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98.この世界の魔法の原理原則

 遺伝子工学では作り出せなくても、この世界でなら作り出せる方法。


 幻獣を――?


『ものの組成や原理を深く正しく分かっとったら、この世界の魔法使いが出来ひんことまで出来んねん。この世界の魔法は、魔法使いが見て知っとることをイメージすることで成り立つんやけど、俺らは前世で習っとるから見えへんことも原子レベルでよう知っとる。それを意識して集中して魔力使うと、この世界では誰もせえへんことが出来るようになるんや』



 四年前にハートリー領で塁君が言った言葉。



 あれから何度もこの言葉を証明するかのような出来事が起きた。ユニコーンの実現も、きっとこの原理原則に関係してるんだよね。だけど幻獣自体が想像上の生き物である以上、深く正しく理解するのは無理なんじゃないかな。だって誰も見たことがないし、前世で習ってもいないから。


 色々考えても思いつきもしなくて、私は『降参』と白旗を上げた。



「エミリーは変化の魔法を使えるか?」

「え、ううん。使えない」


 変化の魔法。いわゆる『変身』だ。高度な技術が必要なので余程の魔法エリートでなければ使えない。


「使ってる者を見たことは?」

「昔、魔法学の家庭教師の先生が見せてくれたことがあるよ」

「何に変化していた?」

「可愛い猫になってた」


 ああ思い出した。先生は目の前で可愛い黒猫になって、『次は白猫さんになって』とお願いしたら白猫になってくれた。だけど『次は三毛猫!』と言ったら先生は三毛猫を知らなくて、それには変身出来ないと言われたんだ。絵を描いて説明したけれど、例によって私の絵で分かるはずもなくダメだった。



「変化の魔法も、この世界の魔法使いが見て知っている動物にしかなれないんだ」

「先生に三毛猫をリクエストしたけど、知らないから出来ないって言われたよ」

「この国に三毛猫はいないからな」

「えっ! そうだったんだ!」


 あれ? じゃあやっぱり誰も見たことが無いユニコーンになんて変身できないよね? あぁ、シリウスにならなれるってことかな。


「ネオは誰より動物の解剖学にも骨格にも精通している。あいつが幻獣の体を医学的に実存可能な体として設計出来れば、変化出来る可能性がある」


 な、なんて? 医学的に実存可能な体?


「さっきの天使の翼を例に出すと、人間の体のシルエットを保ったままでは飾り程度の翼しか持てないが、人が持っていない竜骨突起を持たせ、胸筋を大幅に増やし、竜骨突起に付着させることで飛翔能力を持たせる。肩甲骨も形を変え、鳥類のように脊椎に平行な長いブレード状に変える。そして鎖骨は左右を繋げて叉骨とし、胸骨からは独立させる。そして骨密度を下げ含気骨にし、骨量を体重の5%程度に軽量化する。人間の現在の姿とは大きくかけ離れたシルエットになるが、ここまですれば人間の体に飛翔可能な翼を持たせることは可能なんだ」


 も、も、もう、それ、天使じゃない!


「とんでもない鳩胸になるな。乳房も左右離れるし、背中も首の付け根から筋肉で盛り上がる」

「怖いよ!」

「何処か少しでも説明のつかない部分があれば変化は出来ない。ただネオの知識と考察力があれば幻獣の何種類かは可能だと俺は思う」


 でも、それって、ネオ君本人が幻獣に変化するってことだよね。


「ネオの魔力はそこまで強くないから長期間変化するのは難しいだろうけどな」

「いや短時間でも凄すぎるよ」

「自分自身が変化したところで一種類、一頭だけだからあまり意味が無いだろうし、やらないだろう」

「る、塁君も変化の魔法、使えるの……?」

「まぁ一応な」

「!!」


 そうだったんだ! 知らなかった! ああ、どうしよう。転生してからどうしてもどうしても触りたかった動物がいる。これもこの世界にはいない動物。日本のワンコ。


「柴犬になって欲しいな……」

「出たな柴ワン。俺達血族の宿敵」

「血族の宿敵?」

「なんでもない」


 前世で小鉄をモフモフワシャワシャしていた日々を未だに思い出す。この世界にもワンコはいるけれど、日本犬は見つけられなかった。洋犬も可愛いし好きなんだけど、小鉄のあのほっぺのモチモチ感とか、お耳のビロード感とか、しっぽの巻き巻き感とか忘れられない。


