戦女神の御名の下、サーチ&デストロイですわ。
「……こんな時間にそんな格好で、何をしているんだ?」
夕暮れ時。
夜鳥が甲高い鳴き声を上げる中、フリギィオの墓前に立っているオーディア達に、背後から話しかけてくる人物がいた。
振り向くと、そこに居たのはサイエンの宿で見かけた旅人である。
相変わらずフードを目深に被っている相手の、改めて聞いた声の感じは少し高く、ハリがあって若いように感じられた。
オーディアは、教会に侵入した不審者の仲間であろう人物に、無表情に答えた。
「わたくし達はこれより、ミルを狙い、ホロビタの街を占領する魔物の殲滅を行います」
オーディアは、ドン、と音を立てて、右肩に担いでいた【破邪の戦鎚】のヘッドを地面に落とす。
左腕には新型の破邪銀製の【腕部装着型杭打ち機】、格好は魔導布で編まれたいつもの赤い聖女服。
そして【散弾魔銃】を、胸元に斜めがけにした負い紐で背負っている。
「こんな時間から……わざわざ、吸血鬼の有利になる状況で?」
旅人の言葉に、オーディアは頷いた。
ーーー吸血鬼であることは、確定のようです。
何か知っている口ぶりの旅人に対してそう考えていると、双子が口を開く。
「どうせボク達は全部潰すんだから、時間は関係ないね」
「どうせウチらは全部潰すんだから、時間は関係ないよ」
左右に立つ双子は【聖光榴弾】を吊り下げた弾帯ベルトを聖女服の上に纏っていて、腰の左右にあるガンホルダーに、破邪銀の刃を備えた【魔剣銃】を差していた。
それに加えて、右に立つクーロは【防護陣展開式突撃魔槍】を、左に立つシロンは【回転式多銃身魔銃】を手にしており、シロンはさらに、銀の銃弾を込めた弾倉をしこたま詰め込んだ背嚢を背負っていた。
「それに、あーし達はその吸血鬼に用があるゅ♪ コソコソ隠れられるより出てきて貰った方がいいゅ☆」
最後に答えたイロカは、一番軽装である。
いつもの格好の上に薄い羽衣を纏い、両手に破邪銀の刃を連ねた【剣舞の双扇】を手にしているのみだ。
「追い詰めたら、闇夜に紛れて逃げられるんじゃないか?」
「あーしを殺さないと、どうせこの街からは逃げられないゅ♪」
腰に手を当てたイロカの自信に、不審そうな様子を見せつつも、旅人がジリジリと後ろに下がり始める。
「あなたこそ、何の為に姿を見せたのです? それともう一つ。色々ご存じなのであれば、ミルを教会の前に置いて行った人物について教えていただければと」
争う気がない様子の旅人に、オーディアは問いかけた。
不審者は『ミルを取り戻してこいという依頼を受けた』と口にし、旅人はその仲間である。
旅人を捕らえても放置しても、旅人が敵対するにしても逃げるにしても、特にこれからの戦闘に影響はないだろう。
けれど、聞けることは聞いておいて損はない、とオーディアは思っていた。
『領主から依頼を受けた』というのなら、クーロが過去視した女性についても知っていておかしくない。
「……領主の館に行きな。行けば全部分かるよ。辿り着ければだけど」
そう答えた旅人が踵を返し、外套の裾が翻る。
「依頼は放棄する。戦闘に巻き込まれるのはゴメンだ」
遠ざかろうとする背中に対して、シロンがガシャン、とガトリングの銃口を向けたのを手をかざして留めたオーディアは、そのまま見逃した。
「何で止めたの?」
「質問に答えて情報を提供した対価です。それに、貴女の『視た』未来では、あの方は大通りを駆けていたのでしょう?」
「そうだけど」
ならば、無事に逃すことで予知された未来は訪れるだろう。
フリギィオのお墓は、少しでも景色がいいように、と墓地の中でも北東の角に建てていた。
街に一番近く、少々小高い丘のようになっている場所であり、大通りも見える位置だ。
シロンの『視た』ものを聞いた時の想定とは違い、旅人は、領主の館の方ではなくホロビタの街を出る方向に走っていって姿を消した。
「どうせ領主の館には行くのです。であれば、今聞いても後で聞いても同じでしょう。……出てきましたよ」
既に、日はほぼ沈みかけている。
ゾロゾロと、建物の中から出てきた人々……人ではなく傀儡人形だが……の目が、赤く輝いていた。
瞳孔がないその目は、『魔性』に類する存在であることの証左である。
夜鳥らの鳴き声の質が変わり、遠ざかるものや威嚇するものといった調子になると同時に、大量の羽音が聞こえてきた。
そして、領主の館のある方向や街の建物、あるいは木陰から、どこにそんなに隠れていたのかと思う程に大量のコウモリが湧き出してくる。
オーディアは、その光景を見て薄く笑みを浮かべた。
ーーー敵対者には、容赦致しません。
地面につけていた戦鎚を持ち上げ、パイルバンカーを構える。
「イロカ」
「お任せだゅ⭐︎」
〝奉納の聖女〟として彼女が舞い始めると、その体から聖気が立ち上り、ブワッと大きく砂埃を上げながら青い光が爆発的に広がっていく。
風に乗って疾り抜け、街を覆う程に大きく広がっていく聖気に触れたコウモリ達が、ジュジュッと煙を上げた。
半数ほどが焼け落ち、黒い靄に変質するのを見て、オーディアは目を細める。
ーーー瘴気の幻影……。
ただの幻影ではあるが、常人がその牙に触れれば瘴気の毒が回って動けなくなり、死に至るだろう。
やがて、踊り続けるイロカから放たれた聖気が半円状の結界として街を包み込んだ。
これで、イロカが踊り続ける限り、『魔性』の存在は街の外に出ることも、中に入ることも叶わない。
「戦闘準備」
双子に声を掛けると同時に、オーディア自身も肉体から聖気を放つ。
三人が、自分だけを包む極小の結界に身を包むと、最初にコウモリが襲いかかって来た。
傀儡人形達の到達には、まだ時間がある。
月光と聖結界の淡い光に包まれる中、オーディアは次の号令をかける。
「戦闘開始。ーーー戦女神の御名の下、サーチ&デストロイですわ」
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