↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
23/23

23:他称天才発明家、その実一般人

 今、我々の生活に欠かせない数々の便利な家具や生活雑貨を開発したのは、異国から来た身寄りのない一人の女性だったという。イソパラノル領の領主様が王都から連れてきたその人は、国の要人と仲が良かったが自称一般人だった。

 新しい領主は女性だったので皆、難色を示していたけれど、自称一般人様も女領主様もとても優れたお方だということが分かり、申し訳ない気持ちになったのだ。


 領主様ははじめに農業改革を行った。収穫量が格段に増えたのち、各村に余裕のあるときに食料を備蓄するよう伝令した。おかげで飢饉を乗り越えることができた。公共事業や冬季の内職として、様々な年齢層に合わせた仕事を提案してくださった。


 治水工事によって衛生環境が格段に改善するとは、誰も想像しなかっただろう。しかも提案したのは自称一般人様であるという。


 おかげで我々は他の領地の住民より、ずっと豊かな暮らしをしていたように思う。一度商隊の護衛の数合わせに、他の領地へ連れていかれたことがあるが、あまり活気がなかった。

時の国王陛下が他の領主様にここを見習うようにとお触れを出したそうで、多くの偉い方が視察に来ていたのをよく覚えている。


 ところで自称一般人様はなにかと先人の知恵を活かしているだけ、とおっしゃっていたそうだけど、本当に謙虚なことだ、誰もが天才発明家だと思っていたよ。それに彼女の功績は開発だけではなかった。ガラスを大量生産できるようにしたり、農業の新しい仕組みを提案したりしたのも彼女だ。


 特に物理と化学の分野で大いなる功績を遺された。様々な公式を提案し、学問の発達にも貢献されている。公式に関しては彼女の母国語で表され、現在では大文字と小文字合わせて五十二文字のアルファベットと十個の数字、そしていくつかの記号は、学問の世界では定番である。


 彼女の遺した功績はあまりにも偉大だったので、彼女は国から表彰されデイムの称号を得た。晩年には電磁気学の研究もしていたそうだが、現段階では熱力学が限界なのだと仰った。熱力学は産業に大きな改革をもたらしたが、その代表格が蒸気機関だ。


 彼女が電磁気学にかけた熱意は、彼女の死後多くの研究者が受け継いだ。ボルタ電池やダニエル電池という物の図や説明が遺されているが、作れるようになるのはまだ先だろう。


 今でも彼女に憧れて、多くの少女が学校に行きたがる。彼女の遺産は学校に通うゆとりのない家の子どものために使われている。まったく素晴らしいことを思いつくものだ。自分の死後のことまで考えていたなんて。きっと人気が衰えることはないのだ、きっと。


 イソパラノル女侯爵アユリアナ王女殿下、そして自称一般人様もといデイム・マリナ。

 お二人はデイムの希望通り同じ墓地に隣同士で埋葬されている。誰もが彼女たちの死を惜しんだことは間違いない。お二人のどちらも生涯独身を貫いたため子どもはいなかったが、イソパラノル女侯爵は兄である当時の国王陛下の、末の王子を後継者としていた。


 王子殿下は成人してすぐイソパラノル侯爵となった。元侯爵の王女殿下は隠居後も、画期的な事業を立ち上げ領地の発展に貢献。老人や女性のできる仕事が増え、飢饉が起きても赤子が捨てられることはなくなった。

 他の領地もイソパラノル領を見習うようになった。


 ローレンツ王国は、ますます豊かになった。




 ところでデイム・マリナが残した公式の中で、一つだけよくわからないものがある。その公式は彼女の死後、日記から見つかった。若いころの日記で彼女の母国の言語で書かれていると思われ、アルファベットと数字、記号以外はだれも解読できないのだ。


『f=qvB:私qが熱意vを持ってこの世界の常識Bとかけ離れた行動を起こそうとする時、私に働く力f


 私は力fをもってして、やること全て否定されても諦めない。=(イコール)を<(小なり)に。私の持てる知識を駆使して自分の存在意義を確立し、この国の人々のために尽くそうと思う。

 アルトさん、ハロルドさんが私を見つけ、ユリアさんが生活を助けてくれたから私は生きている。彼らにあの時の恩を返したい』


 これがなにかの公式をもとにしたものなのか、ただ単なるお遊びなのか。まだ我々にはわからない。



*****


イソパラノル領出身のとある技師の手記より













 ローレンツ力:f=qvB

  電荷q[C]の電荷粒子が速度v[m/s]で磁束密度B[T]の磁場中を、磁場と垂直な向きに運動するとき電荷粒子に働く力f[N]

 (出典 Wikipedia)






これにてジエンドです。お付き合いいただきありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。