05 兄妹でいいだろ!
私が、主人公に転生した理由が、少し分かった気がする。
正直、主人公に憧れていたのだ。
自由に、勇敢に、冒険している主人公ルメロ。
言動も笑顔も眩しすぎる彼と比べ、私はベッドの上でマンガを読み漁るだけ。羨ましかった。
どうせなら、主人公ルメロに手を差し伸べられて、仲間になって、彼とともに冒険を楽しむ人生を味わいたかったけれど。
もしかしたら、主人公ルメロが「お前の番だ」って背中を押して、私をこのポジションに転生させてくれたのかもしれない。
私が、主人公ルメロの言葉を、心を持って、行動しろと。
自由に、勇敢に、冒険しろと。
私に手を差し伸べ、そして背中を押してくれたのかも。
なんて、ね。
目が覚めれば、村の医者の家にいた。
薬草をすり潰した匂いが、臭い。それで医者の家だと判断した。怪我をする度に来たけれど、どうにも好きになれない家だ。
蹴られた腹や、掴まれていた首元が痛かった。
これくらいの痛み、どうってことないと言い聞かせて、起き上がる。
「あっ、ルメリ!!」
「ルメリ!! 大丈夫か!?」
寝かせられていたベッドには、ティアスとアルマが乗っていた。
「ティアスもアルマも、大丈夫っ? モーアさんは!?」
「オレは別に……」
「気を失ったのは、ルメリだろ! モーアさんは……親父達を引き渡しに行った」
そっぽを向くティアスに続いて、アルマは俯く。
実の父親が、牢屋に入れられるのだ。
何も思わない無情な子どもではない。
「っ、それより! ルメリ!! 無茶しやがって!!」
「うわっ!」
「ルメリが殺されるかと思った!」
がばっと抱き付いてきたアルマは、ひしっと締め付けてくる。
怖かったのだろう。自分のせいで、殺されてしまうと。
友だちを失ってしまうと。
「私は殺されないよ。だって、勇者王になるんだ!」
ポンポンとアルマの頭を撫でてやって、笑い退ける。
「お前なぁ〜っ!」
私に心底呆れた様子のティアスは、アルマを引き離す。
アルマはしょうがなさそうに笑いを溢していた。
笑えるなら大丈夫だろう。さっきと違って、無理矢理笑っていない。勝手にそう判断して、私もにししっと歯を剥き出しにして笑った。つられたように、ティアスも笑い出す。
「おい。元気にしてもらったなら、出ていくぞ。お前ら」
一頻り笑うと、モーアさんの声が聞こえてきた。
見れば、もじゃもじゃ髪の無精髭のモーアさん。
手当てをしてくれた先生にお礼を伝えると、気怠げに撤収するぞと声をかけてくる。
「あ、あのっ! モーアさん!!」
「ん? なんだ」
アルマはベッドから降りると、モーアさんのところまで駆け寄った。
「オレを預かるって話……」
「あー、どうせ、一人いるんだ。一人も二人も変わらねぇ」
そう言えば、マンガでは主人公が気絶したあと、モーアさんはアルマの父親に向かって「オレが保護者になる」と告げたのだっけ。
そっぽを向いたモーアさんを見上げた私は、さっきのティアスの仕草と同じだと気付く。間違いなく、モーアさんはティアスの育ての親なんだな、と思った。にんまりしてしまう。
「ありがとうございますっ!!!」
アルマは、バッと深く頭を下げた。
私もティアスも、顔を合わせて、にっと笑みを溢す。
「ほら、行くぞ。だいぶ時間が過ぎた。修行をするぞ」
「「「えっ!? 修行すんの!?」」」
あんな事態が起きたのに、平常通りに修行をすることを言われて、三人揃ってギョッとしてしまう。
「嫌なのか? そんなんで勇者王になれると思うのか?」
「修行する!!!」
呆れたような眼差しのモーアさんに、私は慌てて声を張り上げた。
「ルメリは今日休めよ」
「そうだぞ」
「修行するぅうう!!」
アルマとティアスに言われるけれど、私は譲らない。
モーアさんについて行って、家を出た。
「お前……無茶したな」
「え?」
「無茶しやがって」
「うわわわっ!」
モーアさんの手が、ゴシゴシともみくちゃにしてきたから、頭を揺さぶられる。痛い。怒っている。
「でも、まぁ、水鉄砲が成功したな。ルメリ」
しゃがんだモーアさんは、ポンと手を置いてきた。
「よくやった」
モーアさんがそう褒める。いつものような仏頂面だけれど、どこか優しい目をしているように思う。師匠として、褒めてくれる。
毎日、せっせと練習していた水鉄砲が、やっと成功した。
「うんっ!!」
私は、元気よく頷く。正直、照れた。
「もう一回見せろよ、ルメリ」
ひょこっと顔を出すティアス。
「うん!」
「よし、競走だ!」
アルマが言い出したから、三人同時に飛び出す。
サクサクと山を登り、モーアさんの家の前に行く。
一番に到着したのは、モーアさんだった。意外と大人気ない。
アルマとティアスが同着。そして、ビリは私である。
めちゃくちゃ悔しがっていれば、さっさと水鉄砲を見せろと急かされた。
「ほら、水鉄砲で消してみろ」
「ババンとやって見せてくれ」
ボッと火を灯すティアスとアルマ。いつものように。
私はまた手で銃の形を取り、構えた。
「水鉄砲!!!」
二発、ぴゅーっと水が出る。いつものように。
地面にぴちゃっと落ちた。当然、火は消せていない。
「……あれ?」
「ルメリ、何してんだ」
「おい、さっきのだぞ」
「えいっ! 水鉄砲!」
