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04 なりたい者!




 アルマがモーアさんの家に移動して、少し日課が変わる。

 アルマが私を迎えに行きたいと言い出したらしく、何故かティアスも一緒に迎えに来るようになったのだ。口喧嘩をしつつ。

 私はマンガと違うな、と思いながらも、三人と山を登った。


「オレも勇者になることを決めた! 弟子にしてください!」


 吹っ切れたような笑顔で、アルマは頭を下げてモーアさんに頼み込んだ。

 正式に弟子が増えたモーアさんは、また額を押さえていたけれど、特に心配することなく修行を始めた。


「【鑑定】」


 アルマに手を翳したモーアさんに、腕立て伏せをしながら目をやる。


「お前も攻撃魔法【火】か、ティアスと同じだな」

「……」

「……」


 目を合わせるアルマとティアス。喧嘩勃発。

 ボコボコと殴り合うものだから、喧嘩両成敗。モーアさんの拳骨が二人の頭に落とされた。


「おい、ルメリ。腕立て伏せを終えたら、次は水鉄砲の練習をするぞ」

「ほんと!? うおおお!!」


 モーアさんから新たな指示が出たから、頑張って腕立て伏せをこなす。

 私の技、水鉄砲の強化のための練習。


「どっちか、火を起こしてくれ。ルメリの練習のために」

「「オレが! ……!?」」


 ボッと右手に火を灯すティアスとアルマ。ほぼ同時だった。

 ギロリと睨み合うも、モーアさんが拳骨を構えるため、喧嘩はしない。


「まぁいい、二つ的があってもいいだろう。ルメリ、素早く玉を飛ばすイメージで水を出して、火を消してみろ。前に言ったように、魔力量で補える。魔力で強化が可能だ。だから、魔力量は強さになる。この一月で、少しは魔力量が増えただろう。全力で出した水を、凝縮……つまり、小さく固めるようにして、放ってみろ」

「よくわかんないけどやってみる!!」

「少しは理解する努力をしろ!!」


 とりあえずやってみる!

