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#8 小休止

―地下8階 12/22 午後3時 残り64時間―


「はぁ・・・はぁ・・・ここまで来れば大丈夫でしょう・・・」


あのアナウンスの後、すぐさまその場を離れて地下8階の部屋に逃げこんだ。

ボスを倒したというアナウンス、言い換えればプレイヤーの内少なくとも今1人はボス部屋にいるということを知らせるアナウンスだったからだ。

他プレイヤーと鉢合わせになるのは避けたい。


「夕姫、深夏、大丈夫?」


「ええ・・・」「うん・・・」


無理もない。あんなことがあったのだから。

特に深夏は殺されかけたんだから。

でもそう言う僕も疲労困憊でその場に座り込むしかなかった。


「先程は助けていただき、本当にありがとうございました。」


僕は助けてくれた男性にお礼を言う。


「いやいや、礼には及ばない。当然のことをしたまでだよ。こんなことしか能がないしな。」


男性は首を振りながらそう言う。

そういえば、戦っていたときにも"戦闘のプロ"と言っていた気がする。


「俺は影山。君達と同じプレイヤーだ。」


「職業は何をされていたんですか?相当戦い慣れた動きをされていましたが。」


「大学を中退して、とある国の軍と傭兵部隊に所属していたんでな。退役して日本に帰ってきたんだが、このザマだ。」


影山さんは少し苦笑いしながらこう続ける。


「俺は日本でナイフで刺されて死んだ・・・はずだった。気がついたらここに居た。天国かと思ったんだが、どうやら違うみたいだしな。」


やはりこの人も、"死んだと思ったらここに居た"

全プレイヤーの共通点だろうか。


「この世に未練はない。むしろ死にたかったのかもしれない。なのに、いい迷惑だよ」


「なのに、何故僕達を助けてくれたんですか?」


「それはそのー・・・あれだ・・・」


影山さんはいきなり恥ずかしそうして、僕に耳打ちする。


「深夏ちゃん・・・だっけか。昔の知り合いに似ていてな・・・」


なるほど。見ていられなかったと。


「ごほん、まぁあれだ。俺は別に死んでも構わんが、お前達みたいな若い人はこんな狂った所から生きて出て欲しいんでな。」


影山さんは少し笑いながら言う。

どうやら悪い人ではないようだ。

むしろ、信頼出来る人物だろう。


「僕達に協力してくれるってことですか?」


「ああ、そうだ。他のプレイヤーは狂ってる奴が多くてな。あそこに来るまで爆弾魔やら銃持って追ってくる奴とか色々出くわしてな。酷い目に合わされたもんだ。まぁ嫌なら別にいいんだがな。」


爆弾魔に関してはこちらも覚えがある。

スーツを着たあの男だろう。


「いえ、こちらこそお願いしたいぐらいですよ。影山さんが味方になってくれたら、心強いです。」


「そう言ってくれるとありがたいな。じゃあちょっとこの隣の部屋の備品を調べてくる。その間にお前達は休憩しておいてくれ。」


影山さんはそう言ってこの部屋の隣の物置へ去っていく。

元軍人で元傭兵、か。

心強い味方が出来たようだ。



僕はふと端末を取り出し、画面を立ち上げる。

ルールでは、ボスの撃破のレベル上昇は撃破に参加したプレイヤー全員が対象だと書いてあった為だ。

地下10階で手に入れた"Ability diagnostic program"を起動させる。


...エラー。能力測定不可能。レベル2"能力不明"


・・・またか。

レベルは上がっているようだが、結果は同じ。

一体、僕の能力は何なんだろう。

壁にもたれて座りながら、天井を見つめる。

すると、さっきまでのびていた夕姫が隣に来る。


「さっきはありがとね、りゅうくん。」


「い、いや結局俺は何も・・・」


「ううん、狼からあのまま逃げてなかったら狙われてたのは私だったかもしれない。守るって言っておきながら、私が守られちゃったね。りゅうくん、かっこよかったよ。」


夕姫が笑顔で語りかけてくる。

僕は顔を真っ赤にしながら俯く。


・・・でも、影山さんが来なかったら深夏が死んでいたかもしれない。僕達も死んでいたかもしれない。これは今直面している現実だ。

今は何とか生きてはいるがこの先生き残れるのか。

僕にもっと力があれば・・・


「そ、そんなことないよ。夕姫が最初飛び出してなかったら僕も深夏みたいに足が竦んで動けなかったし。」


「いいのいいの!りゅうくんがかっこよかったのは本当だし。」


夕姫が腕に抱きついてもたれかかってくる。

だから胸が当たってる胸が。

沸騰してるんじゃないかと思うぐらいに自分の顔が熱い。

そりゃ大好きな人に格好良い連呼されて抱きつかれたらこうもなる。


でも、あんなことがあったせいか妙な安心感があり、急に眠気が来る。


「本当に、ありがとね・・・」


意識が無くなる前、耳元で聞こえた気がした。

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