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「あ、私のトランクさわらないでね」
彼女の言葉が胸に刺さる。もうさわっている。しかも中身を出している。
とっくに禁忌は破られている。俺は反省と緊張でドキマギしながら寝室に入った。自分の寝室に入るためにこんな気分になるなんて堪らない。
俺は寝室に入ると、すぐにクリアファイルを取り出し、彼女のトランクに入れた。最初に入っていた状態を思い出しながら、速やかにしまい込む。
これでOK。よし、後は参考書だ。戸棚に参考書が入っているのは本当だが、中学時代のものや高校1,2年の頃に使っていた問題集が主だ。正直今の勉強に使えそうなものはない。
とりあえず怪しまれないようなものにしよう。俺は現国の問題集を手にして寝室から出た。
「…ねぇ和嵩」
リビングのソファでくつろいでいた彼女に呼ばれて、俺は心臓を高鳴らせる。
見られたかと思ったが、そうではないようだ。彼女はスマホで動画を見ていたようだ。タンクトップにコットンのホットパンツと無防備な恰好でソファに横になっている。
「君って淡白なんだね。日本人はみんなそうなの?」
俺に背を向け、スマホの画面から目を放さないまま彼女は言った。
「え、何の話?」
「それとオタクの国だから三次元には興味がわかないみたいな?」
俺は彼女の真意をはかりかねて戸惑った。言わんとしていることが掴めない。
「だから私に手を付けないんだ」
それでピンときた。
「ち、違うからな!別に戸棚にそういう…アダルトな本は隠していないから!」
最近はネットで見ることができるのだ。本である必要はもうない。
…ってそんな話じゃなくて。
「ってか君がいてそんなことするかよ!本当に参考書だよ!」
俺は不動の証拠と言わんばかりに手にしている現国の問題集を突きつける。彼女は横目で確認するも、目はまだ疑惑を残している。
「私がいたらそんなことをしない?だったら私がいる時は何をしてくれるの?」
蠱惑的な視線だった。何を語りかけているのか、何を誘っているのかはすぐにわかる。
緊張が一気に高まった。寝室に入る時とは別種の、ヤカンの入った水が急速に沸騰したような緊張。
いや、これは興奮だ。
彼女はまだ流し目で俺を見続けている。視線で語り続けている。




