第十二話 冒険者ギルド・エルミナ支部
宿で荷物を置き、一息ついた三人は夕暮れの街を歩いていた。
行き交う冒険者。
武具屋から響く金属音。
酒場から聞こえる笑い声。
エルミナは、夕方になっても活気に満ちていた。
「ここですな。」
エルドが指差す。
石造りの大きな建物。
入口には見慣れた紋章が掲げられている。
冒険者ギルド・エルミナ支部。
グレンは扉を押し開けた。
「おぉ……。」
中では多くの冒険者が依頼書を眺め、受付には長い列ができている。
「懐かしいな。」
「昔は毎日のように来てた。」
三人は受付へ向かった。
「いらっしゃいませ。」
受付嬢が微笑む。
「本日はどのようなご用件でしょうか?」
エルドが一歩前へ出る。
「滞在登録をお願いしたいのですが。」
「かしこまりました。」
受付嬢は書類を取り出し、手際よく記入を始める。
その時だった。
「……その声は。」
受付の奥から低い声が響く。
三人が振り返る。
一人の壮年の男がゆっくりと歩いてきた。
短く刈り込まれた白髪交じりの髪。
日に焼けた顔。
肩にはギルド長を示す徽章が輝いている。
男は三人を見るなり、口元を緩めた。
「久しぶりだな。」
グレンは目を見開いた。
「……ガレスさん!」
男は小さく笑う。
「八年ぶりか。」
「少し老けたな。」
「そりゃお互い様だろ。」
グレンも笑う。
エルドは静かに一礼した。
「ご無沙汰しております。ガレス殿。」
シリアも軽く頭を下げる。
「久しぶり。」
ガレスは懐かしそうに頷く。
「当時は副ギルド長だったがな。」
「今はこのエルミナ支部を任されてる。」
「立ち話もなんだ。」
「奥で話そう。」
◇
応接室。
ガレスは三人へ温かいお茶を差し出した。
「まさかまたお前たちがエルミナへ来るとはな。」
グレンは苦笑する。
「俺たちも、こんな形で旅に出るとは思ってなかった。」
ガレスは少しだけ表情を引き締める。
「……新しい魔王の件か。」
三人は頷いた。
部屋の空気が静かに変わる。
ガレスは机の引き出しから数枚の報告書を取り出した。
「実は、お前たちに話しておきたいことがある。」
「最近、この周辺で妙な事件が続いていてな。」
一枚目の報告書を机へ置く。
「まず。」
「この辺りでは本来見かけないような強力な魔物が確認されている。」
グレンが腕を組む。
「強力って、どのくらいだ?」
「Bランク冒険者が返り討ちに遭う程度だ。」
「討伐依頼を受けた冒険者が、大怪我を負って逃げ帰ってくるケースが続いている。」
エルドの表情が少しだけ険しくなる。
「魔物の異常発生……ですかな。」
「まだ断定はできん。」
ガレスは二枚目の報告書を置いた。
「それと、冒険者を狙った盗賊被害も増えている。」
グレンはすぐに口を開く。
「それなら俺たちも遭遇した。」
「昨日、商人の護衛中にな。」
「ほう。」
ガレスは少し驚いたように眉を上げる。
「なら話が早い。」
「最近は商人だけじゃない。」
「冒険者や護衛を狙った襲撃も増えている。」
そして最後の一枚を机へ置く。
「さらに。」
「ごく一部だが。」
「生還した冒険者の中に、『人型の魔族に襲われた』と証言する者もいる。」
部屋が静まり返る。
グレンはゆっくり息を吐いた。
「やっぱり魔族か……。」
ガレスは腕を組む。
「証言だけだ。」
「見間違いの可能性もある。」
「だが、ここまで報告が重なると無視はできん。」
エルドは報告書へ目を落とす。
「十分です。」
「ありがとうございます。」
ガレスは三人を見る。
「お前たちなら、この異変の正体を掴めるかもしれん。」
「だが無理はするな。」
グレンは立ち上がる。
「ああ。」
「まずは俺たちでも情報を集めてみる。」
エルドも頷く。
「報告を整理し、明日から調査を始めましょう。」
シリアは静かに立ち上がった。
「まずは、ご飯。」
一瞬の静寂。
ガレスは吹き出した。
「ははっ。」
「相変わらずだな。」
グレンも苦笑する。
「腹が減ってると動けないからな。」
三人はガレスへ礼を告げ、応接室を後にした。
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