西片亜紀の2月14日
過去にΚにおいて掲載していたものを改稿修正して投稿しています。
お昼休み、私が友チョコとして作ったガトーショコラを手にした友人二人が凍り付いた。こわばった顔で私の背後に視線をやっている。心無しか震えているような気も?
「どうした?」
恐怖で凍り付くようなものが私の後ろにあっただろうか?私の問いかけに友人二人はぎこちなく視線で訴えかけてくる。その訴えに後ろを向くといつもにも増して不機嫌そうな顔の日生が居た。
日生隆雄はうちの学校ではちょっとした有名人だ。まずその見た目。整い過ぎてるといっても良いぐらいの美貌、それは人を一歩もニ歩も下がらせ近寄り難くさせている。背がすらりと高く(ちなみに脚の方が長いはず)バランスのとれている体型だ。もっとも180をこす身長はかなり人に威圧感を与えている。
そして、いつも不機嫌そうな顔をしている。その綺麗な顔でにっこりと笑えばさぞかし人もよってくるであろうに、この男は孤高を保っている。穿った見方をすれば人より恵まれ過ぎた外見で痛い目にあって人を信じられなくなっているのやも知れない。ま、勝手な想像だが。単に人見知りが激しいだけなのかも知れない。
ブっ、日生が人見知り!?アハハ考えただけで笑えてくる!
「…」
「!」
日生が絶対零度の視線を向けてきた。しまった、いきなり目の前で笑い出されたらそら怒るわな。表情を改め素直に日生に謝っておく。
「済まない、ちょっと思い出し笑いだ。ところで、機嫌がかなり悪いようだが、もしかしてチョコレートの甘い香りが嫌いなのか?ならば席を移動するが?」
日生は驚いたような顔をして(最も私が見た分でだが、如何せんこいつは表情の変化が捕らえにくすぎる!)首を横にふっている。
「‥嫌、そん‥」
「西片さん!これ余ってる?」
突然、横合いから声をかけてきたのは長柄だった。
「は?なにが?」
慌ててそちらに顔を向けると、長柄が残っていたガトーショコラを指差している。
「え?ああ、由岐のやつ運悪く今日休んでるからな。その分が余ってる」
「頂戴!」
長柄はそう良いながら隣の席から椅子を引っ張てきて横に引っ付いてきた。目の前の友人二人の顔色が心無しか青くなったような気が?
「ねえ!せっかくのバレンタインなのに、俺一個もチョコもらってないんだよ!ね?食べたい!」
「え?ああ、そりゃ良いけど、長柄、食べ物の恨みは恐いぞ?由岐の恨みを買う気があるのか?」
「む~ん、それはちょっと‥。でも後悔は先にするもんじゃないからね!」
そういってガトーショコラを掴むと、しっかり口にほおり込む。幸せそうな顔をして食べている。その様子に私は苦笑を浮かべてみていたが、友人二人の方は何やら脂汗が出てきている。そして突然後ろで椅子を引く大きな音がして荒い足音で日生が教室を出ていった。
「「?」」
長柄と二人首をかしげて顔を見合わせる。
「「こ、こわかった~」」
涙目の友人二人が漸くフリーズも解けお互いに抱き合っている。
「日生君、そんなに不機嫌だったのか?」
「「あれは不機嫌なんてもんじゃない!」」
大人しい二人が叫ぶように反論してきた。はて?
「どうしたんだろうね?日生君もしかしてチョコレートもらってないのかな?」
長柄がぶっ飛んだことを聞いてくる。
「いや、それはないだろ、長柄と違って。直接渡すような根性のあるやつは居ないだろうけど机や、靴箱に入ってるんじゃないか。私に言わせれば靴箱に食いもんを放り込む気がしれんがな」
「ぐはっ、西片さんきつい」
「何が?事実だろ。それともチロルチョコ一個でももらったのか?だったら謝るぞ?渡した女子に失礼だからな」
「あんまりだ~」
泣きまねをして長柄が机に突っ伏す。
「な、長柄君、よ、良かったらこれ」
余りの哀れさに、池波が持っていた袋からチョコレートを取り出して差し出していた。いや、実のところ池波は長柄に気がある。直接本人に聞い手確認したことはないが、視線が長柄を追っているのだ。
「いいの!?」
がばっと起きた長柄が、そのチョコレートを、池波の手ごと掴む。池波はまっかになってコクコクと頷いている。青春だな~。
「あ、池ちゃんの裏切り者。長柄にあやまんなきゃいけないじゃないか。」
ちょっとからかうようにいってみる。すると池波はアワアワとし始める。
「えっ、え!?」
「冗談だよ。悪かったな、長柄。そのチョコありがた~く食べるんだぞ?」
「池波さんありがとう!大事に食べるからね?やった~!」
舞い上がった長柄はチョコを大事そうに抱えて自分の席に戻っていった。
「渡せて良かったね」
山瀬がほんわりと笑っている。
「!」
「好きなんだろ?」
にやりと笑った私と山瀬を池波は顔をまっかにして見比べている。
「「バレバレだって!」」
「////////」
「しかし、どさくさで渡してよかったのか?」
「‥メッセージ入れたから」
照れたように笑う池波に山瀬と私は声を揃えていった。
「「池ちゃん、意外にしっかりしてるよね」」
山瀬と二人肩を竦める。
「えへへ」
どうやら友人に少し早い春が来たようだ。




