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「別に、これはこれでいいよ。おいしい。早く食べたいから用意してよ」
反省する俺の肩を叩いて、彼女は皿の用意を始めた。俺は彼女に従って準備を手伝う。
更に米をよそい、ガンボをかける。テーブルに完成したガンボを置いて、俺達は向かい合って食事を始めた。
「やっぱりおいしい。初めてにしては上出来じゃない」
「ありがとう」
彼女は楽しそうだった。まだ屈託めいたものは残っているようだが、幾分陽気さが戻ってきている。
しばらくは槇原について俺達は話していた。槇原の人柄や考え方、ルーズさや勘の鋭さ。彼女は笑って付き合ってくれた。
ほどなく俺達の話題は自然と途切れた。会話の途中でしばしば起こる奴だ。それとなく話題が切れて、お互いのどちらかが話題を出すまで待機している状態。
このタイミングだ。
俺は意を決して、ゆっくりと口を動かす。
「なぁ」
「何?」
彼女が見返してきた。首を傾げている仕草を目の当たりにして、俺は停止する。真正面から向き合うとさすがに怯む。
「ガンボ…どうだった?」
不甲斐ない。俺はガックリと肩を落とす。いきなりど真ん中へのストレートを決める度胸はなかった。
「おいしかったよ。私が作るのとは違うけど…懐かしい感じがした」
「そっか、よかった」
「君のいう適当な懐かしさとは違うよ」
「わかっているって」
苦笑いしながら、俺は残り少ないガンボを口に運ぶ。
「アメリカ南部の料理らしいな。初めて知った」
「ニューヨークではあまり食べないかも。フライドチキンとか、ビスケットとかハイカロリーな料理もあるし、スパイシーな味付けも多いから。変にエスニックなんだよね」
「君の故郷の料理なのか?」
「んー…」
もしかしたら核心に入った?俺は固唾を飲む。
「故郷というか…昔ちょっといただけ。私はニューヨーク生まれだから」
彼女は淡々と答えた。特に感傷などないように。