表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
65/217

65.ゼインルート解放

 アリスはドリーとジムのことで何か分かる事がないかと、神殿の周りを一人ウロウロしていた。


 光の魔法で治せないのは分かっているが、前世でも今世でも身近であんなに苦しんでいる人間の姿は見たことが無かった。前世の母親も尿路結石を患ったが、痛みを感じてすぐに病院に行き、入院もせずに日帰りでレーザー治療して帰ってきた。


 だから痛みに苦しむドリーの姿と、ゲホゲホと咳込む幼いジムの瘦せ細った姿に、つい居ても立っても居られなくなってしまった。


 そのせいで神殿を抜け出した直後のセリーナに路地でばったりと出会ってしまった。アリスにとってはトラウマものの相手で、平民服を着ていてもすぐに分かった。


「あ、あなた! セ、セ、聖女ね!」


『セリーナ』と言いそうになったのを何とか誤魔化した。何となくエミリー達と関係があるのは隠した方がいいかなと思ったからだ。


「チッ。そういう貴女は元ヒロインね」

「(し、舌打ち!)そ、そう。元ヒロインです。別にそれはいいの。あの、私の近所の住人二人が病で臥せっていて、私も治せないの。聖女の貴女なら治せるんじゃないかと思って」

「ええ、そうね。私が本物の聖女ですもの。治せると思うわ」

「お願い! 二人を治して下さい!」

「何故私が?」

「だって私は偽物の聖女みたいだから。本物の聖女が民の病気を治すってシナリオでしょう?」

「ふ、ふふっ、そうね、よく分かってるじゃない」


 セリーナは満足そうに冷笑を浮かべ、アリスの言うことを聞いてやる事にした。


(じか)に実験対象の様子を観察出来るのは悪くないわね。まぁ結果が分かればもう用済みだし、魔法を取り消してもいいわね』


『上手くいった……これで二人を助けられる』


 偽物聖女と真正聖女はそれぞれの思惑を抱えながらドリーの家へ急いだ。その二人の後を尾行する者がいることなど、気付かないままに。





 ◇◇◇





「ま、まさ、まさか! 我が家に聖女様が!」


 ドリーは腰背部の痛みでベッドに横になったまま、セリーナの姿を見て声を上げた。感動に打ち震えたドリーの瞳には涙が浮かんでいる。


「アリスに聞いたのよ。今すぐに治して差し上げるわ」


 そう言ってセリーナが胸の前で手を組むと、一瞬シンとした後またセリーナが言葉を発した。


「さぁ、これで終わり。あなたはどんどん良くなる筈よ」

「な、なんと、これで終わりなのですか。あぁ、聖女様、ありがとうございます!」

「女房をお救い下さりありがとうございます! あぁなんとお礼を言えばいいか」

「神の御心です。それでは私は次がありますので」


 そしてアリスに案内されてジムの家に行った。ジムは体調が酷くすっかり痩せ細って咳こんでいる。


「聖女様……このような所にまで足を運んでいただけるなんて……うぅっ、有難いことです」

「せ、聖、ゴホゴホ、聖女さ、ま」

「すぐに助けて差し上げますわ」


 そして同じように胸の前で手を組み目を瞑ると、次の瞬間には目を開けてニッコリとほほ笑んだ。


「ジムはもう治りましたよ。今の症状がよくなれば、もう二度と肺病に罹ったりしないでしょう」

「か、感謝します……! うぅっ! 聖女様!」


 ジムの母親は涙を流してセリーナの足元に跪いた。


「す、すごいです。私には治せなかったのに……」

「そうでしょう。聖女は私ですもの。じゃあ私は急いでいるから行くわ」


 アリスは大きな道までセリーナを見送ろうとついて行った。しかし途中の裏道で『ここでいいわ』と言われてしまったので、その場でお辞儀をして礼を言った。


「今日は突然のお願いだったのに、ありがとうございました」

「ふふふ、聖女の務めですもの」


 そう言ってセリーナが踏み出そうとした瞬間だった。ヒュッと複数の黒い影が視界の端を横切った。


「は!?」


 ならず者のような男数人に抱えられて、あっという間にセリーナが連れ去られた。あまりに見事な早業で、セリーナ本人も目撃者のアリスも悲鳴すら出なかった。


 しかし連れ去られる瞬間に、セリーナもアリスも同時に頭を過った言葉がある。



『『ゼインルート解放!?』』



 事情を知らないアリスはショックを隠し切れなかった。


 疫病イベントを終え、聖女と認められた自分が神殿に入り、その後解放されるFD限定ルート。誘拐されるのはヒロインの自分の筈だった。それなのに目の前でセリーナが連れ去られ、自分はポツンと一人で立っている。これでは本当にシナリオにまで『アリス≠聖女』と見なされたことになる。


「も、もう流石に凹むわ……」


 攻略対象者には一切未練が無いアリスだったが、何から何まで否定されているように感じた。


「レオに会いたいよ~!」


 裏道で一人、空を仰いでレオを思い浮かべた。




 一方セリーナは誘拐される途中にも関わらず、ニヤリと半笑いで状況を楽しんでいた。


『シナリオまで私をヒロインと認めたのね。既に神殿に入っていて、農作物の病も治し、ついさっき民の病気も治したからだわ』


 本来のヒロイン・アリスの前で自分だけが攫われたことにも満足した。


 品評会の時もアリスの目の前で薔薇を蘇らせ、人々は自分こそを聖女だと崇めた。農作物イベントでもアリスが役立たずだったことは、神殿に押し掛けた農民達から聞いていた。


 アリスが治せなかった近隣住民を治し、目の前で自分だけが聖女様と敬われた。なんて気分が良いのだろう。


『でもまだ疫病イベントは終わってないわよ。疫病イベントは私が作り出すのだもの、こんなもんじゃないわ。それにしても三時間しか時間が無いのに、次から次へと時間をとられるわね。まぁ、ゼインを上手く躱してから市場へ行けばいいわ。ゲームでは攻略済みだもの。どう振る舞えば殺されないで済むかなんて知ってるわよ。それに大人のいい男を見れる絶好の機会だしね。ふふっ』


 ゼインの隠れ家の一室に放り込まれた時も、ゲームと同じ部屋だとワクワクした。もうすぐ、もうすぐ現れる。


 ギィィと軋む音を立てながらドアが開き、長身の男が入ってきた。


『来たわ!』


 自分の前に椅子を置いてドカッと座る男。その長い脚に見入ってから視線を上げると、そこにはゲーム通り、鋭い目つきの黒髪の美青年が憎悪に満ちた表情で座っていた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