 行動派な私を、モーアさんは叱ったけれど、気にしない。


「水鉄砲!!」


 指を銃のように見立て、伸ばした人差し指から水を出す。

 ぴゅーっ、ぴゅーっと水が出るだけ。火を手に持つ二人に届くことなく、地面に落ちた。


「まぁ、一度で出来るわけない。練習しろ」

「はい!!」

「返事だけは元気だよな、お前……」


 練習を続けてから、しばらくして、私達は休憩をする。

 私の水を出す魔法を使って、三人仲良く水分補給。とは言え、私が真ん中に入っているから、喧嘩していないだけである。


「ルメリは本当に努力家だよな! 生活魔法しか使えないってだけで諦めそうなのに……勇者を目指すなんて、すげーよ。だから、オレも頑張りたくなった」


 ニカッとアルマは笑いかけてきた。

 アルマが勇者になると決心したのは、私の努力している姿を見たからだ。

 照れくさくなるなぁ。


「血筋なんて関係ない、オレは勇者になる!」


 希望で満ちた青い瞳をしていた。


「そんで、ルメリを嫁にもらう!」

「……」


 また言われたプロポーズ。


「なんで、私を嫁にほしいの?」


 首を傾げて、素直に疑問をぶつけてみた。


「ルメリが、努力家でいい子だから! 心が強くて、真っ直ぐな感じで、なんか可愛い!」


 にししっと笑いながら、アルマは答える。

 心が強く、真っ直ぐな感じ。そんな印象を抱いたというシーンが、マンガにもあった。可愛いが付け足されたのは、異性だからなのだろう。

 だからって、嫁に欲しいなんて、飛びすぎる。

 好きな異性に対して、積極的なキャラクターだったのだろうか。


「ルメリ! コイツと話すな!」

「なんで?」

「なんとなくダメだ!!」

「意味わかんない」


 グイッとティアスに肩を抱き寄せられた。


「お前はルメリのなんだよ!? その手離せ!」

「オレはっ……!」


 グイッとアルマの方に腕を引っ張られる。

 ティアスが言葉に詰まらせるものだから、私が代わりに言った。


「私の兄貴分!」


 だって、ティアスもアルマも、兄的存在だ。

 主人公は兄として慕っていた。

 私自身にとっても、兄貴分である。


「……」

「ティアスも、アルマも、兄貴分!」

「オレもかよ!? オレは兄なんてごめんだぜ、ルメリを嫁にするんだから!」

「いや、二人は兄貴分!」

「なんでだよ!?」

「私のかっこいい兄ちゃん達!」


 アルマは大反対みたいだけれど、私は言い退けた。

 ニッと自慢する笑みを浮かべる。


「諦めろ、アルマ。ルメリは決めたら譲らない。じゃれていないで、修行を再開するぞ。兄妹分ども」

「はい!! もじゃ……モーア師匠!!」


 アルマのブーイングを聞きつつも、私は水鉄砲の練習をひたすら続けた。

 ゲームのように自動回復をする魔力。だから、結構の時間、たくさんの練習が出来た。

 夕ご飯を求めてお腹が鳴る頃に、家へ帰る。

 帰りも、アルマとティアスが送ってくれた。

 そんな一日を来る日も来る日も繰り返していたが、退屈はしなかったのだ。

 充実して、ほんのちょっとずつだけれど、強くなっていると思っていた。

 ある日、朝ご飯を食べて、お皿洗いをしていた時のこと。

 祖父は狩りに出掛けていったから、家の中では一人だった。

 兄貴分二人の迎えまでにお皿洗いを済ませた私は、んーっと背伸びをしていたのだ。

 そこで、ドアが乱暴に開かれた。

 ビクッと震え上がった私は、明らかにガラの悪い男を見上げる。

 大きな刃物を持ったその訪問者は、ニヤニヤしながら、私に手を伸ばした。「来い!」と一言。私を掴んで、無理矢理家から放り出された。


「何すんだよ!!」


 ころげてから立ち上がった私は、周囲の状況を見て思い出す。

 周囲の状況は、村の人々がガラの悪い連中に脅されて、道に集められていた。

 盗賊が現れたのだ。目的はーーーーーーアルマの捜索。

 そうだった。アルマの父親は、盗賊のかしらだ。手下達が、探しに来た。確か、マンガではたまたまアルマが先に盗賊達に気付いて身を隠していたはず。

 どうしよう。そろそろ、アルマとティアスが来る。

 見付からないといいけれど。

 むむむっと、睨み付けていれば。


「おい! アルマの服が、このガキの家から出てきたぞ!」


 家を探ったらしい盗賊の一人が、あのアルマのワイシャツを掲げて見せた。

 当然、家にいた私に注目が集まる。


「おい、アルマってガキを知ってるだろ。どこにいるか教えろ」

