に行こうと提案してくれた。
公園から少しだけ足を伸ばすと、地元の神社がある。普段はとても静かな神社だけど、年に数回だけ賑わう日があって、そのうちのひとつが年末年始の今の時期なんだ。
神社に足を踏み入れると、初日の出の帰りに寄る人がたくさんで、いつもは静かな神社が不思議なくらい人であふれかえっていた。
「真白は、何をお祈りしたの?」
「何事もなく元気に過ごしたい……昴さんと一緒に過ごす時間が多いといいな……ってお祈りしたよ」
「ああ、俺と同じだな」
「お揃い、だね」
そう言って二人顔を見合わせ笑い合った。
僕たちは、同じ気持ちなんだと思ったら、寒空の下でも心も体も温かくなった気がした。
そのあと、一年に一度の運試し、おみくじを引いた。
「あ! 僕大吉だ!」
「俺も。……おみくじまでお揃いだな」
「今年は、たくさんいいことありそうだね!」
願い事もおみくじも、僕たちは相性ぴったりの『お揃い』だった。
年明け早々嬉しいことづくめで、気づいたらシロの時のように小さくぴょんぴょん跳ねていた。
帰り際に、神社で振る舞われていた甘酒もいただき、充実した時間を過ごして僕たちは帰路に着いた。




