第18話 ランジェリーショップ
一方その頃――真白は辰爾の熱のこもった接客に気圧されていた。
「とりま下着から決めましょうか!」
「……下着? 服じゃなくて?」
真白は店頭に展示された着飾ったマネキンを指差し尋ねると、辰爾はマネキンが穿いているスカートをずらし黒いレースのパンツを露わにする。
「服もあたしが最高のを選んであげるけど、まずは核となる下着。ほら、ちゃんと下着穿いてるでしょ。この下着にはこの服が似合う組み合わせってのがあるのよ」
真白は自分がいつも穿いているパンツとは全然違うことに戸惑った。華やかなで色っぽい、自分では絶対に選ばないような大人パンツだった。一部透けた薔薇柄の黒パンツ、マネキンの白と混ざることで、妖艶な印象を受ける。穿いているのがただのマネキンなのに、それでも艶っぽく見えてしまう。
下着一つでこれほど印象が変わることに驚きを覚えた。
辰爾はマネキンの身嗜みを整えると、営業中は開けっ放しにしているガラス扉を締めて施錠する。困惑する真白をよそに下着が陳列する売り場に連行するのであった。
「……服よりも下着の方が多い」
「そりゃそうよ。だって、ここランジェリーショップだもん♪」
見渡す限りの下着に圧倒される真白に、オネエ店長はあっけらかんと答える。向こうからしてみれば、これがいつもの光景であり通常なのだ。
店頭や外からでは見えなかった店の全貌がそこにはあった。他アイテムが並べられた巨大な陳列什器やマネキンで仕切りを作り、その奥に下着売り場が配置されていた。店外からだと、アパレルショップの様相を呈しているが、その実態は女子高生をターゲット層に定めた【ランジェリーショップ泡沫の恋】。キャッチコピーは、大人への階段を上りたいあなたへ。
また実弥が店長をしている姉妹店は【メンズスーツショップ詮無い】である。こちらは特にキャッチコピーはついていない。しいてあげるなら、有識者の聖地といったところだろうか。
「真白ちゃん、ちょびっとだけフードを取ってもらっていい? あとね、できればでいいんだけど、ジッパーを開けて体型を確認させて欲しいの。大体は把握できているんだけど、オーバーサイズ気味だから、目算が合っているかだけ確認したくて」
「……でも博希はフードを取るなって言った」
「あたしが取って欲しいって、真白ちゃんに頼んだって博希に言うからお願い♪」
真白はフードの両端を掴んでさらに深く被ると、辰爾はすぐさま腰を屈めて斜め合掌し願い出る。これが女性であればグッとくるであろう仕草だが、残念ながら彼もまた博希とほぼ変わらない高身長で、なおかつ筋骨隆々な恵まれた体格を持ち合わせている。
怖いという感想こそあれど、可愛いという感想はあり得ない。そのはずなのに、長年培った技術により錯覚、幻覚でも見ているかのように対象者の目には可憐に映るのだ。
大体の場合は、このお願い作戦で辰爾のペースにも持ち込むことができるのだが、真白には通用しなかった。博希の友人だとしても真白にとっては、まだ出会って間もない他人にすぎない。他人に言われたところで心に一ミリも響くわけがない。
「…………」
辰爾には、そんな真白の心を開ける奥の手があった。
接客を通じて数多くの恋する乙女の相談にのったことで、前述の技術同様にある特殊能力を習得していた。あくまで女子高生以下には限定されるが、本人以上に恋心を理解できるようになっていた。
辰爾の意見を聞いて実際に試した乙女の恋が実った成功率は、脅威の百パーセント。彼女たちの努力による賜物であることが前提だとしても、その成功率からくる信憑性は計り知れない。
目の前にいる少女が慕う相手が倉持博希ともなれば、全力でかかる以外に選択肢などあろうか。手を抜いたことは一度もないが、今回だけは命が燃え尽きる限界まで全身全霊をもって仕事に取りかかる。
全ては親友とその彼女のために辰爾の瞳は、灼熱のごとく燃え上がっていた。
「ねえ真白ちゃん、博希が恥ずかしがる顔、見たくな~い?」
「………!?」
真白は辰爾の誘いに心が揺れる。そんなもの見たいに決まっている。愛する人が自分を見て恥ずかしがるとか、最高のシチュエーションじゃないか。毎回こっちが博希の一挙手一投足で恥ずかしい思いをしているというのに、向こうは何をしても反応が薄い。効いていないんじゃないかとさえ思えてしまう。
今朝の朝食やフードのことも手をつなぐのだって、こっちがどんだけ勇気を出しているのか知らないくせに。さも当たり前のようにしてきて本当にカッコいい……ちが、ずるい、でもそんなとこもやっぱ好き。
好き好き脳になっている真白に、辰爾は止めを刺すため更なる揺さぶりをかける。
「ここにある商品って、学生がお買い求めしやすいように大体千円以下に設定してあるの」
「ふ~ん、そうなんだ」
「……真白ちゃんあなたって、本当に博希に大切に想われているのね」
「ど、どどどういうこと……?」
「考えてもみなさいな。あたしが完全なる調和したとしても一万円いかないのよ。なのに、博希は予算五万円って言ったのよ? その意味が本当にあなたには分からないの?」
恋する乙女は決意表明だと言わんばかりに一張羅のパーカーを脱ぎ捨てる。
「やる! 辰爾、私やる!! 絶っ対に博希を恥ずかしめてやる!!!」
「その心意気よ、真白ちゃん。あたしも命を懸けて、あなたをもっと高みへ連れて行ってあげるわん♪」
博希の知らないところで、真白と辰爾のスポコンのような熱い絆で結ばれた師弟関係が成立するのであった。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
面白いな続きが気になるなと思っていただけましたら、是非ともブックマーク、評価、いいねの方よろしくお願いします。作者の励みになります。
特に★★★★★とかついた日には作者のやる気が天元突破します。
他にも色々と書いておりますので、もしよろしければそちらも一読していただけますと幸いです。