「……」


 むすっと唇を尖らせて、私は黙り込む。

 教えるものか。


「痛い目見たいのか?」

「……」


 私は絶対に口を割るものかと、そっぽを向いた。

 どんなに凄まれても、言わない。


「ほら、吐け!!」

「っ!」


 頭を、はたかれた。これくらい、いつも受けている。喧嘩の仲裁などで。

 べしっ。また、べしっと叩かれる。

 私は堪えたが、村の人々が止めに入った。


「やめてくれ! 子どもなんだ!」

「うるせぇ!! オレ達は盗賊なんだぞ!」

「子どもだろうと容赦しねぇ!」


 私を庇おうとした村の人々を怒鳴り付けては押し退ける盗賊達。

 持っている刃物を見せられては、怯えて当然だ。自分の子どもや家族を守ることで、精一杯。

 私の唯一の血の繋がった家族は、お祖父ちゃんだけ。どこかで狩りの最中だ。

 この場にいたら、きっと私を庇ってくれただろう。そして、傷付く。

 アルマも守るために、口を割らなかったはずだ。

 私だって、口を固く閉じる。


「アルマはどこに行った!? 答えないと、切るぞ!?」


 一人の盗賊に胸ぐらを掴み上げられて、刃物を突き付けられた。

 このまま、口を閉ざしていれば、刺されるかもしれない。

 恐怖も過ったが、それでも私は意地でもアルマを守りたい気持ちが勝った。


「友だちは売らない!!!」


 奮い立たせるように、私は声を張り上げる。


「勇者王になるのに、友だちを売るような人間にはならない!!!」


 そう言い放つ。

 しかし、それを聞いた盗賊達は、ぷっ! と吹き出すとゲラゲラと笑い出した。


「勇者王だってよ!?」

「ウケる!!」


 心の底からの嘲りに、少し涙を浮かべてしまうが、泣くことではないと堪える。

 こんな盗賊達に夢を嘲笑われても、傷付くな。

 負けてたまるか。


「戯言を叫んでないで、さっさとアルマの居場所を吐け!!」

「ぐあっ!」


 胸ぐらを解放されたかと思えば、今度は腹を蹴られて、地面に落ちて転がることになった。痛い。これは痛かった。

 うぐっと嗚咽を漏らして、涙を零してしまう。


「もうやめろよ!!」


 そこに響いたのは、アルマの声だった。


「バカ! アルマ!」


 ティアスも、家の陰に隠れていたらしい。

 アルマと、一緒に飛び出してきた。


「大丈夫か!? ルメリ!」

「ルメリ!」


 二人が駆け寄ってくれたが、アルマは首根っこを掴まれ、盗賊に捕まる。

 だから、ティアスだけが、私のそばに来た。


「もういい! オレ、帰るから!」

「っ! アルマ! だめ!」

「そうだ! アルマ!」


 帰るなんて言い出すから、アルマを私とティアスは止める。

 しかし、アルマがぴしゃりと言った。


「いいんだ!!」


 私もティアスも、わからず目を丸めた。


「ごめん。ありがとう!! じゃあな!」


 アルマが無理に笑った顔で振り返る。

 私達にこれ以上迷惑をかけないように、いたくもない場所に戻ろうとするのだ。

 私達のために、自分を犠牲にする。無理に笑ってまでーーーーーー。


「「アルマー!!!」」


 私とティアスが、許すはずもない。

 私は、兄貴分を、友だちを守りたい。

 ティアスだって、同族嫌悪で喧嘩ばかりしていたけれど、一緒に暮らしてきた。一緒に励んできたのだ。

 自分を鏡で見ているように、ティアスは無理に盗賊のところに戻ろうとするアルマを見過ごせなかったのだろう。

 私と一緒に、盗賊に立ち向かった。

 だけれど、子どもである私達は、敵わない。

 私は突進して、一人を倒した。

 ティアスも足を崩して、一人を倒す。


「やめろよ! ルメリも、ティアスも! いいから!」

「よくない!! アルマ行くな!!」

「そうだ! 行きたくないところに行くな!!」


 私ももう一度盗賊に突進したけれど、避けられてしまった。

 捕まる前に、ティアスが爆発の魔法を行使して助けてくれる。


「【爆発】の魔法か! そっちのガキから潰せ!」


 手強い魔法を使うティアスに集中し、盗賊達がねじ伏せた。

 私も一人に頭を掴まれて、ねじ伏せられる。

 ティアスは強いけれど、こんな大勢の大人には、敵わない。

「離しやがれ!!」とティアスが暴れる。私ももがいた。

 友だち一人守れないで、勇者王どころか、勇者にもなる資格はない。


「アルマーっ!!!」


 けれども、叫ぶしか出来なかった。

 弱くて、アルマを助けられない。

 私が弱いからっ!

