第三話 能力把握そして逃走
まさにタイトルが今回の話の内容を物語っています。
「では、この身体のスペックがゲーム通りのものか調べてみよう。」
そして光一は神刀「破邪」を両手で構えた。
光一自身、剣術の心得など全くないのだが、どうやらその心配は無用だった様で、戦い方はこの身体が知っていた。
光一が刀を構えただけで、周りの空気まで重苦しいものになり、少し離れて見ていた春歌まで、凄い緊張感に包まれた。
そして光一が刀を一閃し、そのまま2回、3回を刀を振るう。
打ち、薙ぎ、払い、突くと言った光一が凡そ考えつく限りの技を振るう。
そのどれもがとても流暢で鋭い。どう見ても達人のそれであり、つい先程、剣を手に取った者の剣捌きとは思えない。
同じく高レベルで魔法使いで始めたといえ、戦闘能力やスキルを持つ春歌だから、何とか剣捌きが見えるのだが、常人が見れば、剣筋を追うことさえできないだろうというレベルのモノだった。
「凄いですねお兄様!これなら間違いなく私達がプレイしていたキャラのスペックですよ!!」
「ふむ、確かにそうだね。」
春歌の言葉に刀を振るうのを止めて、周りを見渡すと丁度良い大きさの突き出てる岩を見つけたので、剣技スキルの1つで剣士で始めた場合、早めに習得できる「飛翔斬」を繰り出そうとしたら、問題なく身体が刀に気を込めて岩に向かって勢いよく振り下ろした。
次の瞬間、刀から凄い勢いで衝撃波が放たれ、岩を粉々にした。
「す、凄いですね・・・。」
「うん」と光一も頷くしかなかったが、剣技スキルでは初歩スキルに当たる「飛翔斬」でこれだけの威力があるならば、光一の今の身体のスペックやスキルなどは、この世界に来る直前にプレイしていたキャラのレベルと同じと見てよいだろう。
「春歌も魔法を問題なく使用できるか試した方がいい。」
「そうですね。私もせっかく「フリーダムファンタジープレイ」の強者のレベルな上に、この「三精霊王の杖」まで持っているトップレベル魔法使いなのですから、私もそうしてみます。」
春歌も光一の言葉に同意して「三精霊王の杖」を近くの樹に向けた。
この「三精霊王の杖」は、光一の神刀「破邪」と同じく魔王討伐ルートにおける真ボスである邪神や、勇者討伐ルートの真ボスである女神に止めを刺せるイベント武器の1つであり、その名前通り「フリーダムファンタジープレイ」に登場する遥か南の大陸ムーオで信仰されている三体の神にも近い強力な精霊が力を合わせて生み出した魔法使いまたは神官専用の最上級の杖の1つである。
魔法攻撃力+80に装備者の魔法を放つに必要な魔法力の限界値を30%上昇させてくれる。その上、杖としては直接戦闘をする時の殴打武器としても攻撃力+50と威力が高い。
「え~と、まずは基本に忠実と言う事でファイヤアロー!」
春歌の掛け声と共に初歩魔法の1つであり、火系魔法の初歩でもある炎の矢を飛ばす単体対象のファイヤアローが三精霊王の杖が放たれ、瞬く間に樹を燃やし尽くした。
「ほへ~、春歌の魔法も大した威力だね。」
「そ、そうですね。」
その光景を見て光一は感心した声を上げ、春歌は想像以上の威力にちょっと引き気味だった。
でもこの威力を見て、高揚感も出た様だった。
「ではでは次はもっと凄い魔法を使ってみますね♪」
「う、うん」
いくらかテンションの上がった春歌に、少し押された様に頷く光一。
何を放つか少し考えた後、決めた春歌は杖を今度は遠くに見える山に向けて放つ魔法を叫んだ。
「シャイニングブラスト!!」
中級レベルの魔法使いで使用できる様になる光系魔法の中でも最上級魔法にあたり、射程の長い高威力の白く輝くビームを放つ魔法であり、春歌の叫びとともに杖から強力なビームが山に向かって放たれ、そのまま山を貫通して空の彼方まで撃ち出された。
シャイニングブラストが消えると、遠くに見える山の中腹部分にそこそこの大きさの穴が開いており、その先に空の景色が見えていた。
「・・・な、何て威力だ・・・。」
光一はその光景に呆然としながら呟いた。春歌は驚きのあまり声も出ないらしい。
