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64.作戦は始まっている

 王都の平民の間で、前触れもなく病に侵される者達が現れ始めた。


 住んでいる場所も性別も年代も共通点が無く、症状も全く違う。そのため診療所の医師にも『原因不明の難病』とされていた。


 その一人、アリスの隣の家に住む女性ドリーも、先週から体調を崩していた。


「あれ、ドリーさん、今日も神殿ですか?」

「あぁ……アリスちゃん。最近刺すように腰が痛くてねぇ……今朝はとくに心配なことがあったものだから、神様にお祈りに行かないと」

「とくに心配ってどうしたんですか?」

「あのねぇ……お小水に血が混じってしまってねぇ……」

「(結石じゃん? 前世でママもなったことある!)私が治します!」

「えぇ? 本当に?」


 アリスは胸の前で手を組んで光の魔法を発動させた。


 キラキラと金色の光の粒子がドリーの体に降り注ぐ。


「あ、あれ、腰の痛みが消えたよ!」

「やった! 効いた!」

「ありがとうアリスちゃん! あんたも聖女かもしれないねぇ」

「ははは(私だけが聖女なんだけどな)」


 神殿にセリーナがいる以上、聖女だなんて目立って神殿に呼ばれるのは避けたい。


 それにもう攻略対象者に聖女アピールしてどうこうするつもりもない。だからこうやって身近な人を治してあげれたらそれでいい。


 アリスはそう思っていたけれど、ドリーはまた次の週には同じ症状で寝込んでしまった。痛みでもう起き上がれないらしい。


「ドリーさん、ごめんねちゃんと治してあげられなくて……」

「いいんだよ。やっぱり神殿に行かなきゃ。なかなかお会い出来ないけど、聖女様にお会い出来ればきっと良くなるよ……いたたた」

「少しの間は良くなるかもしれないから、もう一度治させて」

「ありがとう、この痛みがすぐにでも消えるなら頼むよ」


 アリスの魔法でドリーの痛みは消え去った。しかし根本的治療にはならないとアリスは気付いていた。


『またきっと遺伝子をどうにかされてるんだ。私が治したのは今ある結石の症状だけ。治してもすぐにまた結石が出来てしまう原因が私には分からない……悔しいな……』


 ドリーのご主人から裏通りに住む幼いジムも先週肺病に罹ったと聞き、すぐに駆けつけ光魔法で治療した。しかしジムもまたすぐに肺病を再発してしまった。これもアリスには原因が分からない。何度光魔法を使っても、今現在の症状しか治せなかった。何故そんなにも簡単に何度も肺病に罹ってしまうのか。そういえば肺病を患う前はジムもよく神殿に行っていた。神殿では子供達にお菓子をくれるからだ。


『ドリーもジムも神殿に通ってた過去があって、治しても治してもすぐにまた同じ病気に罹る。光魔法も効かないし、セリーナが原因としか思えないよね。何をどうやったらこんな事になるの?』


 ヒロインで聖女の筈なのに、民の苦しみを取り除けない。植物の病も人間の病も治せない。光魔法が効かないことくらい予想はしていたけれど、身近なドリーとジムの苦しむ姿を目の当たりにして胸がずっしり重くなった。


 こんな時はレオに会いたい。また頑張るために。





 ◇◇◇





「本日もだいぶ顔色が良いようですね」

「ありがとう、ジュリアンの看病のおかげよ」

「いえ、聖女様を想う人々の祈りと、セリーナ様の民を救う行いに神がお応え下さっているのでしょう」

「ふふ、そうね」

「午後にどうしても私がお相手しなければならない方が神殿にお見えになるのですが、セリーナ様に何かあってはいけないので早めに抜けて参ります」

「いいえ、私は今日は気分もいいし、ジュリアンも仕事を優先して」

「私の一番大切な仕事は聖女様のお世話です」

「あなたの気持ちは充分に分かっているわ。でも神殿にとって大事なお客様のお相手をするのも大切なお仕事だわ。私は構わないからそちらを優先して頂戴」

「なんとお心の広いことでしょう。それではそうさせて頂きます。昼食の片付けをした後、三時間ほど聖堂におりますので」

「分かったわ。心配性ね」


 この数ヵ月、ずっと一緒だったジュリアンが初めて別行動になる。しかも体調はここ数日良くなっていて、心配していた内臓疾患も快方に向かっているようだ。


 このチャンス、逃すわけにはいかない。


 どうしても外に出れなかった私は、神殿を訪れる礼拝客に実験を施した。神殿に来た直後に病気になった等と広まったら、聖女の名声に傷がつく。だからなるべくなら避けたかった。しかしこうなっては背に腹は代えられない。19番以降の染色体も焼いてみて、結果が分かったものはラボノートに記載していった。


 不眠症に認知症、結石に貧血に肺炎、本人が病気平癒の祈りに来たり、家族が来たりして大体の実験結果は把握したけれど、今一つ派手さに欠けるものばかり。


 やっぱりあの二つの部位を焼くのが良さそうだ。


 皮膚が硬くなって亀裂が入る奇病、病名は知らないけれど見てすぐ病気だと分かるしすぐには死なない。もう一つは急激に老化する奇病。こっちも病名は知らないけれど何かで見た気もする。人間の病気は専門外だからよく分からないけれど、どこに原因遺伝子があるのかは実験で分かった。


 この二つは民が一目で見て病気だと分かる。そして見たこともない症状に間違いなく恐れ慄くだろう。原因不明の疫病と思い込んだ民衆が神殿になだれ込んでくるに違いない。



『そこで私が治すのよ。自分で焼いた炎の魔法を取り消してね。人々はそこに聖女を見るの。むしろ私の姿は神に近いかもしれないわ。


 ふふ、ふふふ。楽しみだわ。攻略対象者達も私を意識せずにはいられないでしょう。第一王子の妃になってみせるけど、他の男達もどうしても私に(かしず)きたいならさせてあげましょう。


 あの第二王子もそこに入っていたら面白い。あの鈍くさい姉がショックを受ける姿は笑えるでしょうね。あの姉はずっとしょうもない料理でも作っていればいい』


 昼食を食べても、もう体調を崩すことは無かった。今日なら外に行ける。


『私は聖女だから民に見つかったら取り囲まれてしまうわね。残念だけど目立つ装いは出来ない。セレブってこういう気持ちなのね』


 ジュリアンは聖堂へ行った。三時間後には戻って来ないといけない。大丈夫、人の多く集まるところへ行けばいい。市場と中央広場、時間があれば貴族向けの商店街も。貴族からも『聖女を王妃に』という声が上がれば、より王室にも影響があるだろう。


 『それでは仕込みに行きましょうか』


 今日の日のために用意していた平民の服を着て、セリーナは神殿を抜け出した。







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