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「たまたま南部に滞在することがあって…その時に覚えた。私、わかりづらい味付け好きじゃなかったの。ハンバーガーとかチリチーズ…単純で濃くて、体に悪そうな奴。その意味じゃ南部料理はよかった。スパイシーで面白い味がして…。
自分でメニューを調べて、練習した。まぁ作ったところで食べるのは私しかいないんだけどね。料理は家政婦が作ってくれるし、あんまりキッチン使うと小言言われるし」
「そうなんだ…。じゃあ俺が初めて食べたのか?」
「そうね。あの時が初めて」
話を終えたと同時に彼女は皿を空にした。彼女は立ち上がって皿を洗いに行く。
「南部で滞在って…仕事か何かで?」
彼女が横顔を見せた。かすかに眉をしかめているのがわかった。
「大分昔よ。10年くらい前かな。子供の頃だから仕事とかじゃない。お勉強…みたいな感じかな」
「仕事はいつから?」
「本格的に関わったのは4、5年前かな…私は遅かったから」
「4,5年前って13歳そこら?義務教育は…」
「義務教育は受けているわ。飛び級で6年前には終わらせたけど」
飛び級で終わらせたってカッコいい。日本人が言える台詞じゃない。
「どうしたの、今日は?妙に質問が多いわね」
皿を洗い終えた彼女が手をふきながら席に戻ってきた。目前に座った彼女を前に俺は背筋を正す。
「いや、色々知らないことが多いなぁって思って…」
「私のプライベートだもの、当たり前じゃない」
「もしかしたら君と話したことがあるかもしれない。それを聴いたら、記憶が蘇るかも」
彼女がまた、俺をまっすぐと見据えた。今度は先程より鋭さが増している。
「記憶が戻ったの?それとも、戻りつつある?」
「そこまでじゃない。ただ、道筋が…見えてきたかもしれない。漠然とした…ものは見えてきた感じはする。だから、確かめたいって考えもある」
納得したように彼女はうなずいた。眼差しは変わっていない。
「いいニュースね。わかったわ、話してみて」
とりあえず第一関門はクリアか。彼女に悟られないように胸を撫で下ろす。
だが油断はしない。この先、何を問いかけ、答えてもらうかが重要だ。本当に記憶が戻る可能性だってある。
慎重にいこう。
「仕事ってやっぱり大変なのか?やるべきことがたくさんあるだろう。休んで平気なのか?」
「まぁね。こう見えて創業者一族だから。休みなんて思いのままなの」
「創業者一族?会社やっているんだ」
「まぁそんなもの。有名な企業じゃないけどね」
「それで世界中を回っている?6年前もそうだった」
「そうね。日本に来たのも仕事の一環だった」
「そんな小さいころから…」
彼女は自嘲気味に笑った。
「使えるようになったら使うっていう家訓なの。なるべきものになるために、少しでも早いうちから伸ばしたいというスタンス」
「なんか非日常的だな」
「私からしたら日常よ」
家のことを話す彼女は決して楽しそうではない。努めて淡々と話している感じがする。
「人間はトロッコみたいなものよ。生まれた時に敷かれたレールが目の前にあって、その上に車輪を置いて渡っていくだけ。シンプルで先が長い人生」
「でも本当にトロッコなわけじゃないだろ?俺達は人間だしいつだって進む道も、今いる場所を変えられる」
「本当にそれができると思っているの?」
険のある声だった。俺は思わず口を噤む。
「人間が人間だとして、道も何もないような場所をどこまでも自由に行く…君はそう考えているの?でも実際にやってごらん。砂漠とか荒野とか、そういう場所で。ただ遭難するだけだよ」
「周りに人がいるじゃないか」
「関わりを持たない人間なんて風景と同じよ。実体があってもなくても関係ない。君は道場ですれ違ったおばさんとかおじさんに真剣な悩み事を相談する?」
「それはない…。でもこうして、一緒にいる人には話せるだろ?」
「それは巻き込むのと一緒だよ。今いる場所が嫌いな時に、一刻も早く抜け出したいからといって他の人を巻き込める?もちろん、その他の人は大切だと思っている人よ」
「それは…」
巻き込めない。自分ならそう考える。
だけど、それは…
「信頼されていないってこと…だよな」




