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第13話「信秀オヤジから、家督を継げ!②」

 アルカディア王である父クライヴは、アーサーこと俺の、とんでもない変貌を見て驚いていた。

 そりゃ、そうだろう。

 以前の超草食系ボーイ、単に優しいだけのアーサー王子と比べて、180度転換ともいえる変わりようだから。

 

 しかし、俺は平然と言い放つ。

 アーサーの名誉も含めて。

 

「いえ! 以前の俺とこころざしは変わっておりません。変わらねばならないのは、俺以外の『戦う者』達でしょう。以前からアルカディア全土を回って、俺は民の悲惨な暮らしぶりを充分に知りましたから」


 俺の言動はロキの加護による、『性格の信長化』が大きい。

 加えて、アーサー王子の情報収集力、分析力も後押ししている。

 

 そう、アーサー王子は、故国を思う気持ちだけは強かった。

 誰にも負けなかった。

 しかし……

 王としての資質、適性を……豪胆さと決断力に欠ける自分の性格を良く分かっていた。

 

 だから、やれる事をやっていた。

 少しでも自分の国の現状を知ろうと……救う手立てを研究しようと……

 僅かな供を連れ、国内の隅々を丹念に歩き回っていたのだ。

 

 アーサーの心から俺の心へ聞いた話だから、間違いはない。

 なので、堂々と言える。


 俺との入れ替わりの時は、爽やかな笑顔で「からっ」としていたけど……

 今なら分かる。

 アーサー王子の哀しい心が……

 

 木から転落するという、少々お間抜けだが不慮の事故により死んで……

 どんなに、無念だった事か……

 いくら神の啓示だからといって、見ず知らずの男に、大切な家族と故郷の国を託すのだから。


 それ故、俺はアーサーの遺志をしっかりと継ぐ。

 この転生は、俺が単独で生き残るだけじゃない。

 俺と家族と国民、そしてこのアルカディア王国の民、全員が生き残らなきゃいけないんだ。

 

 しかし、自分でも凄いと思う。

 どんどんセリフが湧き出て来るんだ。

 

 実感する。

 信長というのは、皆の想像通り、こうも覇気に溢れ、雄弁且つ演説上手であったのだと。

 それにしても民の悲惨な暮らしぶり……とてもストレートな言い方である。

 「責任はオヤジ、貴方にありますよ」と、息子ははっきりと父親の至らなさを責めているのだから。

 

 クライヴは、黙って目を瞑った。

 よりによって、身内の息子に言われるなど屈辱でしかないだろう。

 アーサーいわく、昔の父は激しい気性で、自分の子供にさえ容赦なく鉄拳を振るっていたという。

 ここまで言われたら、激高して、俺を斬り捨てているかもしれない。

 

 だが病弱でろくに政務を行えない現在は、自らの王としての不甲斐なさに心を痛めているようだ。

 

 辛そうな父親へ、俺は淡々とした調子で話を続けた。


「オヤジが国政より離れてから……我が王国は更に荒れた」


「むう……」


「……これもオヤジは知っているだろうが、俺は領内をくまなく見て回った」


「…………」


「領民達の暮らしはけして楽ではない。否、悲惨だといえるだろう」


「…………」


「税金はがっぽり取られるのに、痩せた土地へろくに育たない作物を植え、収穫は極端に少ない。日々魔物や山賊に脅かされる恐怖の生活が続いている」


「…………」


「対して民あっての国という事を忘れて手を打つどころか、何も考えずに日々を過ごす我々戦う者、そして祈る者達の愚かさ。このままの状態ではアルカディアは滅びの道をたどるしかない」


 これ「親父さん、貴方が王のままでは滅ぶ」って言っているんだよな。

 息子は「父親が無能」って言い切っているんだよな。


 自分でも凄いと感じる。

 前世で親に対し、口答えさえした事のない俺が、ここまで言っちゃうのかと。


 クライブは苦笑すると、大きな溜息を吐く。


「ふう……で、お前の言う愚かな『戦う者』の中には、我々王家も入っているというわけか……」


 父の問い掛けに、俺はきっぱりと言う。

 まるで、とどめをさすように。


「当然! 一番の象徴的存在だ」

 

「ふふ、はっきり言うな。で、お前ならば……この国を創り変える自信があるのか?」


 真剣な目で問うクライヴ。

 しかし俺はあっさりと首を振る。


 クライヴは俺の意外な反応を見て呆気に取られていた。

 散々父親をこけにした生意気な息子は「自信がある!」って言い切ると踏んでいたのだろう。


 俺は大袈裟に肩を竦める。


「ははは、散々偉そうな事をオヤジ殿へは言ったが、若輩者の俺に自信なんてある訳がない」


「な、何!?」


「だが……座して無様な死を待つより、アルカディアのうつけ者として、もがいて戦い死にたい」


「ぬう! アルカディアの……うつけ者か」


「ああ、王子で嫡男の俺がもうやるしかないんだ。(わら)の上での、不名誉な死なんて御免だな」


 座して死を待つより、うつけ者としてもがいて死ぬ。

 そして(わら)の上での死などNG……

 すなわち北欧神話で言われる例え、戦士として不名誉な死を引き合いに出した。 クライヴの魂に、俺の言葉は響いたようだ。


「ははははは、ごほごほごほ。お、お前は何という事を言うのだ、まるで昔の血気盛んだった儂の様だ」

 

 クライヴは、遠い目をする。

 そして懐かしそうに笑った。

 

 アーサーによれば、クライヴは若い頃、がむしゃらに戦っていたという。

 ガルドルド帝国の大軍にも臆せず、民の暮らしを守る為に蛮勇を振るって戦ったのだ。

 覚悟を決めた息子に、かっての自分を重ねたらしい。

 

 俺は真っすぐに、クライヴを見つめる。


「オヤジ殿はアルカディアをここまでの国に造り上げた。素晴らしい! だがまだまだ不十分だ。それ故、俺は貴方を超える。今のアルカディアを大きく変え、よりよい国にする。この国の民を幸せにする為に……そして自分の誓いを成し遂げる為に」


「……ふ、ふふ。よくぞ言った! ではアーサー、早速家督の相続を……」


「おっと! 正式な発表はおいおいと。とりあえず内々で王としての権限を貰えれば良い」 


「内々?」


「こんな簡単に王位をやるぞ、はい、OKってわけにもいかんでしょう? 正式な発表にはいろいろ根回しも必要だ。とりあえずオフクロだけに伝えて頂けますかね?」


「お、おお、……そうだな」


「それに、公的なお披露目って奴なら、爺やも一緒でないと……ねます」


 俺がマッケンジー公爵の事を言うと、クライヴは微笑む。

 今迄どんなに爺やが、自分の息子に尽くして来たか、知っているからだ。


「ははははは、確かにその通りだな」


 俺が見守る中……

 大笑いしながらも、クライヴの眼光には鋭い光が戻っていたのである。

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