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俺は皿に残っていたパスタを慌てて全部食べて、居住まいを正した。ここまでフェリシティと雑談をしていたせいで緊張感が抜けかけていた。認めもらったという安心感で落ち着いてしまったらしい。普通に料理を楽しんでしまっていた。
俺の間抜けな素振りが面白かったのか、フェリシティは小さく鼻で笑った。
「そこまで緊張しなくてもいいわよ。こんなのは序の口で、プロローグだから」
フェリシティはナプキンでグラスの縁についた口紅の痕を拭った。
「私達があなたに目を付けたのは事故に遭ったあなたが日本に帰った後よ。ニューヨークのあるアパートであった爆発事故で奇妙なことがあったという情報が入った。それがどうやらナイトクラウド家に絡んでいるらしいとのことでね。前々からマークしていた私達はすぐさま飛びついた。でも手遅れだったわ。爆発事故のめぼしい証拠はすでナイトクラウド家が手を回してほとんど処分されていた。でもNYPDにいた私達の協力者が証拠の一部を確保していたから、どうにか尻尾の先端くらいは掴めたというわけ」
「奇妙なことって?」
「死体の数が合わないのよ」
俺は一気に食欲が低下するのを感じた。対してフェリシティは表情を少しも動かさない。彼女にしてみれば死体は日常の一部なのだろう。
「爆発事故の被害者はトムソン夫妻を含めて18人。その内1人――つまりあなたね――は生きていたから死者は17人のはず。だけど実際の死体は18人あった。1人多いのよ。あなたの代わり死んだ人がいたみたいに」
痛烈な予感が俺の胸を突いた。
「まさか…!」
「イエス。それがイリス・エルフ・ナイトクラウドよ」
胸が焼けるような心地になる。何度聞いてもイリスが死んだという話は辛い。自分の無力感や悔しさが大挙として押し寄せてくる。
「その余分な死体が彼女だと判明するまでには少し時間を要したわ。黒焦げの破片から本人特定するのはそれなりに手間がかかるものだしね。そこで私達の中で一つの点が線になった。2か月以上前、正確には5月末頃…ナイトクラウド家で一悶着あったという情報が私達に入った。詳細は不明だけど誰かがナイトクラウド家から逃げ出したらしくてね。それから連中の動きが活発になった。それはもうひどいくらいに。アメリカのあちこちで変死事件が多発したわ。それもジャーナリストやテレビ関係者、SNSで著名なWEBライター…報道関係者ばかりが変死していた。きれいに証拠を消していく手口からナイトクラウド家の仕業だというのは分かっていた。そしてナイトクラウド家が総出で繰り出すくらい重要な情報を握っているって人物だってことも。まさか現当主ローレンス・メドン・ナイトクラウドの大のお気に入りだとは想像もつかなかったけど」