「まぁこの制服も魔法仕様の繊維だし、変化で脱げる可能性も無いからいいだろう」


 そうか、普通の服なら小さい動物になったら脱げるし、大きい動物になったら裂けちゃうのか。危ない危ない。


 この学園の制服も、魔術師団の制服も、魔力で紡いだ特殊な繊維で出来ている。着てる人間が使う魔法に合わせて形態を変えてくれる便利アイテムなのだ。



「じゃあ少しだけな」



 そう言うと塁君はシュルシュルと変化し、小鉄そっくりの雄の柴犬になってくれた。



「ひゃぁぁああ! かっ、かわわーっ!!」



 十七年ぶりの柴犬に興奮が止められない。



「あぁー、可愛い可愛い可愛い可愛いッ!!」



 モチモチほっぺにムニムニと頬ずりして、顔中にちゅっちゅとキスをする。どこもかしこも可愛い!



「何やこれ……楽園やん……」



 目の前の小鉄そっくりの柴犬が関西弁を喋り出した。



「あ、学園だった。あまりの幸福度に思わず関西弁が出てしまった……」



 慌てて公用語に戻る柴犬に思わず吹き出してしまう。



 膝に乗せて抱っこし、しっぽの巻き巻きを手首に巻いてフサフサを楽しんでいると、遠くからアリスが走ってきた。



「わぁ! 柴犬!? 柴犬じゃん!! すごい! 私にも抱っこさせてー!」



 まずい。これは塁君なんだけど。思わず柴犬をギュウッと抱き締めると、しっぽを振ってスリスリと顔をこすりつけてくる。はうぅ、可愛い……。



「この世界で初めて柴犬に会ったかも! ワンちゃん首輪してないし迷子? いい子いい子!」


 アリスは塁君と知らずに頭をなでなでしている。どうしようこの状況。しばらく塁君には無言で我慢しててもらおうか。



「私が一番好きなのはトイプーなんだよね。レオと結婚したら飼いたいなぁーって思ってるの!」


 うんうん、トイプーも可愛いよね。


「ねぇねぇ、私にも抱っこさせて! 今猛烈に癒されたいの! あの悪魔のストレスで禿げそうだもん!」


 そう言ってアリスが柴犬にキスをしようと顔を近づけた瞬間、重低音の関西弁が響いた。




「おい。悪魔て誰のことや」 




 アリスは柴犬と至近距離で目を見開いたまま固まり、数秒後には震え出した。


「あわわわわ……」

「ワレ、ええ度胸しとるやんけ」



 私の膝からピョンと地面に降りたつぶらな瞳の柴犬は、見る見るうちに187㎝の第二王子に姿を変えた。



「ああ、あ、あ、悪魔っていうのはぁ! ルイ殿下のことではなくてぇ!!」

「往生際が悪い」

「ほほほ本当に! あは! 夢に! 夢に悪魔が出てきて!!」

「どんな悪魔や」

「ぎ、銀髪にぃ、青い目のぉ……」

「俺やないかい!!」


 ギラリと瞳を光らせた塁君は、魔法でアリスの髪の毛を一瞬でアフロにさせた。見事に真ん丸シルエットでビション・フリーゼというワンコみたいになっている。ちょ、ちょっとだけ触りたいかも。


「うわぁぁ! 酷い! 聖女の扱いが酷い!」

「誠心誠意謝って、今後宿題もやってくるなら戻したる」

「すみませんでした! 宿題も全力でやります!」

「よし」


 元の髪に戻ったアリスは一目散に一般クラスに走って逃げ、校舎に入る瞬間に塁君に向かって一瞬だけ『イー!』と歯を出した。見えてないとでも思っているのだろうか。



「宿題三倍量に増やしたる」



 当然見えていた塁君に、報復の宿題三倍増を決心させてしまった




 こうして更にアリスの地獄の個別指導は過熱し、三ヵ月間みっちりしごかれたアリスを連れて、私達はいよいよ研修旅行へと向かった。







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