#10 機械仕掛けの暗殺者
―地下8階 12/22 午後7時 残り61時間―
夕姫に手を引っ張られながら走って十数分になる。
分断されてから罠にも遭わずにずっと走りっぱなしだ。流石に疲れてきた。
だが、夕姫は汗一つかかずに走り続けている。
「そろそろ歩かない?いや、歩いてくださいお願いします。」
僕は夕姫に懇願する。
「えー。りゅうくん運動不足だよー。」
夕姫が立ち止まって口を尖らせる。
「こんなに走っても汗一つかかない夕姫がおかしいの!」
運動不足なのはちょっと否定出来ないが・・・
「仕方ないなー・・・えい!」
僕の腕に抱きついてくる。
夕姫の体温を感じる。また胸が当たってる。
もうこの態勢がデフォなのだろうか。
街中のカップルでもこんなに酷くはない。
・・・まぁ内心ちょっと嬉しいのだけど。
「ねぇ、りゅうくんのお姉さんってどんな人だったの?」
夕姫が興味津々に聞いてくる。
夕姫にはこれまでの経緯を全て話している。
ただし夕姉の名前以外。
「一応姉じゃなくて幼馴染ね。んーなんというか面倒見が良くてしっかりしててお姉さん、って感じだった。でもちょっと我侭で甘えたがりな所もあったりして。」
「りゅうくん、お姉さんのこと好きだったのね。」
「まぁね。幼い頃から一緒だったし。」
夕姉との思い出が蘇る。
今思えば、ドラマとか漫画みたいだ。
隣の家に住んでて、小さい頃からずっと一緒で、学校も同じで、高校も頑張って同じ所に入って。
そして・・・
「ねぇ、りゅうくん。」
今までとは違って真剣な表情で聞いてくる。
「ん?」
「・・・異性としてはどうだった?」
「えっ・・・」
異性として好きだったか。
そんなの決まってる。そんなの・・・
「ただの幼馴染だよ。うん。」
「ホントに?」
「ホントホント。」
適当にごまかす。
そう、夕姉は僕にとって幼馴染であり、姉であり、そして・・・
――――――――――――――
夕姫とイチャイチャ(?)しながら歩いてしばらく経つ。
迷路のような通路も残り半分ぐらいだろうか。
「ねぇ、何か音がしない?」
音?立ち止まって、よく耳を澄ませてみる。
コン コン コン コン
確かに音がする。
金属を叩くような高い音。
その音が段々と大きくなっていく。
「夕姫、今すぐここから離れよう。」
「え?」
嫌な予感しかしない。
今すぐここから離れたほうが賢明だ。
夕姫の手を引いて、来た道を走って引き返す。
通路の角に来た辺りで音の正体が姿を現す。
白い金属のボディに頭部は一ツ目のようなカメラ。
両腕にはブレードが付いていて、まるで暗殺者のような風貌だ。
僕は確信する。
これがルールに書いてあった、人型ロボットだと。
僕達の姿にロボットは気づき、ブレードを壁に沿わせながら近づいていく。
ブレードと壁の間に火花が飛び散り、不快な音を響かせる。
「くっ!」
銃を角から構えて応戦する。
しかし、撃った弾丸は金属のボディに弾かれてしまう。
「効いてない!?」
「りゅうくんどいて!」
夕姫がロボットに電撃を浴びせる。
レベル2になった強力な電撃は最早壁を伝わせる必要は無かった。
が、ロボットはよろめいただけで足を止めようとはしない。
「流石にそこらの雑魚とは違うみたいね・・・。」
銃も効かない。電撃も効かない。
今の自分達に為す術はもう1つしか残されていなかった。
「夕姫、一旦逃げよう!今じゃ勝ち目がない!」
「ええ!」
もう一度ロボットに電撃を浴びせた後すぐに走り出す。
一旦逆走して今の通路を迂回して先に進もうとするが、
「りゅうくん見て!シャッターが!」
突然、迂回した先の道のシャッターが閉まり始めた。
後ろには人型のロボットが迫ってきている。
「夕姫、ちょっとごめん。」
「え?」
夕姫を抱きかかえてお姫様だっこの状態にする。
そして、全力疾走。
振り返ることもなく、一心不乱に走り続ける。
シャッターを3つ超えて、シャッターは残り1つだけ。
しかし、もうほとんど閉まりかけていた。
このままでは閉じ込められてしまう。
「夕姫!しっかり掴まってて!」
力を振り絞り、ラストスパートを掛ける。
一瞬、閉まるシャッターが止まったように見えた。
「間にあええええええ!!!!」
すかさず残り少ない通れる隙間に滑りこみ、夕姫と一緒に倒れこむ。
「はぁ・・・はぁ・・・助かった・・・」
「なんとかね・・・」
安心するのも束の間。
大きな音に振り返ると、シャッターの奥からドンドンという音が聞こえてくる。
まさか・・・シャッターを壊してるのか!?
「早くここから離れましょ。りゅうくん、大丈夫?」
「な、なんとか・・・」
全力疾走して疲れた身体に鞭を打ち、小走りでその場を離れる。
後ろで聞こえていた音も次第に聞こえなくなっていった。




