第14話「ブラコンお市の恋①」
信秀オヤジことアーサー父クライヴ・バンドラゴン王から……
バンドラゴン王家督継承の内諾を貰った俺であったが……
嫁イシュタルの下へ戻る前に、もうひとり会っておかねばならぬ人物が居た。
俺と入れ替わって『次の世界』へ旅立ってしまったアーサーから、念入りに頼まれた、彼の愛する妹エリザベスである。
アーサーから知識の受け渡しをして貰った際、俺は吃驚した。
前世も含め、今迄見た中で、エリザベスは一番の美少女だったから。
それに、彼女は超美少女というだけではない。
アーサーがそこまで言うのは、特別な理由があったからだ。
というわけで、俺は今エリザベスの私室前に居る。
扉の前には警護の騎士が居るが、当然俺=アーサー王子の顔を知っている。
なので、警戒などせず、満面の笑みを浮かべていた。
そう、兄が妹の部屋を訪ねるのは全く問題ない。
真夜中ならばいざ知らず、まだ陽が沈まない夕方前なのだから。
俺は扉をノックした。
しかし……
「どなたでしょう?」
返って来たのは、エリザベスではない若い女の声である。
多分、妹付きの侍女だろう。
ここは、普通に名乗った方が良いと思う。
「アーサーだ」
「アーサー様……はい、確かにお声はアーサー第一王子様ですね。ジーン様、間違いありませんか?」
ジーンとは、扉前に居る護衛の騎士の名である。
侍女は俺の『声』を認識していた。
名乗った俺が、アーサーに間違いがないか確認したのだろう。
「はい! いらっしゃるのは、アーサー王子に間違いありません」
「そうですか……しかし姫様は本日、ご体調がすぐれない為、ご親族を含め、どなたにも会わぬと仰っております。兄上様とはいえ申し訳ありませんが、お引き取りを……」
成る程……
エリザベスは、具合が悪くて、自室に引きこもっているのか。
それで俺が王宮へ帰還した時、姿が見えなかったんだ。
でも……体調不良というのは、絶対に仮病だろう。
アーサーから聞いた話では、昨日までは全然元気でいたらしいから。
まあ、引きこもりの理由は、大体想像が付く。
多分、俺の結婚に関してであろう。
エリザベスは12歳の少女で多感な年頃。
無理は禁物である。
だが、ここで「じゃあ、帰ります」などという、子供のお使いみたいな事を俺は言わない。
「おい、侍女、ぐだぐだ言っていないでさっさと扉を開けろ」
今迄のアーサーであれば、当然、素直に引き下がると思ったのだろう。
想定外の大声を掛けられた侍女は吃驚した。
「は?」
「妹の部下として、命令に忠実なお前には感心する。だが、もっと主の性格を理解した上で、場の状況を読め」
「ア、アーサー様、扉越しで申し訳ございません」
「ん?」
「わ、私はアーサー様もご存知の、エリザベス様付きの侍女頭ブレンダでございますよ。仰っているのは、どのような意味でしょう?」
今迄のアーサーだったら、素直に引き下がる筈なのに……
という、戸惑いの波動が伝わって来る。
侍女の心の内が分かったのは、ロキから与えられたチート能力『サトリ』によってであった。
まあ……
ブレンダに悪気はないので、俺は「優しく」物言いをする。
「分からぬか? ケースバイケース、臨機応変さを考えず、杓子定規に命じられた事だけを遂行するのは、愚の骨頂だと申しておるのだ」
主に対する忠義心を『愚の骨頂』と貶められ……
侍女ブレンダは、『怒り』と『驚き』の波動を送って来る。
「ん、まあ!」
「聞き分けろ、ブレンダ! 何度も言わぬぞ。至急エリザベスに取り次ぎ、この扉を開けよ。開けなければぶち破る」
「え? ぶ、ぶち破るって!? お、お戯れを!」
「たわけ! けして戯れではない! 俺は、遊びでここへ来たのではないし、つまらぬ冗談が大嫌いだ」
「え?」
「ちなみにな、先ほど、惚けたクソ冗談を抜かした宰相をぶん殴ったばかりだぞ」
「な!? さ、宰相を!?」
ブレンダの驚きが最高潮に達した時、騎士ジーンの最高ともいえるフォローが入る。
「本当ですよ、ブレンダ殿。王子は宰相を拳一発でノックアウトされました」
ジーンの口調には、「してやったり!」という爽快感が含まれていた。
もうはっきり分かる。
先程の事件でもオライリー麾下の騎士以外、非難する者は殆ど居なかった。
オライリーの奴は、若手の騎士達からは相当嫌われていたのであろう。
「…………」
ブレンダはさすがに絶句したが、もう逆らう気はないようだ。
暫し経って、扉は開けられたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
応対したブレンダと侍女数名が、まるで背後に守るようにして、現れたひとりの美少女……
「お兄様!」
絹のガウンに包まれた小柄ながら伸びやかな肢体。
真ん中で分け、2本のお下げにして垂らした、さらさらな金髪。
その姿はまるで古代の神話に出てくる伝説の妖精。
但し、顔は少しやつれていた。
少女の名はエリザベス・バンドラゴン。
アルカディア王国第一王女。
正室アドリアナの子で俺や弟のコンラッドと母を同じくする実妹である。
エリザベスの立ち位置は、この異世界信長ワールドで言えば、絶世の美女である信長の妹。お市の方だろうか?
この美少女っぷりであれば、充分に納得だ。
例えれば超一流職人が精魂込めて作り上げた、可憐なフランス人形である。
和風美人のお市様とタイプは全く違うが、ここは西洋風異世界。
ここまで可愛いなら問題は全くない。
ちなみに、前世の俺には妹など居ない。
ずっと、ひとりっ子で育って来た。
だから今迄知らなかったのだ、このような感動を!
世間でいう『妹萌え』とはこんなに素晴らしいと!
可憐なエリアベスを見て、心の底から感じているのだ。
そう、エリザベスの肌は抜けるように白く美しい。
まるで白磁。
鼻筋がすっと通った端麗な顔立ちは、母アドリアナ譲りの気品を残しつつ、碧眼には夢見るような輝きが宿っている。
エリザベスの可愛い頬が僅かに膨らみ、桜色をした小さな唇が開く。
「今日はお兄様にとって、特別な日……なのにわざわざ、私の下へいらして頂くなんて、一体何用でしょう?」
「おお、エリザベスに大切な用事があるから来たぞ」
俺が理由あって訪ねたと言えば、エリザベスは綺麗な青い目をキラキラさせている。
『希望』『期待』という、強い波動が放たれる。
「大切な用事? もしかして?」
「何だ?」
「私との純愛を選び、あの女とはきっぱり別れる! そういう事なのですね?」
エリザベスはそう言うと、「じっ」と俺の顔を見つめたのであった。
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皆様の多大なる応援のお陰です!
本当に、本当にありがとうございます!
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