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 「柔らかな風に包まれ、花咲く暖かな訪れのよき日にこの日を迎えられて大変嬉しく思います――」


 壇上に立ち、新入生代表の挨拶をする私は冷静にスラスラと話す自分に驚いている。イベントと異なる事に渋々受けたが大勢の人の前で話すのは緊張するし、どうしようかと落ち着かない気持ちであった。何せ紫織の性格があるのだから。

 けれどヴィオレットとして生きてきたのもプラスになったようで良かったと思う。後押しというか。周りが自信を持たせてくれるというか。


 「――諸先生方、先輩方のお力を借りることもあるかと思います。その時はときには厳しく、そしてときには温かくご指導下さいますよう、よろしくお願い申し上げます。同じ学び舎の中で、共に成長し、助け合い、生徒皆平等に、切磋琢磨しながら励んでいきたいと思います」


 本来ならばヒロインであるカノンがこの場にいた。壇上から見下ろすと薄桃色の髪をしたよく知った顔が見える。

 ――可愛い。

 たまにゲームでヒロインキャラを好きになれないゲームもあったがこのゲームでのヒロインは好感がもてた。ビジュアルも良いし性格も優しく穏やかでありながら芯が強く前向きで、少し天然な可愛らしいキャラ。

 

 これからどうなるんだろうか。ヒロインと話してみたいけど、変に関わって変なフラグ立ったら困る。


 新入生代表の挨拶も終わり、式は滞りなく進んでいく。フィルマの挨拶の登場の時はそれはそれはもう女生徒の歓声が凄かった。話し出すとパタっと静かになり真剣に耳を傾けている。さすが人徳と人気を兼ね備えている人物。

 表情も子どもの時より豊かになったと思う。……本当立派になって。


 「ヴィオ、とても良い挨拶だった」

 「ありがとうございますフィル様」

 式も無事終えて、晴れて学園の生徒となった私は誰もが知る人物となっただろう。新入生代表挨拶をし、このフィルマの婚約者でもあるのだがら。

 

 ちなみにフィルマとのイベントは、【フィルマとの出会い】という名の序盤イベント。初めての出会い、挨拶に緊張するカノンにフィルマが優しく声をかけ励ますという初期のイベントなので甘さとかは特にないが。優しく微笑む顔は新入生を見守る先輩としての立ち位置。

 私はというと、ギリギリに来たせいかフィルマとはゆっくり話すことはなかったので離れたところから微笑みかけられたくらいだ。そもそも初めての出会いでもないけれど。

 カノンがどのようにして対象者達と関わっていくのだろうか。私がイレギュラーな存在になってしまったせいで、ゲームストーリーは変わるのか、それとも強制力なんてものがあるのか、今の始まったばかりの段階ではよく分からない。


 「ヴィオ?聞いているか?」

 「え?あ、」

 考え事をしていたのでフィルマの話を全く聞いていなかった。

 「今度サロンに来るといい。俺らしか入れない所だから」

 「サロンですか?」


 そういえば、ヒロインが生徒会専用のサロンに居たのを思い出す。他にも令嬢の集まりだったり、趣味を嗜む会だったり色んなものがある。まあ現代でいえばクラブ活動のような、それよりもゆるいけれど。お茶をしておしゃべりみたいなもの。


 「王都で流行りのスイーツを取り寄せしているんだ、好きだろう?」

 「是非行かせていただきます」

 「返事早っ、ヴィオ嬢はあれだな。甘い餌で釣れるってやつ」

 スイーツと聞いて、そして王都で流行りと聞いては食べないわけにはいかない。そんな食い気味の私の態度にカイルが何だかもの凄く失礼な事を言う。

 「あら、私はお腹を空かせた動物ではありませんわ」

 「ふ、悪い悪い。美味しいお茶も用意してあるからな。紅茶もあるし、最近巷の花茶もあるぞ」

 「まあ!それは素敵です!」

 花茶は言葉どおりお花を入れたお茶。茶葉とドライフラワーを何種類かブレンドして、香り、味、色、見た目の美しさを楽しむことができる。更に花茶には花言葉のような意味があって女性にとても人気があるのだ。

 「くく、」

 面白そうに私を見てくるカイルはもう知らんぷり。

 「カイルあまりからかわないでくれるか」

 「まったくですわ」

 フィルマが呆れたような顔をしてカイルに言うと私を見て微笑んだ。いつもその顔に何故かドキッとして照れてしまう。まるでゲームでヒロインに見せるような優しげな顔をヴィオレットに向けてくる。

