三十日(最終日)
最終日。
なぜか僕は寝ていなかった。
「……寝せろ」
「えー」
「俺ら明日、つーか今日の四時に出なきゃいけないんだよ」
「今から寝ても起きれないから付き合ってよ」
「……ふざけんな!」
現在時刻は深夜一時。
僕は明日十時に出る予定だから問題ないと言えば問題ないが、それでも寝たい。
そもそも調査明けに徹夜させるな。
「……N務、Y山、O越……お前ら……」
「あ、あたしUNO持ってきてる!」
「よしやろう!」
「……はあ」
UNOねえ……。
そう言えばここの所やってないな。
中学の修学旅行の時だったかな?
ドローフォーを四枚喰らって、それでも一抜けしたことがあったな(マジ)。
一時間、ひたすらUNO。
時刻は深夜二時半。
「UNOも飽きたな……」
「ホワイトボードあるよ! 絵描こうよ!」
「いいぜ」
「……お題は?」
「もや○もん!」
「おお、農学部っぽい」
「あたし初○ミク描きたい!」
「一人で描いてろ!」
「Y山からまさかのヲタ臭……」
「……初○ミクってさあ」
「あ、山大が食いついた」
「……違う。あのツインテさ、先に行くほど毛先が広がってるけど」
「うん?」
「……あれ、静電気か何かで広がってんのかな。電子なアイドルだし」
「止めて! そんなこと言うなし!」
「……だとすると髪質は結構悪いんじゃないか?」
「夢を壊さないでくんない!?」
楽しい会話だった。
ギャアギャア騒ぎながらお絵描きタイム一時間。
時刻は深夜三時半。
「……寝るぞ」
「「「お疲れっ」」」
帰り支度を始めた三人を居間に残し、僕はようやく眠りについた。
* * *
八時起床。
少量残っていた食材と米を最後の朝食にする。
と言っても、あれだけいた人もすでに十人を切っている。
朝食としては十分満腹になる程度だ。
「静かですね……」
「そうだね」
T田さんは尻矢崎の寒立馬を見てから帰るそうだ。
観光にしては渋いチョイスだ。
さすが農学系。
「さ、ご飯を食べ終わったら掃除して解散だね」
「はい。あ、僕、大間でG大のH櫛先輩と合流してそのまま帰ることになってます」
今朝A先輩からメールが来ていた。
A先輩は近くの産直を回りながら帰るそうなので、少し急いで帰る予定のH櫛先輩に送ってもらうようにとのメールが来ていたのだ。
「そうなんだ。どうやって大間まで行くの?」
「鈴Kさんが送ってくれるそうです。大間の学生さんを回収するついでに」
「そっか」
着々と帰りの時間が近付いてくる。
拠点の掃除も終え、身支度をして後はここを出るだけだ。
もちろん、カンジキとフンの採集セットも持った。
H櫛先輩が大学まで持って行ってくれるそうだ。
「さて、時間だね」
「はい」
時刻は午前十時。
もう出発の時刻だ。
「じゃあ山大くん、また来年」
「はい、T田さん。お疲れ様でした」
「うん、お疲れー」
僕は鈴Kさんの車に乗り込み、T田さんはバス停に向かった。
* * *
そして僕は一旦大間へ。
そこでH櫛先輩と合流し、H櫛先輩に実家まで送ってもらう手はずになっている。
自宅の住所を言い、後はナビに任せる。
途中に休憩を挟みながら五時間ほど。
「おお……」
目の前に見慣れた町が広がった。
山を無理やり切り開いたような坂だらけの町だ。
「あ、H櫛先輩。ここでいいです」
「ん? まだ住所まで少しあるぞ?」
「はい。でも少し歩きたいんで」
「……了解」
スピードを落とし、路肩に停車する。
「それじゃ、カンジキとU坂さんの採集セットよろしくお願いします」
「ういっす」
「それと、ここまでありがとうございます」
「いいってことさ。どうせ通り道だし。んじゃ、良いお年を」
「はい、良いお年を」
下車し、走り去るH櫛さんの車を見送る。
そして僕は荷物を持ち直し、相変わらず足腰に辛い急な坂道を登っていく。
「……ただいま」
ようやく、僕は帰ってきた。
長いようで短い、充実した一週間だった。