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「そんなこと…?!」
怒りに駆られた俺はつかみかかろうとしたが、ゼメキスがそれを許さなかった。
「娘を、自分の子どもを殺しておいて、そんなこと…!」
「私に娘はいない」
「何っ…?!」
「私が持っているのは試作品だよ。私の理想を実現するための人形だ。私にとってのハダリー、私にとってのガラテア。あれらはエレクトラ・グラディス・ナイトクラウドを再誕させるための器に過ぎない」
ひとしきり話した後、ローレンスは杖の先で俺の肩を突いた。
「それよりもだ。まず私から君に詰問させてもらおう。そのためにビュロウの目の前で君をさらうリスクを冒したわけだ。もっとも、あの女捜査官もいずれ始末するがね」
「やめろ…!」
「君の許可がいるかね?まぁそれはどうでもいい。まずは私からの質問に答えてもらう。まず…君の記憶は戻ったのかね?」
俺は口を噤んだ。答える義務なんてない。こんな奴の言うことなんて聴くものか。
「意固地だな。ゼメキス」
「ヤー」
ゼメキスが拘束されている俺の右手の人差し指を掴み、思いっきりひねり上げた。折れる寸前のすさまじい力だ。
「うあぁぁっっ…!」
俺はうなり声を上げる。痛みで冷や汗が噴き出るが、それでも唇を噛んで沈黙を貫く。
「ゼメキス、折れ」
「ヤー」
パキッ。骨が折れる音は思いのほか軽い音がした。そんな音と対照的に、爆ぜるような痛みが右手に宿る。
「あああああっっ!!」
俺は悲鳴を上げる。痛みに悶えながら、俺はローレンスを睨んだ。必死な形相をしている俺に対し、ローレンスは表情を少しも動かさない。
「ふむ、意固地だな。特殊な訓練を受けていないわりにはよく耐えている。このまま全ての指を折っても構わないが効果は薄いだろうな」
「サー・ローレンス。別のやり方を試しますか?」
冷酷な声音で話すゼメキスは折れた人差し指を執拗に握ってくる。なおも持続し、肥大する痛みを俺はシーツを噛んで耐えていた。
「口を割る方法は幾らでもある。生きてさえいれば問題はないのでしょう」