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本物の公爵令嬢  作者: Na20


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 帝国での暮らしにも慣れてきた頃、予想もしていなかった出来事が起こった。



「私と結婚してほしい」



 突然ハルが私の目の前に跪いたと思うと、そう告げられたのだ。

 以前マリアント公爵家の令嬢と婚約者になるはずだったと言っていた。

 そしてその公爵令嬢というのは私のこと。

 素直に嬉しいと思った。けれど自分でいいのかとも。

 もしかしたらハルにとってその約束は、ただの義務になってしまっているのかもしれない。



「えっと、無理しなくても……」



 だから私と無理に結婚する必要はない。そう伝えようとしたのだけど、



「私はレイを愛している。初めて会ったあの日からずっと……。だからどうかこれからの人生を私と共に生きてほしい」


「っ……」



 ハルの言葉に胸がいっぱいになった。

 私にとってハルは特別な子で、大好きな友達。

 離れ離れになってからは顔を思い出すことも減っていったけれど、心の奥にはずっと彼との思い出があって。

 そして学園で再会して、私はハルに好意を抱いた。

 けれど彼は帝国の第二皇子。

 王国にいた頃はもちろんのこと、こうして正式にマリアント公爵令嬢になってからも、この好意は秘めなければと思っていた。

 けれどハルは私を望んでくれている。

 その事実に私の心は震えた。

 ならば私もこの想いを言葉にして伝えたい。



「私もハルのことが好き」


「……それは友達として?それとも男として?」


「最初は友達としての好きだったわ。けれどいつの間にか、好きの形が変わっていたことに気がついたの」


「レイ……」


「でも私は婚約破棄された身……だからこの気持ちを伝えても迷惑なんじゃないかって」


「迷惑なんて思うはずがない!私はレイ以外の人と結婚なんて考えられない。だからどうか、どうか私を選んではくれないか?」



 熱の籠った瞳はまっすぐに私を見つめていて。

 不安がないと言えば嘘になる。

 けれど彼と一緒ならば乗り越えていける、そう思えた。



「……はい。よろしくお願いします」



 そうして私たちは婚約をした。

 これまで全くと言っていいほど浮いた話がなかった第二皇子と、突如として社交界に現れたマリアント公爵令嬢の婚約。

 それはもう国中が大騒ぎとなった。

 突然の発表だったので批判的な意見が多いのではと心配したが、その心配は杞憂に終わり、たくさんの人たちから祝福の言葉をもらった。

 ただハルを狙っていた人たちからは心ない言葉を掛けられたが、私自身が彼の隣に立ちたいと望んだのだ。

 だから私は自分にできる限りの努力をする。そして、それをその人たちに見せつけてやる。


 以前の私ならとても考えもしないようなこと。

 けれどいつまでも守ってもらうばかりではダメなのだ。

 私も自分を、家族を、そして愛する人を守れるように強くなりたい。


 結婚式は私が二十歳になったらと決まった。

 私もハルも結婚適齢期。本当ならばもう少し早くてもいいくらいだ。

 しかし私はまだ帝国に帰ってきて日が浅く、ようやく家族と穏やかな時間を過ごせるようになってきたのだ。

 ここですぐに結婚してしまえば、その穏やかな時間を奪ってしまうことになる。

 レイにはもっと家族と過ごす時間が必要だと、そうハルが言ってくれたのだ。

 その言葉が、気遣いが本当に嬉しい。


 王国で王太子妃教育を受けていたこともあり、皇子妃教育は教師陣からのお墨付をもらい、早いうちに終わった。

 そして教育が終わった今、私は家族やハルと優しく満たされた日々を過ごしている。


 そんな日々の中で、祝福の一族について父に尋ねてみた。



「私たち一族はね一生に一度、自分以外の誰かに祝福を与えることができるんだ」



 そして祝福を贈られた人は、幸せな人生が約束されるのだという。

 ただ力の発動条件はいまだに解明されていないらしく、またその条件も人それぞれなのだとか。

 ちなみに先代である祖父は、祖母に祝福を贈ったそうだ。

 父はまだ力を発動させられていないが、もしその時が来たら母に贈りたいと言っていた。

 なんて素敵なのだろう。

 その話を聞いた私も、いつかハルに心からの祝福を贈れたら……そんなまだ見ぬ未来に想いを馳せた。



 ◇



 それから月日は流れ、結婚式当日。

 準備を終え、控え室でその時を待っていた。



「……ねぇハル」



 突如として新しく始まった帝国での暮らしにも慣れ、家族との時間を大切に過ごしてきた私だが、二十歳を迎え今日彼の元へと嫁ぐ。



「あのね、今さらなんだけど……」


「ん?どうかした?」



 なんだかんだと、これまで口にしてこなかった言葉。

 こうして改めて口にするのは緊張する。

 けれどこの大切な節目の日。きちんと伝えたい。



「私を見つけてくれてありがとう」



 今の私があるのは彼のおかげ。

 寂しく貧しい孤児院での出会い。

 あの出会いが、こうして私の運命を変えてくれた。



「この幸せがあるのはハルのおかげ……ってハル?」



 突然ハルに抱きしめられた。

 力強くもあり、それでいて優しい抱擁。



「……私がもっと、もっとレイを幸せにする」


「今も十分幸せよ?」


「いや、今よりももっと幸せにするし一生大切にする」


「ハル……」



 どうしてこんなにドキドキするのだろう。それにじんわりと胸が温かくなる。

 抱きしめられるのは初めてではないというのに。



「これからもずっと私の側にいてほしい」



 ハルは身体を離し、熱の籠った目で私を見つめ言った。

 ずっと側に……私の答えはもちろん決まっている。

 私も彼の瞳を見つめ、口を開いた。



「私もずっとハルと一緒にいたい。二人で幸せになりましょう」


「ああ。レイ、愛している」


「私も愛しています」




 こうして偽物だと言われた令嬢は、帝国の地で本物の家族と愛を手に入れ幸せに暮らしたのでした。


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