表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヘブンズゲート・クライシス  作者: 遠藤 薔薇
102/112

102

「そんなわけないじゃない…」

「本当だよ。俺より、君がよくわかっているはずだ。そしてイリスは俺の…。だから、その意志を受け継ぎたい」

ハーピアの細い体は震えていた。辛うじて堪えていた感情が堰を切った合図のように思えた。

「なんで、なんでそんな風に考えられるの…」

細い声で、ハーピアが言った。

「多分、バカなんだと思う」

自虐的に、俺は返した。

「でも、好きだった人の大切な人なら…守りたいんだ」

「死ぬだけだよ…!」

「死なないよ。俺は生きて帰るつもりなんだ。全部終わらせて、君を自由にして…生きて帰る」

「本当に…バカだっ…!」

ハーピアが嗚咽を漏らし始めた。顔は見えないけど、小さな泣き声が聞こえてきた。

ハーピアが俺を抱きしめた。俺の肩にすがるように泣くハーピアを感じて、俺は不思議と安堵していた。

「私だって…私でいたいよっ…!」

よかった。

やっと、届いた―――。


泣きじゃくっていたハーピアは不意に我に返ると、いきなり俺を突き飛ばした。突然の一撃で俺はひっくり返る。ハーピアは俺に背を向けて顔を拭うと、髪型を直した。

「全部すぐに忘れて」

「そんな無茶な…」

「忘れて!」

ハーピアは念押しすると、ドレスの裾を上げた。ふくらはぎに巻かれたベルトについているナイフを手に取り、俺に背中を向けるように言う。

「脱出できる可能性は限りなく0だから。理解している?」

「どうにかする」

「バカ」

ハーピアはナイフで俺の結束バンドを切った。俺は軽く手首をさする。親指は折れているし、手首はしめつけられたことでヒリヒリするが、まだ使えるようだ。

「武器はコルトMK.IV SERIES 70一丁とナイフだけ。装弾数八発。対してお父様…ローレンスはゼメキスを含めた12人の私兵を連れている。数でも装備でも勝ち目はない」

「ここはどこなんだ?」

「マンハッタンにあるローレンスのビルよ。最上階の4フロアはナイトクラウド家で貸し切っている。下のフロアにはまた何人か私兵が詰めているけど…エレベーターまで行って最下層まで行けば逃げられるかも」

「この部屋からエレベーターまでの距離は?」

「60m前後かな…。距離は大したことないけど、途中で大広間を通過しなきゃいけない。それに…」

ハーピアが監視カメラの方を見た。

「もう私兵が向かってくるはず。不意打ちでもかませばとりあえず廊下には出られる。和嵩、君を助けてあげる」

「ハーピアも、ここから出るんだ。俺が…」

「一人前の戦力になってから言ってよ。…でもわかった、私も一緒に出る」

ハーピアの雰囲気が変わっていた。研ぎ澄まされたナイフのような表情をしている。俺の知らない彼女がまたそこにいた。

そんな彼女の横顔を見ていると、俺はふと思い立った。

「そういえば、ハーピア。一つだけ聴きたいんだけど」

「何?こんな時に」

「どうしてあの時、俺を殺さなかったんだ?」

なんだかんだで明確な理由を聞いていなかった。だけど俺の質問を聴いたハーピアは鼻先を赤めて顔をしかめた。

「なんでこんな時に訊くの?」

「いや…結局よくわからなかったっていうか…」

黙れ黙れって連呼されただけだしなぁ。

「そんなの知ってどうすんの」

「その…自分の立場が悪くなるのに、なんであんなことをしたんだろうって…」

ハーピアはドアの傍に寄り、廊下に聞き耳を立てながら答えを考え、言った。

「…私が、所詮イリスと同じだってことよ」

「え?」

「以上、おしまい。というか、あとで思い出した記憶教えてね。話す価値がないって、どういうことなのか」

早々に話を切り替えられた。だがハーピアの言うことももっともだ。思い出したことは全てハーピアに伝えなければいけない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