05
「おう、氷守。なんだ、帰るのか。どうせ暇なんだろう?いても良いんだぜ」
扉を出たところでばったり東條に遭遇する。
「な。そうやってただ働きさせる気ね、東條さん。そうはいかないんだから!あたしにだって予定のある日くらいあるのよ」
「なんだよ。珍しいじゃねーか、その調子で毎回予定入れておけよ。枯れた休日を過ごすにはまだ早えぜ」
そう軽口を残して扉の奥に消えていった。
「余計なお世話よっ!」
閉まった扉に向けて舌を出して。プイっと歩きだす。たしかに家でゴロゴロする以外の休日はもっとあってもよいとは思う。しかし圧倒的に足りていないのだ。何がって、自分の人気とファンがである。しかし、今日は珍しく有志が動いてくれて撮影会があるのだ。路上撮影会だが、撮影に来てくれるファンが確実にいるのがこれまでと違うところだ。なんてありがたいのだろう。会場の地に一人でぽつんと待ち惚け。なんてことは無いと担保されているのだ。こんな好条件はめったに無い。否が応でも張り切ってしまう。
「さてと一旦戻っていろいろ準備をしますか!」
家に戻って来た美月は早速撮影会の準備を始めた。
「これどうかな?」
以前の映画撮影で使ったナマクラが面白かったので、通販で衝動買いしてしまったのを美月はミィに見せる。しかし、ミィからは
「それって、一本じゃ何も出来ないじゃん」
という、基本的なツッコミを受ける。
「い、いいじゃない。映画に出た記念よ。記念」
「ふひひ、トランシーバー買ってもらったけど遊ぶ友達がいなかった的な寂しさよのぉ」
「やかましいっ」
ゴキッ!
「いったーぃ」
「ミネウチじゃ、安心せぃ」
「それ、柄じゃんか。しくしく」
「よし、今日これ持っていこう」
「そんなんなんにつかうのさー」
「見せびらかすのよ。」
「ファンの子がおもしろがって買うかもしれないじゃん。
そしたら一緒に遊べるし。ファングッズみたいにして売るかぁ?」
はいはい、美月が何を目指していたのかわからんくなったけど、まあ頑張れ」
ミィが投げやりに手を叩いて応援をする。
「モデルよ、モデル!」
「ミィには路上でゴザ敷いてナマクラを叩き売る的屋の姿が見えるよ」
「何でなのよ!」
ミィにツッコミを入れて、ナマクラをリュックに乱暴に突っ込んだ。
「あとは着替え用に羽織る上着をいくつか詰めてっと」
「こんなものね」
早々に準備を終えてリュックを担ぐ。
「早めに出て何処かでお昼食べましょ」
「美月のおごりね」
「しょーがないわね」
「やりぃ!」
「ミィ、カレーが食べたい。トッピングありで」
ミィが身を乗り出してくる。
「いいけど、そうね。…欲しがりません」
「カツまでは」
「そう。せめて唐揚げまでね」
「了解であります。美月閣下」
カツはお高いので却下。これがいつものルールなのだ。
「いつかきっと、このトッピングでカツカレーきめてやる」
「毎回あたしにたからないで、自分で出せばいつでもたべられるわよ!」
野望に燃えるミィを突き放す。
「そうと決まれば早速行こうぜ!」
「わかったから走り出さない。」
「遅いとおいていくぜー」
「ふーん、自分で出すんだ」
「ミィ猫だからお金もってなーい」
猫の姿になって振り返りつつ軽口を叩いて走り出す。
「だから服を脱ぎ捨てていくのやめなさい」
美月の注意も虚しくミィは先に駆け出していった。きっと屋根や塀の上をうまく使ってショートカットをして行くのだろう。
仕方がないので脱ぎ棄てられたミィの服を抱えて自転車で追いかける。
駅前のチェーンカレーショップにつくと、案の定ミィが全裸体育座りで膝を抱えて待ち惚けていた。
「美月ー。遅ーいー」
「遅ーいー、じゃなくて服を着なさい!」
一喝して抱えていたミィの服をミィに放り投げる。
「ぶーぶー。ミィ、地面に落ちた服は着ない派」
「知らないわよ。それなら地面に落すな!」
そんないつものやり取りを経てカレーで空腹を満たす。美月はほうれん草とコロッケ。ミィは鶏のから揚げ3個をトッピングして大満足で退店した。
もうちょい下準備続きます。




