#2 狂卓の上で
アナウンスが終わった後、一度の静寂が訪れた。
自分が日本ではなく、無人島の施設に閉じ込められてしまったこと。
そして、ゲームのこと。
余りにも突然の出来事で、思考が追いつかないでいた。手が、震える。身体が、震える。
不意に後ろから夕姫に抱きしめられ、背中に温かいものを感じる。
「大丈夫よ、りゅうくん。
あなたは私が絶対に守るから」
耳元で夕姫がこう呟く。
夕姫の体温、息遣い、そして背中に押し当てられている胸の柔らかさが不思議と僕を安心させた。
まるで、夕姉に抱きしめられているかのような、そんな感覚。
しばらくして、我に返って顔を真っ赤にしながら彼女から離れる。
「ちょ、ちょっと、い、今なんて・・・」
「だから、私が守るから心配しなくていいよって言ったの。」
「何で初対面の僕にそんなことを言うの?」
「だって、りゅうくんのことが好きなんだもーん」
屈託のない笑顔で夕姫はそんなことを言う。
何故初対面の僕にそんなことを言うのか理解が出来なかったが、胸がとてもドキドキした。
僕を守るって言ってくれたこと。
僕を好きって言ってくれたこと。
後ろから抱きしめられたこと。
そして、この魅力的な笑顔。
僕は彼女を好きになってしまっていた。
勿論、ライクではなく、ラヴのほうだ。
僕は顔真っ赤にしながら硬直する。
「とりあえず、さっきアナウンスで言ってたルールの確認をしようよ!」
夕姫が机の上まで歩いていき、端末を手にとって弄り始める。
そうだった。僕も我に返って机の上の端末を手に取る。
2人分用意されているのか、端末も2つあった。
画面のRuleと書かれている所を押し、ルール画面を開く。
ルールの内容はこうだった。
ルール
1,各プレイヤーはナノマシンによって能力が発現する。能力は個人によって異なり、能力のレベルが上がるにつれ強力になっていく。自分の能力は端末によって調べることが出来、レベルは最大5レベルまで上昇する。
2,レベルを上げる手段について
・他プレイヤーの殺害。方法は問わず、トドメを刺したプレイヤーのレベルが上がる。
・人型のロボットの撃破。トドメを刺したプレイヤーのレベルが上がり、8,4,3階に配置されている。
・地下9,5,1階に配置されているボスの撃破。尚、レベルは撃破に参加したプレイヤー全員
が上昇する。
3,制限時間は72時間。それ以上過ぎるとナノマシンが暴走し、死に至る。
暴走は地下1階に置かれた薬物を摂取することで回避出来る。ただし、レベル5のプレイヤーは時間が過ぎても死亡せず、薬物の摂取は必要ない。
4,賞金は制限時間が過ぎても生存しているプレイヤーに山分けされる。
5,各階(10階を除く)には警備ロボットやトラップが設置されており、プレイヤーを見つけ次第攻撃してくる。
武器は各階に数箇所ある部屋に隠されており、ロボットもトラップも武器も階を進むにつれ強力になっていく。
6,禁止行為をしたプレイヤーはその場でシステムによって処罰される。
・地下10階での戦闘行為。
・能力等による脱出目的の建物への破壊行為。特に、階段の破壊。
・戦闘禁止エリアでの戦闘や能力の使用。
夕姫が隣にいるので集中出来なかったが、とりあえず内容は理解した。
僕達が勝利する為には、レベルを5にする、地上へ到達するのどちらかをしなくてはならないようだ。
こういう展開なので、殺し合いのゲームだということは薄々分かっていたが、協力が出来るということは今の僕にはこれ以上に嬉しいことは無かった。
ただ、残りの自分達の命があと72時間という事実はとても現実味を帯びてはいなかった。
「一体、何が目的でこんなことを・・・でも、これって本当に事実なんでしょうか・・・」
「たぶん事実だと思うわ。まだ確証は得られてないけど。とりあえずこのルールに従って動きましょう。」
夕姫が真面目な顔でそう言う。真面目な顔もさっきの笑顔と打って変わって素敵だった。
いや、今はこんな話はやめておこう。
「りゅうくん、とりあえずこの部屋から出ましょう。そ れ と も、もう一回私とここで寝る?」
夕姫はちょっといたずらっぽく言う。
今もう一度寝たらたぶん心臓が破裂してしまう。
「え、遠慮しときます・・・」
「じゃあ行きましょ!」
夕姫は僕の手を取って外に連れ出す。
夕姫の手の温もりと柔らかさにまた僕の心臓がドキドキし始める。
もう一度一緒に寝たかったななんて思いつつ、夕姫と一緒に部屋を出る。
僕達のゲームは今始まった。




