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当然の疑問だ。俺がカバンを持っているのを見つければ殊更疑問は沸くだろう。遠出をするには時間が短いし、近場に行くにはカバンは余計だ。俺の今の恰好はあべこべだと行っていい。
「あー…コンビニまで行ったんだけど、うっかりカバン持っていて、いらないと思って戻ってきた」
しょうもない嘘だ。だけど彼女の荷物から無断で物を取り出したことはごまかさなければならない。後ろめたいが、仕方ない。
疑惑を持ち合うのは避けたかった。
「何それ。まぁいいけど。また行くの?」
「うーん…もういいかな。俺も風呂入りたい」
「そう。まぁ飲み物は足りているし」
追及はもうないようなので、俺は改めて切り出す。
「あぁ、寝室に入っていいか?ちょっと出したい参考書があって。補習で持っていきたいんだ」
「じゃあ私が取ってくるよ。ちょうど用事あるし」
あぁそっか、そうなるか…。俺は頭をひねって別の理屈を講じる。
「いや、俺が行くよ。しばらく使ってないから戸棚の奥まった場所に置いてあるんだ。俺にしかわからない場所だし…」
「教えてくれれば私が取るけど?」
「いや、それは…」
彼女がキョトンとした目で首を傾げる。確かにそこまで俺が自分で取りに行くには理由が弱い。頼めば済むはずだし。
「あーそっか」
だが俺が理屈を重ねるより先に、彼女が言った。それも無邪気な悪意を称えた笑みを添えて。
「入っていいよ。君が取ってこればいいわ。そもそも君の部屋だし、あんまり私がプライバシーをかき乱すのもアレだし」
妙に素直だな。でも理由がよくわからない。プライバシーをかき乱すことに気を使うのはわかるけど、俺達の関係を踏まえると戸棚を開けることにそこまでのハードルがあるとは思えない。
彼女は何を気にしたんだろう?
「取りに行くなら早く。私も入りたいし」
「悪いな」
俺は足早に寝室へ向かう。すると彼女が思い出したように言った。




