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金玉が癌になった男の話  作者: 久川ちん
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2 2018年2月 その1

その日は早朝から雪が降り積もっていた。

昨晩、家に戻ってから急いで入院の準備をして、天気予報で雪が降るのが判っていたので早めに出発する準備をしていたが、入院する本人の車で病院に行くわけにもいかず、母の軽自動車で無事に病院まで行けるだろうかと心配してた。

しかし、昨晩入院にあたり保証人が必要なので、事の次第を話して保証人になって貰った叔父が心配して車を出してくれた。


余談だがこの叔父は数年前から山中に入り、鉱石などを集めるのが趣味になっていたため常に車にスタッドレスのタイヤを履かせていたのだと言う。

それでも念の為予定よりも早く出発した。


雪のために道路は一部で混雑し、徐行運転となったが病院に着いたのは予定の時間よりも1時間以上早くなってしまった。


病院に着いて支援センターという、入院のサポートをする窓口の職員に用件を伝えると、流石にまだ準備ができていなかったらしく、少し待っていてくれと申し訳なさそうに言われたが、予定より早く来たのはこちらなのでそのまま入院棟のロビーで少し待っていた。


急いで気を利かせてくれたのか、まだ予定の時刻にならないうちにベッドの準備ができたと言われ、入院棟の6階にある血液内科と泌尿器科の病室へ案内された。


荷物を下ろすとまず、入院患者の面会人が利用する談話室に隣接した医師が患者にあれこれと説明する部屋で男は母と叔父と一緒に医師の説明を聞いた。


医師の説明によると、昨日の血液検査とPETCT検査により、地元の病院で血液検査をした時よりも癌の反応を示す数値が跳ね上がっているので早急に入院をする必要があったと言う。

そして右の睾丸が倍以上に膨れ上がっているため、そこにがん細胞があり、検体を取って検査をする為にも右の睾丸を手術で摘出する必要があるとの事であった。


男は右の睾丸が少し膨らんでいるのは気づいていたが、痛みも無く、一度は収まって小さくなっていたような気がしたので熱によるものだと思っていた。

ここにきて漸く、以前に見たアメリカのスラップスティックアニメで主人公の父親の金玉が癌になり異常に大きくなって、それに乗って移動するという話があったのを思い出した。

あんなのではいざ自分の金玉が癌になった時に結びつけるのは難しいだろう。

睾丸の摘出手術にあたり、いくつか説明を受けたが結局のところ素人に解るわけはないので医師に任せるしかない。


医師に付き添っていた看護師が気を使って、精子バンクの話を出したが医師は


「そんな時間は無いよ」


と斬って捨てた。

誤解の無いようにキッパリ発言するのが最近の医師の主流らしいが、男にしてみれば、なんと言うかこう、もう少し手心を…という気分であった。


その後いくつか書類にサインをし、その日のうちに骨髄液の採取と右の睾丸の摘出手術をする事になった。

四人部屋のベッドに戻され、手術着という男がアニメや映画の中でしか見たことのなかった背中側の空いた服に着替えさせられ、少しすると看護師がやって来て、手術の準備のために剃毛をすると言う。要は陰毛、チン毛を剃るという事だ。


少々ふっくらしているものの、それなりに若い女性の看護師がそんな事をするのだなあ、エロ漫画みたいだなあ、本当にあるんだなあ、と男は感慨深くなった。


男としてはこの歳で恥ずかしがることも無いので、ベッドの上で素直に下半身を丸出しにして仰向けになっていると、看護師が見たことの無い形状の小さな電気シェーバーのような機械のスイッチを入れて下の毛を剃り始めた。

下腹部の部分は何ともなかったが、玉袋やその裏側のあたりの毛に差し掛かると、その機械は毛を巻き込んで男に激痛をもたらした。


これも余談であるが、退院した後、某出版社のパーティーでその事を同業者に話した時、もしや女性の看護師に毛を剃られて興奮しないためにわざと痛くするのではないかと指摘されて、男はなるほどそういう事もあるのかと納得したが、その時はただ少々以上にふっくらした女性看護師の技能を疑うのみであった。


結局、機械では上手く剃れず、クリームを縫ってカミソリで剃ってもらって漸くそれは終わった。

最初からそうして欲しかった。

もはや男はエロ漫画のようなシチュエーションを喜ぶどころでは無かった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 痛々しい話ですが、ぜひ続きを! 経験者より
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