 「……甘い物に瞳を輝かせて、かと思ったらふくれたり、そんなコロコロ変わる顔を他の男に向けるなど、」


 フィルマの近づいてくるその距離に、そして私の頬に寄せるその手に、

 「あまり可愛い顔を見せると、少し妬けるな」


 ――心臓の音が一気に早くなった。


 「っ、フィル様こそ、か、からかわないで下さい」

 ヴィオレットにこんな顔をするフィルマなど知らない。それはヒロインに向ける顔だ、多分今の私は顔が真っ赤になっているだろう。何でこんなにドキドキするの。


 恋愛経験ゼロすぎてそんな一言一言に対応できない、前世で恋愛していればよかったなんて思う。恋できるのかな……。この世界で。ふと恋に生きる親友を思い出した。きっと美香だったらイケメンだらけの世界で肉食ぶりを発揮しそうと思ったら笑ってしまう。


 「何ニヤニヤしてんだ」

 カイルの突っ込みに、顔に出てしまっていたのを慌てて引き締める。

 「サロン楽しみですわと思いまして」

 「やっぱり食い気だな」

 「……」





 教室に戻るとマーガレットが近づいてきて、素敵な挨拶でしたわと笑顔で話しかけてきた。それに便乗するかのように令嬢達が集まってきた


 「ヴィオレット様、お久しぶりぶりでございます」

 「あ、先日エインズワース領で作られている化粧水いだきましたの。とてもお肌の調子が良くなりましたわ」

 「まあ、本当ですの?それは気になりますわね」


 私の目の前で女子力向上会話を繰り広げる令嬢達、その名も、悪役令嬢ヴィオレットの取り巻きA、B、Cだ。ちゃんと名前はあるのだがゲームでは省略されていたため、転生して初めてモブ達の名前を知った。ちなみにマーガレットは取り巻きD。

 すると、ヒロインであるカノンが前から教室に入ってきたので、取り巻き令嬢達と私はカノンに目を向けた。その視線に気付いたのかカノンもこちらを見てくる。


 「あの方ですよね、聖なる乙女の力の持ち主という方は」

 「元は平民で孤児だったとか」

 「まあ、ヴィオレット様がいるこちらに挨拶もこないなんて」

 ひそひそと話す取り巻き令嬢達に少し焦りを覚えた。

 「それに、式が始まる前に殿下やカイル様達と親しげに話されていましたわ」

 「そうですの?立場をわきまえてないのかしら」


 え――。フィルマ達と話していた?いつのまに。それよりも令嬢達がカノンに対して良く思ってないのが分かり、これはヤバイと思った。私がここでノッてしまったら、それはもう破滅の道。小さな悪意はやがて大きくなる。

 カノンはいまだジーッとこちらを見ているまま。


 「皆様でそんなに見てらしたらカノン嬢が困りますわ。私は気にしておりませんし、聖なる乙女は国にとってありがたき存在です。貶すような発言は慎むように」

 集団に見られてしまっては萎縮してしまうし、何より空気を悪くしたくはない。ゲームではヴィオレットと貴族のご令嬢に囲まれ、『あら、貴女が聖なる乙女ですの?ふーん。だからといって殿下に馴れ馴れしくするのはいかがなものです?』カノンを見下し敵意を見せるヴィオレット。


 「せっかく同じ学園ですし、カノン嬢含め皆様と仲良くしていきたいですもの。楽しい学園生活にしたいですわ」

 取り巻き令嬢達にも幸せな道を進んでもらいたい。ヴィオレットを裏切るにしても、ヴィオレットに協力してしまった彼女達は命をとられることはなかったが、婚約破棄や貴族籍の除籍、厳しい修道院へ送られるなどの、あまり良い未来ではない。

 「そうですわよね……。申し訳ありません。ですが、ヴィオレット様に失礼な方がいましたら私お守りいたしますから!」

 「……ありがとうマーガレット様」

 意気込むマーガレットに周りの令嬢もうんうんと頷く。これは大丈夫、よね。


 「席につけー」

 そんな中ガラッとドアを開けて入ってきた先生の声で私達は会話をやめて早々と席についた。

 ふうと息をつく、と同時に視線を感じたのでそちらを見るとカノンと目が合う。


 ――何故?

 またもやジーッと見つめられているので若干たじろいだ。そんな見つめ合いに折れてニコッと笑いかければカノンもまたニコッと笑い返してきたのだ。


 こっちが萎縮してしまった。

カノン・フローレス 

ゲームのヒロイン。聖なる癒やしの力をもつ、聖なる乙女。


マーガレット・クレイン

伯爵令嬢。ヴィオレット信者。


ダリア

デイジー

カンナ

ヴィオレットの取り巻き令嬢



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