112
「また会いに来るよ」
「…私からも行く。いつか、必ず」
次に会う時はただの真田和嵩とただのハーピア・ツヴェルフ・ナイトクラウドだ。俺達はありのまま向き合い、触れ合うことができる。もう邪魔するものなんてないんだ。
ナイトクラウド家が中心の騒動は終わったけど、俺とハーピアにとってはこれからが始まりだ。きっといい未来が待っている。何の確証もないけど、そう思えた。
だって俺達は自分で自分を選べたんだ。俺達が持っている自由を全うできたんだ。
俺もハーピアも、幸せになれる道を選べたんだ。
だから、もう何も怖くない。
俺はハーピアの手をしっかりと握り返した。
12.エピローグ:さよならは言えずとも
昼過ぎにフェリシティのセーブハウスに戻った俺は、すぐ父に電話した。時差のことは失念していたが、丁度父が仕事を終えたタイミングだったらしい。父はすぐに出てくれた。
そこで俺は記憶が戻った話をした。もちろん詳細は言っていない。ただ短期留学中の楽しい思い出がちゃんと復活したことを話した。
大げさなリアクションはなかったけど、父は喜んでくれた。だが俺が親指を骨折したという話を聞いたら説教が始まった。それも当然だ。息子が出かける度にケガをこさえてくるようじゃ、親は気が気でないだろう。俺は平謝りした後、お盆で再会を約束して電話を切った。
俺はベッドの上で横になった。まだ眠くならない。ただかれこれ24時間は活動している。そろそろ休まないと後が辛い。
眠気が来るのをゆっくり待ちながら、俺はイリスを想った。
俺の初恋の人。俺に素晴らしい事柄を教えてくれた人。
結局再会はできなかった。あれだけ近くにいたのに。そして手の届かない遠い所まで行ってしまった。
悲しさはまだ残っている。イリスが死んでしまったことはやっぱり辛いし、苦しい。
だけどイリスの教えてくれたことは俺に希望を、喜びを与えてくれた。
―――それに初対面の私にも優しくしてくれて、私の話を真剣に聴いてくれて、私のことを想ってくれる。そんな人がこの世界にいる。いつか出会うことができる。それだけで、私の未来が変わる可能性なんていくらでもあるもの。
これを知れたのは、イリスのおかげだ。俺はたくさんの人に支えられている。そして俺もまた、誰かを支えることができる。俺はやっと、イリスの言葉を実感したんだ。
君とは巡り会えなかった。でも、君のおかげで俺は前に進めたんだ。
そして君はかけがえのない人達と俺を巡り会わせてくれた。
ありがとう。
きっとこの想いが届くことを信じて、俺は目を閉じた。




