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俺の記憶を。
俺と彼女の記憶を。
「…ダメだ」
俺は項垂れた。ダメだ。捕まらない。
あと一歩まで近づいたという認識が落胆を大きくした。明確に、明白に見えてきたような気がしたのに。逃がしてしまった。
まだ何かが足りない?何かが欠けている?
彼女の、イリスの想いがこもった手紙を見ても、まだなのか。まだ思い出せないのか。
急がなければならない。俺は少しでも早く、思い出さないといけない。
「裏切った」。「罰」。「やるべきこと」。「ナイトクラウド」。
俺の知らないことばかりだ。
でも、これらには何か重要な事柄が隠れている。それも、良いことじゃない。
きっと良くないこと。いや、絶対に悪いこと。
それを彼女は隠している。隠した上で、俺に近づいている。
そこにはどんな意図が?決まっている、巻き込ませないためだ。
もしかしたら俺は関わっていたのだろうか。
記憶を失くした約2カ月前に、俺は彼女を取り巻く何かに行き当たったのか。
だとしたら俺はどれだけ関わっていたのだろうか。
結局、思い出せなかったという事実はわからない実感を覚えていない悔しさをより鮮明にするだけだった。
俺はまた手紙の破片に目を向ける。
なぁ、イリス。
君の伝えたいことを教えて欲しい。
俺にできることを教えて欲しい。
祈っても誰も答えてはくれない。これは俺自身が解決しなければならないことだ。
出来るのは俺だけなんだ。
―――あきらめないでほしい。自分を
わかっているよ、イリス。わかっている。俺は俺を取り返す。
君に会いに行くために。
「あれ?飲み物は?」
戻った俺を迎えたのは、風呂上がりでまだ髪が濡れている彼女だった。
しまった。飲み物を買い忘れた。
「何しに外に行ったの?」