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「こ、皇帝陛下にご挨拶申し上げます」
まさか皇帝から声を掛けられるとは。急ぎ礼をする。
「ははは!そんなにかしこまらないでくれ」
「は、はい」
「ふむ……銀髪に新緑の瞳、それに顔も公爵夫人とよく似ている」
皇帝は何かを呟きながら、これでもかというくらい私を見ているが、この状況はどうすればいいのか。
黙っていればいいのか、何か言った方がいいのか……
「父上、彼女が困っているのでやめてください」
そう言ってハルが私と皇帝の間に割って立つ。
どうすればいいのか分からず困っていたので、正直ホッとしたのは秘密だ。
「おっと、すまない。うら若きお嬢さんに失礼だったな」
「い、いえ……」
「レイ、この人のことは気にしなくても大丈夫だよ」
「え、でも」
皇帝相手に気にしないなんて無理に決まっている。
「こらこら。お前は何を言っているんだ」
ただこんな風に軽口を言い合える関係であるのは羨ましい。
そんなことを思っていると、皇帝が自身の後ろに立つ人物に声をかけた。
「ほらニールもこっちへこい」
「……はっ」
皇帝の姿に重なっていたためその姿が見えなかったが、ニールと呼ばれた男性が一歩前へと出てくる。
「……」
銀髪の男性は私を無言で見つめた。
その新緑の瞳は、涙で潤んでいるように見える。
そして少しずつ近づいてくると、私の目の前で膝をついた。
「あの……」
思わず声を掛けてしまった。
どこか具合でも悪いのか。
初めて会ったはずなのに、どうしてだかこの男性のことが心配で仕方がない。
「……顔を」
「?」
男性が何かを呟いた。ただその声は小さくなんと言ったのかは分からない。
けれど次に発せられた言葉は、しっかりと私の耳に届いた。
「顔をよく見せて、くれないだろうか?」
「っ、は、はい……」
拒否することも当然できた。
しかし私の中の何かが、それを望んでいなかった。
私は肯定の言葉を口にし、首を縦に振る。
すると男性の手が、壊れ物を触るかのように私の頬に触れた。
「ああ……本当にイリスにそっくりだ。目も、鼻も、口も……そして私と同じ色の髪と瞳……間違いようがない。この子は私とイリスの娘だ……!よかった、本当によかった……」
そう言って目の前の男性は涙を流しながら、私の手を強く握りしめた。
痛くはない。むしろ心地よいくらいだ。
「やはりか」
「ええ、ええ。間違いありません。引き離されたあの日からずっと、この日が来るのを待ちわびていました……!」
彼らの会話から、私はこの男性の娘なのだろう。
けれど突然の出来事で、まだ頭の中で整理がつかず、どう反応すればいいのか分からない。
「ハル……」
私はハルに助けを求めた。
「ニール殿。こうして再会できたのは喜ばしいが、彼女が戸惑っている。少し落ち着いてくれ」
「っ、す、すまない!」
そう言って握っていた手を離してくれたが、手を離されてホッとしたような寂しいような、なんともいえない気持ちになった。
「では早くこの茶番を終わらせ、皆で国へ帰るとしようか」
「はい」




