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「父さん…」
『それにな。お前をあんまり縛り付けると聡里に怒られる。俺は尻に敷かれるタイプだったからな』
いつの間にか父は鼻声になっていた。
『だからな、和嵩。やりたいことがあれば、必ずやれ』
鼻をすすり上げた父はそう言い切った。
『やらないで後悔する方が辛い。あの時ああすれば良かったなんて、答えの出ない悩みをずっとすることになる。例え結果が悪くてもな、やってしまった方がずっとマシだ』
「…うん」
『もちろん俺は心配もするし、小言も言うだろう。親だからな。そればっかりはやめるわけにはいかない。でもお前のやることに間違いがないのなら、やらなきゃいけないのなら…振り切ればいい』
父につられて鼻の奥が熱くなってきた。俺は深く息を吸って熱を抑える。でも目頭も熱くなってきたのは止められない。
「父さん。お盆、帰るんだろ?」
『そうだな』
「待っているよ。何か…おいしいもの食べよう」
『わかった』
「じゃあ、おやすみ。今日は…ありがとう」
『もったいぶるなよ。まぁ、おやすみ。…って、そっちは朝か』
父との電話を終え、俺は出てこようとしていた涙をぬぐった。
今までずっと、母の放任主義は母の価値観に基づくものだと思っていた。
でも、父を通して知った。母の、ただの個人的なモットーじゃない。そこには家族を1人で行かせる勇気があったんだ。どんな結末を迎えようともその人の意志を尊重して行かせる。ただ見守るなんてものじゃない。傍にいたいと願いながらも、自分でそれを押し留める。
何で今更知ったんだろう。4年越しでやっと母の気持ちを理解できるなんて遅すぎる。こんなのを知ったら腰が重くなる。
…いや、違う。きっとこれにも意味がある。フェリシティも言っていたじゃないか。焦らずに、その時を待とう。
俺は絶対に生きて帰る。生き残ってやり抜く。そう決めたんじゃないか。もうブレない。死ぬとか、失敗とか、そんなことはもう考えない。
やりたいことをやりきるんだ。




