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また彼女は俺を試している。今度は俺の覚悟を知るために。生半可な覚悟で付き合わせないようにするためだろう。
「…自分が納得できる形にしたかった、って気持ちはあります」
俺は慎重にかつ正直に語るよう心がける。
「でも俺は知りたいんです。ハーピアが俺に自分のことを話してくれた理由を、俺を生かした理由を。全部俺の妄想かもしれない。身勝手な、自分に都合が良い想像かもしれない。それでも、イリスがハーピアのことを想っていたって、彼女に伝えたい。人を殺させるようなことを平然とするナイトクラウド家にいて、もしハーピアが苦しんでいるなら、手を差し伸べたいんです。それが、例え嘘でも俺を支えてくれたハーピアへの恩返しなんです。ハーピアと関わって、向き合おうとした俺の責任なんです。それに、例え想像でも、俺の記憶の欠片は、イリスが残してくれた欠片は間違いなくこの選択の中にある。あの千切れた手紙のように…。それらを集めていけば、イリスの本当の想いにつながるはずなんです」
フェリシティがグラスをあおった。ワインを飲み干し、深く息を吐く。
「OK。あなたの腹積もりはわかったわ。ごめんなさいね、詰問するような真似をして。あなたと違って私は正義を冠したビジネスでやっているの。結果にはこだわらないといけない。連れていくなら気骨がないと困るわけ。でも合格だわ。そこまでエゴイスティックになれるのならあなたは信頼に足るタフガイよ」
「エゴイスティックって…」
お世辞にもいい表現じゃない。俺は口を尖らせて不平を訴えるが、そんなリアクションを楽しむようにフェリシティは口元を歪めた。
「大事なことよ?何事も自分の力でどうにかできる、自分ならどうにかなると思うくらいの気概が必要よ。そのために他人を踏み台にするのも厭わないくらいのね。あなたが私を利用してアメリカに行くように、私だってあなたを使い倒す気でいるもの。むしろそんな気概がないと私とあなたは釣り合わないわ」
「安い女じゃないのよ、私」と言って、フェリシティは俺に皿を見るように促した。
「さぁ、ひとまず前菜を楽しみましょう。カルパッチョは乾いたらおいしくないもの。今夜はゆっくり楽しみましょう」
俺は頷いてフォークを手に取った。うっかりしていた。これは早めに食べなきゃいけないものだ。出てくる料理はまだある。コースはこれからも続くのだ。
「まずは私があなたに行き着いた経緯から話そうかしら」
ペンネ・アラビアータとジャガイモのニョッキにカボチャ入りのクリームソースをかけたセットが出てきたところで、フェリシティは話を切り出した。