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神の隠し子〜教会の前で赤子を拾った退役聖女ですが、どうやらこの子狙われているようです。〜  作者: メアリー=ドゥ


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裏側のこと。

 

 ーーーその頃、フーインの町教会にて。


「こんな事態なのに、こちらに連絡がないのは、どういうことかねぇ……?」


 水晶玉を前に、グラン・マ・ドンドーラが穏やかに呟いた。

 すると、水晶玉の先で彼女の相手をしている人物が、緊張の滲んだ声で答える。


『申し訳ありません……その、把握が出来ておりませんで……』

「嘆かわしいことだねぇ。教会本部や王国は、腑抜けを飼ってるのかい? それで『神の兵士(エインヘリヤル)』足りうると思うのかねぇ」


 グラン・マは話している相手は、教会の大司祭だった。


 教会や王国は、魔物の発生に対処するのも仕事の内である。

 特に瘴気溜まりが発生しやすい土地は定期的に巡回しており、ホロビタの街もその対象に入っている。


 ましてあの土地には勇者の墓があり、極秘事項ではあるものの、肉体の代わりに聖剣が安置されている。


 その重要性と合わせて、ホロビタの街は、異変があれば、対象の危険性に合わせた浄化の力を保つ者と相応の戦力が派兵される手筈になっている。


『担当者に話を聞きましたが、一ヶ月前の巡回では特に変化がなかったそうです。第一級殲滅対象である吸血鬼発生の可能性があれば、流石に……』

「なるほど……」


 決して怠慢ではない、という話なのだろう。

 実際、グラン・マが異変の連絡を入れてから大司教の返答があるまでは、かなり迅速だった。


『真祖の可能性が高いということで、特級戦力に加えて高位の能力を持つ司祭か聖女を派兵する準備を整えておりますが、王都から距離もあります。数日はかかるかと』

「それでは、どちらにせよもう終わっているねぇ」

『は?』

「サンチ以下、うちの聖女達が(・・・・・・・)出張ったからねぇ」

『は!?』


 大司教が声を上げるのに、グラン・マは淡々と答えた。


「ちょっとした因縁が出来てねぇ。後処理はして貰わないと困るけど、承認だけ取り付けておおき」

『本当に、あの狂戦士(バーサーカー)……いえ、『称号持ち』達が、です、か?』

「呪うなら、自分たちの運の悪さを呪うことだねぇ」


 大司教は、【不死兵団】が魔神討伐戦に挑む際に参加しており、かなり有能な人物ではある。


 現場で教会戦力の陣頭指揮を担う程度の胆力も、持ち合わせていた。

 が、その彼をもってして、戦後『あいつらの精神力は人間のそれじゃなかった』と言わしめるのが、フーインの町教会の『称号持ち』なのだ。

 

『……独断……は、流石に……問題になるかと思うので、すが……』

「だから、そうならないように承認を取り付けておおき、と言っているのだけどねぇ……我々を敵に回しても良ければ、好きにおし」


 それだけ告げて、グラン・マは水晶玉の連絡を閉ざした。


 あの魔神討伐戦の現場で、どれだけ勇猛な兵士であっても瘴気や恐怖に当てられて精神に異常をきたし、体に重傷を負って苦痛に呻く中。


 『称号持ち』は自分の腕や足が吹き飛ばされようが、意識があればそれを自分で癒して治療に復帰し、その様を見せつけられて唖然とする兵士の傷を癒した瞬間に『健康になったら戦場に戻れ』と前線に叩き出していた。


 最後、魔物が物量に物を言わせて怪我人の天幕まで戦線を押し込んできても、自らそれに対処しながら避難もせずに治療を続けた猛者どもである。


 『神の兵士じゃなくて悪魔の使者の間違いだろ』『あいつら、戦場で即死するまで俺らを生かして戦わせようとしやがる』『全員ツラは良いが中身は魔物より魔物』という、軽口混じりの悪口も、グラン・マは何度も聞いたことがあった。


「あの大司祭だけじゃなく皆、『助けられるから』って魔物と一緒に吹き飛ばされたり怪我させられたりしてたねぇ……」


 グラン・マは、それを懐かしく思い出していた。


 それも相まっての悪口であり、そもそも『称号持ち』は誰も気にしていない。

 要は癒すのも凄いが、戦い方がどこの部隊よりも荒かったのが『称号持ち』なのである。


 彼女らが本気で暴れたら、周りがどうなるか。


 それを大司教は危惧していたのだ。

 しかしグラン・マにはそんなこと、知ったことではなかった。


「さてさて、どうなるかねぇ」

 

 大事なのは、あえて向こうに(・・・・・・・)落ち度だと思わせて(・・・・・・・・・)、〝神の隠し子〟ミルの件をうやむやにすることだった。


 あの子に特別な事情があろうとなかろうと、『親』以外の人間があの子を連れて行こうとしたら、オーディアがどうなるかが火を見るより明らかだったからである。


 定期巡回の件も、異常が最近までなかったことも、当然グラン・マは把握していた。

 その上で、あの対応をしたのである。


『グラン・マ。お願いしますね。もし俺がいなくなった時、オーディアの手綱を握れるのは貴女とマムくらいだと思うので』


 グラン・マは、生前のフリギィオにそう頼まれていた。


 〝破邪の聖女〟オーディアは、何もしなければ何も起こさない、大人しい良い子である。

 が、一度事が起これば、不可侵暴力(アンタッチャブル)の本性を剥き出しにして荒れ狂う。


 どこまでも純粋で、誰よりも『神の兵士』らしい存在なのだ。


「この歳になって、子守り(・・・)をするのも疲れるのだけどねぇ」


 そう愚痴りながらも、グラン・マの顔には笑みが浮かんでいた。

 


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