しばらくの間、二人は放心した様で突っ立ったままだった。
「どうやらこの身体のスペックは僕達のプレイしていたキャラと同じみたいだね。ちょっと能力確認にしてはやり過ぎたけど・・・。」
「そ、そうですね。」
スペックと能力の確認を終えて、草原に腰掛けて、再び今後について話し合う事にした。
「そう言えば僕達って周回プレイで得たレアアイテムとか資金はどうなったんだろう?所持してるのかな。」
「そう言えばそうですね。どうなんでしょう?」
う~ん、頭を捻っていると二人の頭に所持金と言う言葉と、ゲームで最後に確認した時よりも少し多い額の金額が出た。
ちなみに「フリーダムファンタジープレイ」ではプレイヤーがそれぞれ個別のキャラを育成操作する故、共同プレイであろうと、それぞれが持っているアイテムも所持金も違ってくる。
場合によってはレアアイテムの取り合いやフープの取得を巡って仲間同士で争うなんて事もあった様である。
無論、光一と春歌の間でもこれが原因で喧嘩をした事が何度かあった。
「ね、ねぇ、春歌、今、僕の頭の中に所持金と言う言葉とその金額がゲーム内の貨幣「フープ」で浮かんだんのだけれども!?」
「わ、私もです!?」
どういう事だと思ったが、そもそも今の状況事態が光一達にとって理解の範疇の事態なのだ。
光一はすぐにこの事について考えるのを止めた。
それよりもどうやったら所持金を出せるのだろうと考え、取り敢えず1フープを出してみようと考えた時、手の平に1枚の硬貨があり、頭の中に浮かんだ所持金の金額が1フープ減っていた。
次に収納と念じると硬貨が消え、所持金の金額が元に戻った。
色々と思うところが無い訳でもなかったが、これで金に関しての問題は解決した。
後はアイテムに関してだが、これも所持金と同じ要領でやればいいかもしれないと思い、アイテムと考えると、今度は今、所持しているアイテムのリストが浮かんだ。
しかも、回復アイテムや装備品、ゲームのイベントに必要な重要品とちゃんと区別されての親切使用である。
それについて、もはや突っ込む気にもなれないので、回復アイテムでは一番効果が低いかわりに、もっとも入手が簡単な薬草を1つ取り出そうと思ったら、今度は手の中に薬草が1つ握られていた。
そして再び、収納と念じると薬草が消えた。
これで所持金と所持アイテムについての問題は解決したのだった。
「・・・所持金と所持アイテムについても解決したから、後はここがどこでどう動くかだが・・・。」
光一はそう言って「フリーダムファンタジープレイ」の始まりの部分を思い浮かべた。
「フリーダムファンタジープレイ」はキャラクターメイキングが終わると操作キャラが、中央大陸の西にある国、バーンサイド王国の副都市ルーバから少し離れた草原からオープニングのイベントが始まるのである。
と言う事はここは中央大陸の西にある国、バーンサイド王国の副都市ルーバから少し離れた草原という事か?と思った時に、何か騒がし音が聞こえてきた。
何事かと思った時に、風向きがよかったのか、いくつかの叫び声が聞こえてきた。
「おい、こっちの方面でいいのかよ!!」
「知らねーよ!でもさっきの魔法の法撃はこのあたりから来たみたいだぜ!!」
「あれは何だ!?魔王軍の新兵器か何か!?」
それらの聞こえてきた叫び声に、光一と春歌はぎょっとした表情で顔を見合わせた。
「えっ?ま、魔法の法撃?そ、それってまさか・・・。」
「わ、私が先程放ったシャイニングブラストなのでは・・・。」
そこで光一はハッとなって急いで立ち上がった。
「まずいぞ春歌!このままここにいてはまずい事になる!!取り敢えず逃げるぞ!!」
そしてそのまま春歌をお姫様抱っこで抱えて、声が聞こえてくる方とは真逆に向き、中級スキルの1つで、発動させると一定時間3倍速で移動できる「超加速」を発動させて、あっという間にこの場から逃走した。
こうして緋村兄妹の冒険の最初の一歩は逃走という何とも締まらない形で始まったのだった。
まぁ、何にしてもこうして緋村兄妹の冒険と言う名の旅が始まります。