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フェリシティは一粒のハードカプセルを俺に渡した。普段飲んでいる睡眠導入剤とは違うタイプのカプセルだ。
「ただのカフェイン剤だから、さっさと飲んで」
飲むのをためらう俺の肩を叩いて、フェリシティは先に運転席から出た。
このまま薬づけにされるんじゃないかという、軽い恐怖心を覚えながら俺はカプセルを飲んで車から出た。
夜の更地はより殺風景で、街頭に照らされて一層侘しさが際立っていた。俺は更地を歩き、ある位置に立つ。
「ここが…イリスを匿っている部屋があった場所ですよね」
「そうよ。アパートの一番奥まった場所にある部屋。ちょうどトムソン夫妻の部屋の隣の位置ね。普段は壁に見立てた板で塞がれていたようね。鍵はトムソン夫妻が管理していた」
フェリシティが俺の隣に立った。
「人を匿うことにおいて彼らは優秀だったようね。これまで匿っていた人間の追跡は大変だったわ。イリスも慎重に、入念に隠されていた」
「今思い出している記憶で、俺はイリスと会っていませんでした。いること自体気づいていなかった」
「トムソン夫妻の部屋とイリスの部屋は内部で繋がっていたわ。室内に書棚で隠された扉があってそこで行き来していたみたい。まぁ外からは確認しようがない」
待てよ。そうだとしたら…
「俺は、どうやってイリスの手紙を見つけたんでしょうか?」
フェリシティがタバコに火を点け、俺に続きを促す。
「俺がイリスに気づいたのはあの手紙がきっかけでした。俺は手紙に気づいてから、イリスに…」
「ラブレターを書き始めた。普通に考えたら、イリスが何らかのきっかけであなたに気づいて、手紙を届けたんじゃなくて?」
「だとしたら、手紙は不自然です。トムソン夫妻に事情を話して俺を部屋に連れてこさせればいい。そっちの方がリスクが少ない」
「それは道理だけど…」
フェリシティは目を細めた。フェリシティも俺の仮説を具体的に把握しつつある。俺はその視線をわかった上で更地を歩いた。イリスのいた部屋の位置から動き、廊下へ。アパートの現物はないが、内部構造は記憶の中にしっかりと残っている。俺は脳内でアパートの中を描きながら歩いた。
「だとしたら…あの手紙を俺は偶然見つけたことになる。そして…俺が手紙を見つけ、ラブレターを書いていた時期…」
イリスが匿われていた部屋から出て、廊下へ出る。記憶の扉をノックし続ける。空白へ続く扉を。
「そもそもイリスは俺がいたことを知っていたのか…?いや、それよりも…俺が書いていたのは本当にラブレターだったのか…?」
自分の部屋があった位置に立ち、辺りを見渡す。向かいにあるダイナー、傍にある植え込み、隣のビル。
「イリスが手紙を書く理由…」
―――いつ届くかわからない
記憶の扉が開いていくのを感じる。
―――私が今いる場所はいえないけど
扉の奥にあったのは空白じゃない。
―――私が裏切ったのは事実
そこにあったのは記憶。
―――今は監視の目があるから
消えていた、記憶…。
「…そうか、だったら、俺は…」
「真田君」
呼ばれて振り返ると、フェリシティがスマホを見せた。
「ボスから連絡が来たから電話してくる」
「わかりました」
「ちょっと込み入った話があるから車の傍で話しているわ。あなたを信頼しているけど、一応隠す必要があるから」
そういったフェリシティは車に向かった。
…あれ?
俺は開きかけた記憶の扉に手をかけていた。より大きく開き、奥の全てを明らかにするために。
隠す必要があるから。
「フェリシティさん!」
電話をしようとしていたフェリシティを俺は呼び止めた。
「俺、見つかった時、どんな様子でした?」
「様子?そうね、爆発と落下の衝撃で脳震盪を起こして、意識がもうろうとしていたとそうよ」
「それ以外に…体の様子は?」