もう一度、ぴゅーっと放つ。
全然、成功の水鉄砲にはならない。
「なんだ、ルメリ……? まさか、まぐれか?」
「……むぅ」
そうだった。まだまだ、完璧には出来ない。
技が、完成はしていないのだ。
私は、まだまだ未熟。
「これからも頑張る!!」
「そうだな。よし、山頂に行って紅葉取ってこい」
「はい!!」
ダッと飛び出して、私は山頂に向かう。
けれども、何故かアルマとティアスが先を走っていた。
出遅れたようだ。負けてたまるか。
そう頑張って登ったが、結局、紅葉一面の山頂に着いたのは、またもやビリだ。
「なぁ、ルメリ」
紅葉を一つ拾って、次こそは一番先に戻ろうとしたが、ティアスに呼び止められた。
そうだ。この紅葉の山頂で、兄弟の絆を強く結ぶシーンが描かれたのだった。
この場合、兄妹の絆だろう。
ティアスから、正式に兄妹になろうと言う提案をするのだ。
同じ師匠を持つ私達の三人で。
キラキラと目を輝かせて待った。
「オレが勇者王になって、ルメリを勇者王の女にしてやる!」
「え。無理」
義兄妹宣言ではなく、変なプロポーズをされて、私は反射的にきっぱりと断る。
「なんでだよ!? なんでアルマは断らなくて、オレのは即答なんだよ!?」
「勇者王になるのは私だから!!」
そこは譲れない。
「オレだから、お前はオレの嫁になれよ!!」
「ふざけんなティアス! 先に言ったのはオレだぞ!?」
「順番の問題じゃないんだけど!」
ティアスとアルマが喧嘩し出した。
言っておくけれど、聞いていない二人はボコボコと殴り合いを始める。
「それよりも!!! 義兄妹になろうよ!!! 同じ師匠の弟子なんだから!!!」
じれったくって私から言い出す。
「「兄ちゃんなんて呼ぶなよ! オレの女にしたいんだ!!」」
そこだけは、揃った二人に、私も負けずに声を上げる。
「兄ちゃんとは呼ばないけど、兄貴分として慕う!!! もう決めた!!」
「バカヤロー!! 決めてんじゃねぇ!!」
「そうだ!!」
「競走だ! よいドン!!」
「「待てコラ!!」」
私が先に飛び出したのに、兄貴分の意地なのか、先に到着したのはまたもや二人だった。
「あ、そうだ。皆、夕ご飯は家で食べて! 今日、お祖父ちゃんが大物仕留めるって張り切ってたから!」
「なんでだ?」
「私の誕生日だから!」
モーアさんは私の返答を聞くと、目を見開く。
固まっている。
「えっ……ルメリ、なんて」
「大物仕留めるって」
「いやそのあと」
「私の誕生日だから?」
ティアスとアルマに、もう一度言うように言われた。
首を傾げていれば、目を見開いて、二人も固まったのだ。
「「「なんでそれを早く言わない!!」」」
動いたかと思えば、怒鳴られた。
「え? なんで?」
「ふざけんなよ! お前! モーア! オレも狩りに行く!!」
「待て! オレが狩りに行く!!」
「いや、お祖父ちゃんや村の人達がごちそうしてくれるから、それを食べてくれればいいよ」
「「ふざけんな!!! ルメリの誕生祝いをタダ飯で済ませるかよ!!!」」
なんでタダ飯なのに、怒るの。
意味わかんないと首を傾げていれば、呆れたようにモーアさんがため息を吐いた。
「誕生日だと知ってたなら、何か祝いの品を用意してたんだが……他にないから、狩りの獲物を用意する」
「いや、お祖父ちゃんが用意するから」
「余れば、村に配ればいいだろ。お前の誕生日だ、祝わせろ」
モーアさんの手が、私の頭にまた置かれる。
今度は、ごしっと強めに撫でられた。
「ティアス、アルマ、大物を仕留めるぞ」
「おう!」
「はい!」
「お前、先に帰ってろ」
修行はお預け。私の誕生日祝いのために三人は狩りに行った。
私はむくれつつ、大人しく帰る。
家には、お祖父ちゃんが戻っていた。私が無事だと知ると、よかったと一言笑う。そして、今日の獲物を見せてくれた。私の好物である大鶏を見付けたと自慢する。鶏の三倍は、大きい動物。丸焼きにしてくれるという。
お肉にはしゃぎつつ、招待するように言ったモーアさん達も狩りに行ったことを話す。私の誕生日祝いをしたい、と。
お祖父ちゃんは「よかったな」と、ぽんぽんと頭を撫でた。
「今日は盛大な誕生日になるな」
「うんっ!」
一時間ほどしたら、仕留めた獲物を持ってモーアさん達が訪ねてくれて、それを焼き上げてくれる。ティアスとアルマの魔法で、だ。
仕留めたのは、大牛。なかなか歯応えのあるいい肉なので、これも好物。
焼ける香りが、いい。もうお腹、ペコペコだ。
他にも、村の人々が料理を運んできてくれた。
ついでのように、朝の騒動を解決したお礼を、モーアさんに言う。
搾りたてのジュースをコップに入れてもらい、ティアスとアルマと乾杯をした。
「「おめでとう!!! ルメリ!」」
「ありがとうーっ!!!」
ルメリ、六歳。
勇者として旅立つまで、あと十年。
一先ず、完結。
こんな感じでちょくちょく更新していきたいと思います(希望)
幼少期のルメリや兄貴分達の成長を書いていきたいですね。
短編に出てきた仲間との出会いも。
また書き溜めてから更新します!
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
20200103




