第十四話
「...ま...」
(...)
「...さま!」
(...ん...誰かの...声がする...)
「リラ様っ!!」
びくん、と身体が震えた。私を呼ぶ声に反応して、ゆっくりと目を開けると、ロイド様が目の前に立っていた。
「やっと起きた。リラ様、よく眠れた?」
「...えっ、ロイド様、今日は授業はありませんでしたよね?」
よくまわらない頭でロイド様に尋ねた。
(なんでここにロイド様がいるの...?)
ロイド様の手には、分厚い本が2冊ほどあった。
「うん、今日授業はないよ。たまたま本を借りに来たら、リラ様が中庭で寝てるからさ。もうすぐお昼だし、起こした方がいいかなって思って。」
「えっ、お昼...」
確かに太陽が頭の上に登ろうとしていた。朝から図書館に来ていたから、結構な時間が経っていることになる。
(今頃メイが私のこと探してるかしら...)
そろそろ戻らないといけない。
私は立ち上がって草を払うと、ロイド様と向かい合った。
「起こしてくださってありがとうございます。私はもう戻りますけど、ロイド様は?」
「僕も帰るところだよ。途中まで一緒に行こうか」
はい、と頷いて、ロイド様と並んで歩き出した。木陰から一歩でると、太陽の日差しがとても強かった。
「昨日はお疲れ様。夜会、大変だったでしょ?声を掛けようと思ったんだけど、長蛇の列だったから諦めたんだ」
「私も驚きました。久しぶりの夜会だったので、よく要領がつかめなくて」
昨日のことを思い出して苦笑すると、ロイド様も目を細めてくしゃっと笑った。
(そっか。ロイド様、夜会に出席するって仰ってたものね。すっかり忘れてたけど)
「昨日はケルピア帝国の国賓も来てたみたいだね。僕は会わなかったけど、リラ様は挨拶したの?」
ロイド様の問いに頷きながら、疑問を感じていた。
(なんでケルピア帝国の国賓が来ていたことをロイド様が知ってるのかしら)
私でさえ知らなかったことなのに、と思うのは考えすぎだろうか。そう思いながら、ロイド様に言った。
「えぇ、たまたま庭でお会いしたんです。」
そうなんだ、とロイド様は相槌をうってそれ以上は聞いてこなかった。
ロイド様と喋っているうちに、いつの間にか部屋に着いていた。
「ロイド様も帰る途中だったのに、送ってくださってありがとうございます」
「ううん、気にしないで。それじゃ、また明日ね」
ロイド様の後ろ姿を見送って、部屋に入った。
「あ!リラ様、ギリギリですよ。」
「まだルークは来てないの?」
「はい。でも、もうすぐ来ると思います」
そう、といって、ソファに座った。
メイはテーブルセッティングを行っていた。その様子をぼーっと見ながら、さっきのロイド様の問いのことを考えていた。
(なんでケルピア帝国の国賓が来ていたこと知ってたのかしら...。)
昨日の夜会が終わったあと、ルークにエヴァン殿下のことを聞くと、知らなかった、と言っていた。ルークが知らなかったからリストに載っていなかったのかと納得したが、ルークが知らないことをロイド様が知っている。こんなことは、有り得るのだろうか。
(普通はありえないわよね...。それに、未だによくロイド様のこと分かってないし)
私と同じぐらいの歳で、講師が出来るぐらい頭がよくて、それなりの家の人。それぐらいしかロイド様に関する情報はない。
ロイド様のことをぐるぐると考えていると、ルークが部屋に入ってきた。
「リラ様、昼食をお持ちしました。」
テーブルに移動して席につくと、ルークに早速聞いてみた。
「ねぇ、ロイド様のこと知ってる?」
「リラ様の魔法学の先生をやっている方でしょう。ロイド様がどうかしたんですか?」
実はね...と私がルークに話すと、ルークも疑問に感じたようだった。
「それは...」
「おかしいわよね、ルークも知らなかったのに。」
(やっぱり、ロイド様には何かあるのかしら...)
ルークも何やら考え込むような顔をしていた。私は、これからロイド様のことを観察してみようと考え、昼食を食べ始めた。