 悔しくて、悔しくて、胸の中が爆発しそうになった時だ。


「オレの弟子に何をしてやがる! 盗賊風情ども!!」


 ふっと体が軽くなる。ねじ伏せてきた盗賊がいなくなったからだ。

 起き上がれば、盗賊達は太い蔓で一網打尽にされていた。

 そこに立っていたのは、モーアさんだ。

 どうやら、私達が来ないから、来てくれたみたい。


「かっ……かっこいい!!」


 目を輝かせた。

 あんなに多かった盗賊を、一瞬で捕縛出来てしまうモーアさんの強さが、かっこいい。

 攻撃魔法【木】とモーアさんの魔力量の多さで、ここまで圧倒するなんて、本当に強い人だ。

 どれほど、魔力量が多いのだろう。将来、こんな風に多勢でも圧倒出来るほど、強くなれるだろうか。

 憧れを、焦げるほど熱く、抱いた。


「おい、大丈夫かーー……っ!?」


 突如、歩み寄ってきたモーアさんが火に包まれる。

 毎日のように見ていたティアスの【火】とは、比べ物にならない。巨大なな火が、モーアさんを飲み込む。


「モーアさん!」


 私が呼ぶと、その巨大な火から、モーアさんが飛び出す。


「くそっ! 攻撃魔法【火】か!」


 少し焦げたが、無事のようだ。

 火が飛んできた方を見れば、顔に傷のある大男がいた。

 金髪の髪は、不揃いに切られている。青い瞳。そして、攻撃魔法【火】を持つ。

 間違いなく、アルマの父親。盗賊の頭だ。筋肉がしっかりついた二の腕には、アルマと同じ焼印があった。ダイヤのマーク。


「オレ様は盗賊風情だが、お前はなんだ?」

「……ダイヤのマーク。アダマスの盗賊の頭だな。悪いが、アルマはオレの弟子になった。連れては行かせない」

「へっ! 盗賊の子どもを盗るつもりか? オレ様の実の息子だぞ。やるつもりはねぇ。コイツを奪うために、戦う気か? お前は【木】で、オレ様は【火】だぞ!!」


 大きく振りかぶって、手を突き出す盗賊の頭。

 紅い火が噴き出す。

 また飲み込もうとする火を、モーアさんは地面から植物を生やして盾にした。しかし、火が植物を燃やし尽くす。朽ちてしまった。

 ハッとする。モーアさんの【木】は、今も盗賊達を捕まえている。

 それなのに、ティアスより火力の強い【火】と戦おうとしているのだ。

 いくらモーアさんが強くても、それは無謀すぎる。

 魔力量が足りなく、盾の植物も燃やされてしまう。

 加勢しなくてはっ!

 私の魔法は【水】だ。例え生活魔法でも、火を消すことくらい出来る。


「んむぅ!!」


 全力の水の玉を出して、ボールのように両手で思いっきり投げ付けた。


 パシャンッ!


 火力に押されて膝をついたモーアさんの盾を消火。

 成功した。


「あん?」


 ギロリと盗賊の頭が、私を睨み付ける。


「ルメリ! 逃げろ!」


 逃げろとモーアさんが声を上げるけれど、私は嫌だと反射的に言いそうになった。その前に、目の前にティアスが庇って立つ。

 私達に向けて放たれた火を、ティアスは相殺しようと火をぶつけた。

 しかし、子どもと大人の力の差は歴然で、ティアスは力負けをして後ろに転がる。


「ティアス! っうあ!?」

「燃やし尽くしてやろうか、クソガキ」


 私の首を掴み上げた盗賊の頭は、そう殺気立つ。

 ビリビリと殺気を受けて、肌が痺れを感じた。


「おっと、動くなよ。このガキの首をへし折られたくなければな」

「っ!」


 モーアさんに釘をさす。モーアさんは手も足も出せなくなった。


「やめてくれっ! なんでも言うことを聞くから!! もうやめてくれよ!!」


 その盗賊のかしらの足に、アルマが泣き付いて止める。

 それはまるで、実の父親に、命乞いをするようだった。


「だめだ!! アルマ!!」


 苦しみながら、私はそう叫んだ。


「だめじゃねえよ。アルマがこう言ってんだ。命は助けてやるよ」

「うるさいっ!! アルマは、お前のところなんていたくないんだよ!! アルマは勇者になりたいんだ!!!」


 じたばたともがきながら、私はアルマの気持ちをはっきり伝えた。

 さらに首を持ち上げる手に力が入ったものだから、うっと呻く。


「盗賊の血が流れているのに、なれるわけねーんだろ!!」


 盗賊のかしらが放った言葉。

 それは、アルマだけではなく、ティアスの心をへし折るような言葉だった。

 実の親からの否定の言葉は、強烈のはずだ。


「違う!!!」


 だから、私はもう一度叫ぶ。

 こんな苦しみ、二人に比べたら、全然だ。


「何者になるかは、自分で決めるんだ!!!」


 心をへし折られたとしても、支えるために、その場に響かせた。

 それは、前世で主人公が言っていた言葉をそのまま借りて叫んだだけだけれど、私自身もそう思うから、強く強く言葉を出したのだ。

 そして、手で銃の形を作り、人差し指の先を額に突き付けた。


「水鉄砲っ!!!」


 全力で、指先に水の小さな玉を集中し、放つ。


 ドンッ!


 魔力を凝縮した水の玉は、ゴム弾のように弾く音を出し、盗賊のかしらを吹っ飛ばした。

 開放された私は、着地。

 目の前のアルマは、驚愕したように実の父親が倒れる姿を見た。


「退いてろ! お前ら!!」


 モーアさんが、この隙に畳み掛ける。

 地面からうねるように飛び出した植物の太い蔓で、起き上がろうとしたかしらを叩き潰す。そして、捕縛した。

 それを見た私は、後ろに倒れる。

 全魔力を使い、貧血のような目眩を覚え、そのまま気を失った。

 そうだった、と遠退く意識で思い出す。

 こんな展開だった。

 初めて、私は生活魔法【水】を攻撃魔法のように使えた瞬間。

 アダマス盗賊は捕まり、アルマは自由になる。

 ティアスとアルマに揺さぶられる感覚を味わいながら、私は満足して意識を手放した。



 

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