#21 Dead End
マチェットを鞘から出し、能力で強化、そして身構える。
化物と化した深夏に、強化されているとはいえ並みの銃弾は効かないだろうと推測したからだ。
何故なら、親父のときがそうだったからだ。
肉弾戦は危険が伴うが、身を斬るのに適した刃物で勝負するしかない。
次の瞬間、深夏のようなものが容赦なくこちらに飛びかかってくる。
風を切りながら、指が猛獣の爪のように変化する。
思考より体が反応し、咄嗟に爪を避ける。
すれ違い様にマチェットで一閃。強化された刃はいとも簡単に片腕を飛ばす。
イタイ・・・イタイヨ・・・
深夏の声で深夏のようなものが呟く。
腕の傷口から血が溢れ出す。
しかし、無くなった片腕を気に止めることなくもう片腕を振りまわしてくる。
アハハ・・・アハハ・・・
遊んでいるかのように深夏のようなものは笑う。
しかし、その腕のスピードは凄まじく爪の破壊力も凄まじい。
腕を避けながら反撃のチャンスを伺うが、次第に反応が追いつかなくなってくる。
向こうのほうが圧倒的に身体能力は上だ。飛ばした片腕だって、いつ生えてくるかも分からない。
何かされない内に仕留めなくては。
マチェットを隙を見つけて後ろに投げる。
その音に気を取られた一瞬で相手の腕を掴んで、投げる。
姿は変わってしまっているが、とても軽く、普通の女の子の重さのままだった。
深夏のようなものが立ち上がる前に押さえ込み、腰のホルスターから銃を抜いて銃口を頭に向ける。
銃はデザートイーグル。元々威力が高いこの銃を更に能力で強化して、しかも零距離なのだからひとたまりもないはずだ。
化物であれ、頭を抜かれれば死ぬ。そう信じたい。
そして引き金を引こうとした、その瞬間だった。
涙。
深夏の目から涙が出ているのに気付く。
無表情だが、確かに涙が出ている。
それに気を取られて、自分の視界の隅にあるものに気づかなかった。
腕が槍のように鋭くなり、左肩を貫く。
貫くだけでは終わらず、肩の中で腕を変形させようとする。
咄嗟に銃口を頭から槍のようになった腕に変えて撃ち壊し、後ろへ遠ざかる。
腕が刺さったままの左肩を押さえながら投げ捨てたマチェットを拾う。
左肩から血が溢れ出すが、そんなことに気を止める暇はなかった。
立ち上がった深夏のようなものの様子がおかしかったからだ。
頭を押さえて苦しみ出す。
「ううう・・・ああああああ・・・はやく・・・はやく・・・
わたしを・・・ころして・・・」
「深夏、意識があるのか!?」
俺は必死に深夏に語りかける。
「ころして・・・はやく・・・はやく!!!」
深夏はうわごとのように自分を殺せと連呼する。
今楽にしてやる。もうそんな顔で泣くんじゃない。
マチェットをグッと握り締めて、深夏へ飛びかかる。
「うおおおおおおおお!!!」
ザクッ
マチェットは深夏の胸に刺さり、貫通する。
「ありが・・・とう・・・」
引き抜くと、どっと血飛沫が出て深夏は倒れる。
倒れる深夏を抱きかかえると、掠れた声で俺に語りだした。
「おじさん・・・ごめんね・・・」
「何でお前が謝る。俺はお前を助けられなかった。殺して楽にすることしか出来なかったんだ。」
自分の無力さが嫌になる。
また助けることが出来なかった。
「ううん・・・あたしはおじさんに助けられたよ・・・」
俺は俯いて自分の目から溢れるものを隠した。
とてもじゃないが、深夏の顔を直視出来なかった。
「助けられてばかりだけど・・・おじさんに1つお願いしてもいいかな・・・」
「ん?何だ、言ってみろ。」
「これ・・・」
深夏が1枚の写真を差し出してくる。
かなり血塗れになっていたが、深夏と深夏そっくりの男の子が写っている。
「冬樹って言うの・・・あたしが居なかったら・・・1人になっちゃうから・・・」
「分かった。お前の代わりに俺が守ってやる。安心しろ。」
「よかった・・・」
安心したのか、深夏は眠るように目を閉じる。
俺は写真を握りしめてポケットの中にしまい、深夏を壁にもたれかけさせる。
・・・生きる目的が出来た。
刺された左肩を処置して、地下4階への階段を一歩ずつ進んでいく。
一歩一歩階段を進む男の表情は決意に満ちていた。




